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50代召喚(前世の記憶の亡霊が生きた道)  作者: くまじ
1章 召喚と生活基盤作り
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(閑話)シルヴァノの望み

 間もなく王位に就く第二王子シルヴァノの執務室は、王太子の部屋に比べると驚くほど飾り気がなかった。


 王族の執務室という前提があるため、調度品の素材自体は一級品だ。だが、成金が好むような金銀の装飾はどこにもない。丁寧に磨かれた木家具に、職人の控えめな彫刻が施されているだけだった。室内には、実用的な机、施錠された資料棚、最低限の応接セットとカーテンがあるのみ。ただ、この応接セットのソファだけは座り心地の良いものを求めた、自分が座る為ではなく来客が座る椅子だからだ。


 足元の青いカーペットは、部分交換が可能なタイル式という簡便さで、彼がその合理性を気に入って選んだものだった。


 他人に倹約を強いることはないが、己の身の回りはこの程度で十分だと思っている――部屋の佇まいそのものが、シルヴァノという男の嫌みのない高潔さを表していた。


 その執務室へシルヴァノの腹心である宰相グレカーレ・ヴァン・エルナートが訪ねてきた。


「殿下、此度(こたび)の召喚者による離反の工作が完了致しました」

「だが、グレカーレ召喚者は本当に離反したのか?」


「それは間違いありません、事実、城を出ていっております」

「だが、私が調べた限りでは、父上のやりようは余りに無体でないか」


「殿下、平民は貴族に従うものです、まして王の言葉を聞き入れぬなど、ありえませぬ」

「では、追っ手を差し向かわせると言うのか?」


 グレカーレは追っ手を差し向ける気はなかった、返り討ちになるのが目に見えていた、今そんな事になれば宮廷工作が台無しだ。だが、謁見の間で見た戦闘力はこのまま放置してよい存在でもない、なんとか取り込むか目の届く所に置いて泳がせられないかと思案していた。


 グレカーレも元は宰相を務めていた。勝ちも負けもしない、戦費ばかりが失われ、その損失を増税で埋める先王の治世で、王家に対する一部貴族や民の求心力は落ちる一方だった。


 そこで、先王と王太子を休養として王都から遠く離れた保養地へ向かわせ、その間にシルヴァノは戦が続くカペリノ王国との戦線を防衛砦まで後退させ、戦線の縮小と小康状態に持ち込んだ。


 グレカーレは戦に参加しなかった高位貴族に、それを理由に資産の一部を出させ、戦費で失った予算を穴埋めして上がった税を元に戻させた。


 次の段階で、王と王太子を保養地に幽閉してクーデターを起こす算段だったが失敗する、先王の保身に対する嗅覚の鋭さは、シルヴァノとグレカーレの予想を上回った。


 クーデターを免れた先王から一旦の処分としてシルヴァノは蟄居を命ぜられ、母である第二王妃、ルシルグレーテも連座させられた。グレカーレは宰相の地位を剥奪され、両名は何れ罪を問われる日を待っていた、そんな時に先王が行なったのが勇者召喚だった。


 この勇者召喚で王、王妃、王太子、宰相レイグザレム他の主だった先王派貴族が命を落とす事になる。


「グレカーレ、召喚者は我々にとって恩人にも等しいのだぞ、寧ろ被害者と言うべき者だ」

「殿下、なればこそ、残った先王派貴族の力を削ぎ、召喚者をこちらに引き込むのです、あの力は放置して良いものではありません、正しく管理するべきものです」


 グレカーレの説明は、先ずは宮廷工作で先王の死を狩りに向かった、北のエルベシャ山脈で魔物の襲撃にあって死亡したと発表する、その後シルヴァノができるだけ早く王に即位する事。宮廷内の前王派を排除する事、召喚者の戦闘力は侮れず、敵に回らないよう接触し、賠償として爵位と領地で懐柔する、資金が必要なら、その支援も行う事などを語った。


 シルヴァノは反対であった、召喚者とは友誼を結ぶべきで、先ずその線で話を進められないかとグレカーレに迫った。


「なりません殿下、貴方はもう直ぐ王になられるのです平民と友誼などあり得ぬ事です」


 それでもシルヴァノは食い下がった、そもそも召喚者に責を負う理由がなく、挙句に父王は召喚者に隷属の首環を着けようとする暴挙にでた、父王が殺されて当然とは言わないが、殺されても文句を言えない事はしていると。


 グレカーレは暫く黙考して、シルヴァノとの妥協案を話した、爵位は伯爵位を領地は王家直轄領のエリデリヌの地ではどうかと。これにもシルヴァノは疑義を呈した、召喚者は二人居るのに、なぜ一領地なのかと、グレカーレは爵位は両人に与えても、二人同時に来たのだから領地は分け合えば良いとし、それもシルヴァノは疑義を呈し、話し合いは長引いた。


「だが、グレカーレ、そなたも召喚者の力は侮れないと言ったではないか、賠償に不満を持たれて敵対されるよりは、エリデリヌの隣のセリディーアの二つを両名に選ばせれば良かろう」

「ですが、セリディーアは、領地をあれ程に発展させたメリーデュス伯の領地で、王家に縁戚の家ですぞ」


「それがどうした! メリーデュス伯は先王派で、しかも父王の悪政を積極的に支援していたのだ、降爵して領地替えすれば良かろう、褫爵(ちしゃく)しないだけ温情だ」


 グレカーレはこの案は悪くないと思った、国王からの指示で先王派貴族、それも王家と縁戚がある有力貴族を排除できるならとこの案に乗ろうと考えた。


 他にも様々と話し合われた、主だった先王派貴族の生き残りの処置、先王の葬儀とシルヴァノの即位宣言式の事、空いた役職の人員配置、失った近衛騎士の補充と訓練及び再教育、指揮官級の後任の人選など……


 グレカーレの指導もあり、様々な物事や準備が着々と進んで行く。方針も決まり、残りの大きな案件は召喚者と友誼を結ぶ事だった。グレカーレの政治手腕もあり、予定どおりに物事が進んで行く。


 シルヴァノは召喚者の賠償に自分に思い付くものを準備し、召喚者の希望や要望はグレカーレを押しのけてでも通す腹積もりだった、召喚者に父王のしでかした今回の件を真摯に謝罪して、友として共に歩みたいと思い、面会の日を楽しみにしていた。










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