21. パーティ結成、二人の決意
薬草、植物、魔物、色々と勉強したあと資料室も整理して帰ろうとした時ソフィアさんに呼び止められた。
パーティを組まないのか? という事だった、干城と奈津希はお互い顔を向き合い、そう言われればそうだったと思った、二人のチート的にこの世界の誰かとパーティを組む事は面倒と厄介と難儀の三兄弟が付いてくる事になり、実質的に不可能に近い、二人はパーティを結成する事にした。
「パーティ名はどうされますか?」
「パーティ名、アタシは遠慮するわ、干城に任せるわね」
「そう? それじゃ……ぇぇつと……」
干城は暫く考えて結論を出した。
「パーティ名はデバステーター(破壊者)でお願いします」
「いい歳して、アンタも大概な厨二病ねぇ」
「これでも真面目にアヴェンジャー(復讐者)かアナイアレイター(殲滅者)のどれか悩みましたけど?」
「はぁ〜……アタシよりラノベ脳のイタい厨二だったなんて」(ホロリ)
「チュウニ病? タテキさんは何かご病気なんですか?」
「そう、私達の前世の世界にあった、精神の成長が14歳くらいで止まる不治の病なのよ」
「ソフィアさん、そんな病気は存在しませんからね、信じてはイケませんよ、私は心身ともに健常ですから」
「そうなのですね、良かったです」
干城と奈津希には後光が差したようなソフィアさんの笑顔が眩しかった。
「あの……それでは登録するパーティ名はデバステーターでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「アタシより厨二って、奈津希はどんな候補があったの?」
「アタシ? アタシはレクリュース(世捨て人)ハーミット(隠者)アンフィリアル(親不孝)が候補だったわ」
「なんか語感がカッケェ」
「イタい厨二っぽくて嫌だったんだけど、結果的にはアンタの方がアタシよりよっぽど厨二脳だったわね」
「パーティ登録の手続き終わりました。あの、タテキさんこのパーティ名はどんな意味なんですか?」
「意味? デバステーターの意味は前世の言葉で破壊者って意味でして、他の候補は復讐者と殲滅者でした」
「随分と物騒ですね」
干城は微笑みを浮かべ。しかし、しみじみとした風に話し出す。
「そりゃあね……名前のとおりこの世界を破壊しようって気はないんですよ。ただね、前世の人生も晩年に差し掛かろうかという時に、どうやらクソしょうもない理由で頼んでもいない召喚をされて、それまでの人生で築き上げたものを台無しにされて、住む世界そのものも取り上げらましからね」
「生きる為には食わなきゃいけない、食う為には働かなきゃいけない、だからフリーランサーをやりますけど、正直この国がどうなろうとどうでもいい、この世界も本来自分が生きる場所じゃない、どうでもいい世界かなと思っていましてね」
ぶっちゃけ話だからかソフィアさんは、苦しそうな、悲しそうな複雑な心境なのか、そんな表情をしていた。
「因みに奈津希のパーティ名候補は世捨て人、隠者、親不孝だったんですって」
「ちょっ、決まったんだからアタシの事は良いでしょう、巻き込まないでよ」
そうして、干城と奈津希は風呂屋に行こうと、ギルドをあとにする。
干城と奈津希が上げたパーティ名候補にソフィアは思い立つものがあったのか、ギルドを出ていく二人を悲しそうな複雑な表情で見送った。
パーティ登録も終わったし、風呂屋に行くことにする。
地球の歴史では欧州はペストの流行で風呂が誤解され、それまでの入浴文化が廃れてしまったが、こちらはそうなってないのはありがたかった。
彫刻された壁、湯船の角に柱
「趣としては銭湯よりテルマエだよな、まぁ世界観的にはこれが正しいか」
湯船にゆったりと浸かり、身体をほぐしていく。リラックスしながらふと思う。この湯の浄水機能はどうなっているのだろう。おそらくは魔法で強引に処理しているに違いない。
魔法というやつは、思考を放棄させ、科学の発展を阻害する――そんな偏屈な思考を巡らせながら、結局は「はぁ~」と小さく声を漏らし、ただの客として温かい湯を堪能した。毎日通っている風呂屋の、この時間だけが救いだった。
奈津希が候補にしたパーティ名『レクリュース(世捨て人)』は、まさに自分たちにうってつけだと今なら思える。
干城は、召喚によって前世から切り離された時点で自分は死んだのだと考えていた。未だに動き続けているだけの、死に体のゾンビだ。
