18. 勇者召喚は諸刃の剣 1 (召喚者の元の世界)
いつもの少し遅めのギルド到着で、ソフィアさんからギルドマスターが呼んでいると言われ執務室に案内された。
「来たか、宰相が君達を呼んでいるらしい、9時の鐘が鳴る頃に迎えの馬車を向かわせると連絡が来た」
「昨日礼儀知らずの騎士を追い返したら、今日はギルドマスターを伝言係りに使った訳ですか」
(せめて昨日の無礼な騎士よりはもう少しマシな奴を寄越してくれとは思ったが、昨日より対応が酷くなってるじゃないか。まさかギルドマスターを伝言係りにするとはな。こちらの話を聞く気はないと言ってるのか? とことん気に入らないやり方だな、騎士もガキだったが宰相もガキだな)
「君達が行きたくないと言うならこちらで対応するが」
「いえ、行きます。断っても何度でも呼び出すのが明白ですし、ギルドマスターにそんなお手間を取らせる訳にもまいりません」
「そうか。だが今の宰相は前王のように筋が通らない事を言う人物でもない」
(筋が通らないね。その筋が俺達と同じ常識と価値観とは限らない訳だけど。宰相は平民は貴族に付き従うと思っているんだろう、だが人もそうだとは限らないんだがな。それがこの国の認識の限界か)
「分かりました。下の飲食コーナーで迎えを待ってます」
干城と奈津希は一礼して執務室を退室し、ギルドの飲食コーナーでお茶を飲んで迎えを待つ事にした。
「早速来たわね、昨日の今日よ? なんなのかしらね」
「連日の呼び出しって何を焦ってるんだろうね。ただ、こっちの話を聞く気がないのはハッキリ分かったね」
「た〜て〜き〜、微レ存くらいの期待は持たせてよ」
「すみません。でも人の迷惑も考えろって言いたいよ、こっちとしてはどうでもいい迷惑な連中なんだから、もう関わってこなけりゃいいのに」
二人が愚痴っていると、ギルドの前に質素な箱馬車が止まった、9時の鐘が聞こえる、どうやら迎えが着いたらしい、二人は馬車に向かった。
指定された時間に到着したし、これが迎えの馬車だろうと思いながら、一応確認の為に干城は馭者に尋ねる。
「城の迎えですか?」
「そうだ、お前達が召喚者か?」
「そうですよ」
「では馬車に乗れ、城に向かう」
二人を乗せた馬車は城に向って進み出す。城に着き通された部屋は豪華だが華美ではなく落ち着いた雰囲気の部屋だった、部屋の中には二人の男が居た。一人は召喚の時に城で生き残った、警告をした貴族で濃い茶髪で白いモミアゲの意志の強そうな40代ほどの中年の貴族。もう一人は20代前半に見える若い男だ。
「良く来てくれた、人払いはしている。あの時会って以来だな、私は宰相のグレカーレ・ヴァン・エルナートだ」
「私はこのユグリダ王国の次期国王シルヴァノ・ゼノ・ベルギュートだ」
「座ってくれ、今日は君達と話し合う為に来て貰った」
「宰相閣下。昨日私共に接触した騎士に、人を呼び出すなら、先に相手の都合を確認するのが常識だと伝えたのですが。その報告はございませんでしたか?」
「いや、その報告は受けていない」
「そうですか、ではそれは結構です。それでは元の世界で私は57歳、こちらの奈津希は55歳なのはご存知ですか?」
「いや、その報告も受けていない」
「そうですか」
(昨日の報告がないのは騎士の怠慢かも知れん。だが俺たちの元の年齢すら把握してないのは明らかな怠慢か、そもそも相互理解という認識の欠如だろう。ギルドマスターに俺達の元の年齢やどんな国だったかは明かしているんだから)
シルヴァノ殿下とグレカーレ宰相は訝しんだ表情だった、年齢を知らなければ57歳と55歳? となるのも当然だ。何しろ今は12歳の天使のように愛らしい姿なのだから。
それでも話し合いは始まった、先にシルヴァノ殿下が口を開いた。
「二人には我が父が大変申し訳ない事をした、今回の事を深く謝罪させて欲しい」
シルヴァノ殿下が謝罪を口にしたあと宰相が話始めた。
「今日は君達に賠償として私達は何をすれば良いか話をしたい、領地や地位や財産が必要ならそれも用意しよう」
