22. 目立たず生きようとか無理じゃない?
今日は前王と王太子の葬儀の日だった、王都の通りはあちこちで通行が規制されていた、干城と奈津希は死んでまで迷惑な奴という認識だった。
朝食を済ませてギルドに到着し、依頼ボードにはラエスタへの荷運び依頼があった、報酬は20レラ(銀貨2枚)Eランク依頼としては高額な部類の依頼がなんで残ってるんだろうと思って依頼を見直すと、荷馬車二台分の荷物を昼までに必着の依頼だった。
「あ〜……葬儀で交通規制されてるから間に合うか怪しいんだ、一か八かで依頼失敗は付けたくないか」
「じゃあ、これやりましょうか、素材屋通りの倉庫で受け取れば良いんでしょ」
「そうだね、大して障害にはならないかな、よしやろう」
依頼票を取って受付けのソフィアさんにカードと共に渡す。
「この依頼パーティで受注します」
「ソフィアさん、よろしくね」
「この依頼をですか? ああ、そうでしたねお二人は空間収納がありましたね」
「そういう事です、人なら交通規制を交わせます、全くあいつらは死んでも迷惑な奴ですね」
隣で奈津希は何度も頷いていた。
「ですが時間は大丈夫ですか? 馬は使えないかもしれませんが」
「大丈夫ですよ、身体強化で走れば間に合うでしょうから」
「そうですか、では手続きをします」
そこへ奈津希がソフィアさんが到底理解できないであろう感想をぶっ込んできた。
「流石ソフィアさん、ラノベの受付嬢なら、「えぇ〜っ」て大騒ぎするのが定番なのに、サラッと流して淡々と処理を進める、プロの仕事ね」
と一人感心していた。
(ソフィアさんは俺達の来歴を知ってる常識相談役受付嬢だから流してくれるけど、他の受付嬢だったら説明が大変だな)
「手続き終了しました、荷物は素材屋通りの倉庫で受け取って下さい、カードをお返しします」
「分かりました」
「ソフィアさん行ってくるわね」
ギルドを後にして素材屋通りの倉庫に向かった、着いた倉庫で荷馬車もない事に不審がられて、押し問答で無駄な時間を食ったが、面倒になって有無を言わさず奈津希と二人でどんどん収納魔法に押し込んで、文句を言ってた人達を唖然とさせて黙らせた。荷物を受領した後に急がば回れで迂回して南門を出たところで鐘の音が響き渡った。
「お!9時の鐘が鳴ったね、じゃあ行こうか」
ラエスタは南門から出て、街道を途中左に曲がり、道なりに東に向かえば良い。5キロメートル15分程のマラソンアスリートくらいのペースを身体強化で維持して走る、丘を越えながら道なりに走り、通りを歩く人や荷馬車を追い抜き、小山を登った所で眼下に川幅200メートル程のレワード川が見えた。
「大きな川だね、川の向こうにも畑が広がってる」
「本当ね、あの広さの川幅一杯に水が流れてるわ、増水したら氾濫しないのかしら?」
「あっちに街が見える、あれがラエスタだね」
「畑と自然がいい景色ね、この道を下って、あと4〜5キロってとこかしら?」
「そうだね、このペースを維持して行こうか」
その後ペースを維持して、ラエスタの街門の入門列に並んだ、1時間程で到着したので、ラエスタまでは道なりで概ね20キロメートルという所だろう。
なるほど、身一つで王都を出られたのが9時の鐘だったから馬車ならもっと時間が掛かっただろうし、9時に荷馬車で出発できたとしても丘や小山を越えて移動してたら昼までに必着は失敗してただろう、皆んないい見立てをしている、それとも受付嬢のアドバイスだろうか?