自殺願望こそない。だが、だからと言ってこの世界で生きていたいとも思っていなかった。いつ死んでも構わない。その冷めた諦念があったからこそ、次期王や宰相が相手であっても、一歩も引かずに強気の交渉ができたのだ。
だが、奈津希はどうだろう。彼女はこの世界で唯一、前世という『本当の世界』を共有する存在だ。今日の結果次第では、彼女をも巻き込んでいたかもしれない。
自分が死ぬのは一向にかまわない。だが、彼女をそれに巻き込むことだけは、絶対にやってはならない一線だった。どれほど自分の視野が狭まっていたのかと、今更ながらに背筋が寒くなる。
「馬鹿なことをしたなぁ……57にもなって俺は何をしてるんだ。まるで未成年じゃないか」
湯気に紛れて、自嘲の呟きが漏れた。自分が死んでも、彼女には生きていて欲しい。だが、逆に生き残った方はどうなるのだろう。
思考を反転させ、自分一人だけがこの世界に取り残された未来を想像してみる。
「……無理だな」
すぐに結論が出た。おそらく、奈津希がいるからこそ俺は精神の安定を保てている。自殺願望を抱かず、自暴自棄にもならずにいられるのは彼女のおかげだ。
生き残った地獄も分かる。だが、自分よりも長く生きて欲しいと思うのもまた、偽らざる本音だった。だからこそ決意する。奈津希だけは、俺が死なせない、と。
◇◇
1日の終わり、湯船に浸かって心身を弛緩させるこのひと時が、奈津希は何よりも好きだった。
「やっぱり、お風呂は心の友よね」
身体は10代の少女に若返っていても、中身は55歳のままだ。奈津希は至福のバスタイムを心から堪能していた。
しかし、揺蕩う湯気のような思考の先にあるのは、今日の干城の姿だった。いつも淡々としていて、どこか余裕を崩さないのがいつもの彼だ。
昨日、無礼な騎士をあしらった時でさえ飄々としていた。それなのに、今日の彼は意識的に口調を整え必死で余裕を保とうとしているように見えた。
だが、その張り詰めた気持ちも痛いほど理解できた。干城の主張は尤もだし、自分も同意している。けれど、この世界の貴族にはそれが分からないのだろう。当事者の心中など、当事者にしか理解できないのだから。
だからこそ、相手から『賠償』という言葉が出た瞬間、奈津希の心は冷え切った。(ああ、この人たちはアタシたちを何も理解しようとしていない。その上さらに、自分たちの都合と自己満足を押し付けようとしているんだ)認識の擦り合わせという土台作りさえ放棄して、賠償の話し合いなど求めてくる。不毛でしかなく、そこには絶望しかなかった。
ただ、それは理屈屋の干城の方が分かっていたはずだ。だからこそ彼は余計に腹が立ったのだろう。今日干城が口にした、パーティ名『デバステーター(破壊者)』本音を言えば、彼はこの世界をすべてぶち壊してしまいたいのかもしれない。でも、そんな暴挙に出たところで何も戻らないし、何も得られない。干城の冷徹な理性がそれを理解しているからこそ、彼は「今日を生きられればそれでいい」と割り切っているのだ。
「干城は理屈っぽいからね。だからこそ、交渉事は余計な口出しはせず、安心して任せられるんだけど……」
ふと、寂しさが胸をよぎる。時折、彼から生きようとする気配が希薄になる瞬間があるからだ。それはアタシだって同じようなものだ、と奈津希は苦笑する。
どうしてもこの異世界を「新しい自分が生きる世界」として受け入れられない。一部失った記憶があるとはいえ55年分積み上げてきた前世の記憶は、残酷なまでに鮮明だ。いっそ記憶などない方が幸せだったろうか、そう思う夜もある。
アタシがこうして正気を保っていられるのも、同じ世界を生きた記憶を共有する干城がいてくれるからだ。
「もし干城が居なくなったら、アタシは正気を保てるかしら。逆に、アタシが居なくなったら干城は……」
想像するだけで恐ろしかった。自分が死んでも干城には長生きして欲しいと思う。それが残される側にとってどれほど残酷で、自分の我儘であるかも分かっている。だからこそ、今日も交渉は彼にすべて任せた。その代わり、干城の身に降りかかる災厄の芽を見逃さないよう観察に徹したのだ。干城は、アタシが死なせない。
それぞれの思いを胸に秘めたバスタイムは過ぎてゆく。
あああ…投稿してしばらくして読み返したら人称が崩壊してた。