この言葉は干城と奈津希の心を酷く逆撫でた、干城は怒りを抑えて落ち着いて対処しようと浅く深呼吸した、奈津希は全てを諦めたように表情が抜け落ちた。
(俺達の何を分かっているというのか、何だったら賠償に相応しいと思っているんだ、お互いの価値観や相互理解もせず、まだ一方的な自己満足を押し付けようとするのか)
干城はこの話合いは無意味だと悟った。チラリと見た奈津希の表情からも、お互いそう考えていると思った。
「本題の前にひとつ確認させて下さい、私共はなぜこの世界に拐われたのでしょうか?」
その言葉に宰相は苦虫を噛み潰したような顔をして答えた。
「戦線を縮小したカペリノ王国との戦を再開させ、その戦力として勇者召喚を行った」
「そうですか、分かりました。さて賠償ですか、召喚されたあの時に宰相閣下は召喚の場にいらして、覚えていらっしゃますか、私は賠償金などと理由を付けて金を貰えば、後で何を要求されるか分からない、理由を付けて接触するなと申したが?」
「接触については申し訳なく思う、では爵位や領地ではどうだ?」
「爵位や領地が賠償ですか? それは私共をこの国に縛り付ける鎖でしかありません、皆様には価値があるものかもしれませんが、私共にとっては何の価値もない物です」
「では何を望む」
「宰相閣下も召喚の場にいらしたのです私共の主張と要求は聞いておられたでしょう、私共が望む賠償は元の世界に戻す事です」
「それは出来ん、送還の魔法はない」
干城も奈津希も戻れない事は分かっていた、転生しているのだ、全てを諦めていた、それでも言わずにはいられなかった。
「送還の魔法はない? 妙な事をおっしゃいますね、召喚の場で私共は元の世界に戻せと何度も申しましたが、あの場で宰相を名乗られた方はそんな事をひと言もおっしゃいませんでしたが? なぜ今は送還の魔法がないのでしょう?」
「元々から送還の魔法はないのだ、それをレイグザレムは隠していたのだ」
「それでは元々帰す気も、帰す手段もなくこの世界に拉致したという事ですか、戦争の道具として使い潰せばいいとでも思いましたか?」
グレカーレは苦々しい顔をしながら答えるしかなかった、この場を設定したのは彼らなのだから。
「使い潰せば良いと思ったかどうかは私には分からん。だが、カペリノ王国との戦争に使おうとしたのは確かだ」
グレカーレ宰相は苦々しげに視線を彷徨わせていた。その様子に、干城は相手がようやく自分達を子供ではないと認識し始めたのを察した。一応交渉を持ち掛ける相手だ、答えにくいだろうところを突いて、見た目どおりの子供ではない事を示した。さて、これで少しは認識を改めて話し合いの形になるか。それとも、あくまでこちらを平民との認識を改められずに強引に話を進めるか。
「この場は君達に何を賠償にするか話し合う場だ、何か要求はないのか」
グレカーレ宰相は強引に話を進めてきた。干城は沸き上がる怒りを抑えるよう、務めて冷静に語り始めた。
「要求ですか?……では、言わせて頂きますが……」
「ある日突然、戦争の道具にされる為に、私共が生きた前世と比べれば5〜600年は思想と文明の遅れた、野蛮人の世界に呼び出され。前世の人生も、築き上げたものも、生きる世界そのものも奪われた。
それを自分が生きるべき世界でもない、この国の爵位や領地で釣り合うと皆様は仰るのですか? この国の爵位や領地は私共が生きた世界より価値があると仰っているんですか?
私共にとってこの世界も、この国も、常識も価値観も違う無価値なゴミ以下でしかないのに、そんなもので納得しろと仰るのですか?
元の世界に戻せ以外に、何を賠償に要求しろと仰るのですか?
戻す気も、戻す事もできないのでしたら、皆様の価値観の押し付けを止めて、もう何があろうと私共に関わらないで頂きたいものですね……私共の元の国は法の下に皆が平等で、皆様の様な特権を貪る寄生虫は居ない国だったのですよ」




