14. 初めてのEランク依頼 1
城からお触れが出た。過日、王と王太子が北のエルベシャ山脈の麓で狩猟会を開催した折、ワイバーンの群れが飛来。参加していた宰相をはじめとする数十名の貴族、そして護衛の騎士たちが巻き込まれ、多数の犠牲者が出たという。王と王太子の死亡も確認され、3日後に葬儀を、10日後にシルヴァノ王子が新王として即位式を執り行う。また、空席となった宰相の座には、即日付でグレカーレ・ヴァン・エルナート侯爵が就任し、王の補佐を行う――という内容だった。
実際のところ、その王と王太子も貴族と騎士達も、すべて干城と奈津希が返り討ちにした結果なのだが、二人にとっては心底どうでもいいことだった。「売られた喧嘩は買うが、無駄な喧嘩はしない」が二人のスタンスだ。
高札を見上げながら、干城が口を開く。
「ふ~ん。犯人は俺たちなのに、こんな筋書きにしたんだ」
「どうでもいいわね。国がアタシたちに近寄らないなら、アタシたちから何かする気もないし。それより、早く朝食を食べましょう」
要するに、本来自分たちが生きるはずではなかったこの世界にも、この国にも、何の価値も興味もないのだ。ただ、自殺願望があるわけではない。生きるために、食う。それだけだった。ランクEになっても、二人のルーティンは変わらない。朝6時頃に朝食をとり、依頼の受注は6時半頃。
大半のフリーランサーは、朝6時に依頼を選別して受注した後に朝食をとり、朝7時の開門と同時に外へ飛び出す。この立ち上がりの動きが、二人は逆なのだ。
だが、二人にとっては会社勤めの通勤でもあるまいし、人混みで依頼を奪い合うより、人が減った時間帯に悠々と選ぶ方が合理的だった。フリーランサーとして出世しようとか、この世界で何かを成し遂げようなどという野心はない。せいぜい、冒険者になれば国に縛られず自由でいられるか、という程度だ。
肉体は転生して12歳だが、精神は57歳と55歳。今更何かを強く欲することもない、寧ろ終活を始める年齢だった。「日々食えればいい」というスタンスの理由は、そこにあった。ランクEになったことで、活動範囲は一気に広がった。王都周辺にある三つの街――東のレワード川沿いに位置する穀倉地帯の街「ラエスタ」、南の商業と交通のハブである街「ディザルト」、北西のデトナ山麓にある鉱山と鍛冶の街「ノレーラ」
さらに、男爵が治める「ナトミ町」「レメスト町」の2つの町と、騎士爵領である「タスカ村」「エリント村」「テゾーロ村」の3つの村までが対象となった。
今日選んだのは、タスカ村への荷運び依頼。報酬3レラ(白銅貨3枚)の案件が2件あったため、それをまとめて受注した。
ソフィアさんの受付が埋まっていたため、隣の受付で受注処理を行うことにした。対応してくれたのは、亜麻色の髪をしたセシルさんという受付嬢だ。彼女は実に手際よく手続きを進めてくれた。(ギルドの受付嬢って、顔で選んでいるんじゃないか?)そう勘ぐりたくなるほど美人ばかりだ。
しかし、事務処理は迅速かつ正確で、対応も非の打ち所がない。外見だけで採用されたわけではないと分かっていても、なぜこうも美人が集まるのだろうかと、内心でどうでもいい疑問を抱いてしまう。
「こちらの依頼は荷車が必要ですね。訓練場の横にある備品庫のものが使えますので、どうぞ。荷物の受け取り場所はここと、ここになります」セシルさんは王都の地図を指し示した。場所は市場近くの倉庫と、素材屋が並ぶ通りの倉庫の二箇所だ。
「分かりました。ただ、空間収納がありますので荷車は不要です。ご丁寧にありがとうございます」
「それでは、いってきます」
ギルド内で何か通達でもあったのだろうか。俺が空間収納の件を口にしても、セシルさんは特に驚く風でもなく、表情一つ変えなかった。事前に調べたところによると、この世界において「空間収納」の持ち主はそこそこ存在しているらしい。レアではあるが、決して超レアというわけではないのだ。ただ、大半が国や大商会に囲い込まれているため、街で見かける機会は滅多にないという。
その程度の認識だと分かったので、俺達は空間収納をオープンに使うことに決めていた(流石に容量無制限の持ち主はいないようだが)。一方でインベントリに関しては、この世界では都市伝説や空想の産物として扱われているようだ。こちらに関しては、絶対に秘匿するべきだと改めて心に誓う。
「それじゃ、奈津希は市場の方をお願い。地理的にタスカ村へ向かうなら東門だろうから、門を出たところで合流しよう」
「分かったわ、それじゃ行ってくるわね」
二人はそれぞれの荷受け場所へ向け歩を進める。