昼までの時間に余裕があったので落ち着いて列に並べた。ラエスタはワグネラ伯爵が治める人口6万人の、ログマイヤの穀倉地帯の街だ。
トラブルもなく、入街できたので届け先の商会で荷物を空間収納から出していたら商会長から熱烈な勧誘にあった。
「君達二人とも荷馬車1台分の収納ができるのか?」
「荷馬車3台分づつは収納できますよ」
「荷馬車3台分! 君達ランクEフリーランサーなんか辞めてウチで働かないか? 給料は金貨2枚出そう」
「今はランクEですが、将来確実に冒険者として自由な生き方が出来るのに。なぜたった金貨2枚で雇われないといけないのでしょう?」
「なぜ確実に冒険者になれると言えるんだ?」
「簡単ですよ、ランクA程度では今の私達に勝てないからです」
「君はランクEだろう? 何を馬鹿な」
荷物の受領といい、払い出しといい面倒な依頼主だな。話が膨らむ前に軽く脅して手早く場を収めるか。
穏便に済むならその方が良いに決まっている。笑顔を意識しながら警告を告げる。
「納得出来ないようでしたら、お見せしましょうか? 今すぐここを更地にしてご覧に入れましょう……見たいですか?」
「いっいや、いい契約はしない」
「賢明なご判断かと存じます」
依頼終了票にサインを貰いサッサとお暇してギルドに向かい、到着後受付けに依頼終了報告をした。
「お疲れさまです、依頼終了票とカードです」
「私もお願いします」
「はい、お預かりします」
……
「はい、依頼完了手続き終わりました、報酬の20レラです」
「ありがとうございます」
奈津希と報酬を折半しながら続ける。
「この依頼主を少し脅しましたので、後でクレームが来るかも知れません、すみませんご迷惑をかけます」
「何があったんですか?」
「私達の収納魔法を見て、フリーランサーなんか辞めてウチで働け、金貨2枚で雇うって言われましたので、脅して諦めさせました」
「お二人にそんな事を……」
「はい、ですから、将来自由な冒険者になれるのになぜ金貨2枚で? 実力が見たいのでしたら、今ここを更地にしてご覧に入れましょう、見たいですか? って脅して諦めさせました」
俺の話を聞いて受付嬢は少し考えて、そして状況が理解できたのだろう。楽しそうな顔をした。
「アハハ、良いですねそれ。何とでも対応できますよタテキさんは指一本手を出してないし、手を出さないよう脅したんでしょう? お二人とも合理的な考えですね、手を出さずに済むなら、その方がギルドも面倒が減ります」
「なんにしろ、今ランクEだからって一生ランクEの様に言われるのは業腹ですね。フリーランサーを馬鹿にし過ぎです」
「それは確かにそうですね、私はアルメイリアと言います。この件はギルドマスターと依頼受付け事務所スタッフに伝えます」
「お手数お掛けします、よろしくお願いします」
「タテキさんとナツキさんって本当に噂どおりなんですね」
「噂ですか?」
「グランドマスターが言ってるようですよ。将来確実に冒険者になる逸材で、合理的で理性的、礼儀正しくて温厚、だけど怒らせると国が相手でも引かない強さがある、だそうです」
「あ〜……それは買い被りですよ、そんな大層な者ではありません」
「ふふっ、本人がそう仰るのでしたら、そうしておきますね。先ほどの件は確実にギルドマスターに伝えますのでご安心下さい」
「はい、よろしくお願いします、失礼します」
気恥ずかしさにそそくさとギルドを後にして、街に行ってみる。
「あ〜、なんだろうな、勘弁して欲しいわ」
「ん〜、でも大袈裟でも、まるっきり嘘ではないわよ」
「できれば、俺としてはひっそりしたいんだけどなぁ」
「そんなの無理に決まってるじゃない」
と呆れを含む様に奈津希は言った。
「断言するね?」
「そりゃそうよ、殆ど無意識にチート使ってるじゃない、目立たない方が無理筋よ、今日だって二人して空間収納に荷馬車1台分の荷物を持って、ペースは抑え気味でも一時間身体強化を維持して走りきったのよ? アンタは無自覚で、何かヤッちゃいました? 系なのよ」
肩をすくめて呆れのポーズと声で説明する奈津希の言い分に反論の余地を見出だせなかった。
「負けた〜……そういわれると、何も言い返せない」
「静かに暮らす方法は、チートを棄てる。それか割り切って誰にも何も言わせない様に見せ付けるかよ。アタシ達は冒険者を目指すフリーランサーよ、後者一択でしょ、アタシも全力を出す必要はないと思うわよ。でも、必要以上に実力を隠す縛りプレイはしたくないわよ」




