12. 魔法が先か、科学が先か
街門は朝7時に開門する、干城と奈津希の二人は開門して直ぐ門の外へ出た、この先はアネリアの森があり、この門を利用するのは殆どがフリーランサーだ。
「何処まで行く?」
「何処までと言われても正直分からないわね」
「悪い、それもそうだ、初めて王都の外に出るのに分かるわけがなかった」
「そこまで深刻に考えなくて良いわよ、道なりに進んで左に大きく曲がる所を真っ直ぐ森に向かえば良いみたいだから」
「地図でも見た?」
「ギルドにあった地図って言えば地図なんだけど、精度が大雑把だから地図と言って良いのか、落書きと言えば良いのか」
「なんとなく察した」
暫く道なりに歩いていると道は左に大きく曲がる場所に来た、恐らくここが地図が示す場所なんだろう。
「ここまで20分くらいかな」
「そうね、真っ直ぐ森に向かいましょ」
青々と生い茂った森に入って緩やかな勾配を昇り降りし木々の香りと木漏れ日を浴びながら1時間ほど進むと、少しひらけた川沿いの場所に出た、ゆったりとした流れの水面は陽光を反射して輝いていて、向こう岸も鬱蒼と木々が生い茂り、遠くに山が見える。足元を見ると地面は川で削れた丸い石で、増水したらここも川になるのかもしれない。
「いい感じの場所だけど、足元の石からして増水したら、ここも川の一部かも」
「そうね、見える限り川上に雨雲はないから暫くは大丈夫かしら」
「水位に気を配りながら、魔法の練習をしようか」
二人はそれから川に向かって魔法の練習を始めた、少しづつ思い出すような感覚で魔法の練習を続けていった。
練習を続けるほど魔法は洗練されていき、最初に比べると発動も早くなっていった、中でも干城は光属性を好み、奈津希は聖属性を好んだ、その二つの属性以外はそれぞれあまり差がなかったが、奈津希の聖属性魔法は干城よりも発動が早く、効果も高かった、干城の光属性魔法も奈津希と比べると同様だった。
闇属性を練習していると空間収納を覚えたが、奈津希が突然歓声を上げた。
「インベントリ、チートキター」
歓声を上げながら両手を挙げ、跳びはねながら喜ぶ奈津希の姿は、その見た目も相まって実に可愛らしかった、そう思いつつも干城は心の中で、中味55歳だよな? と突っ込んでいた。
その後二人とも練習を重ね、空間収納とインベントリが使える様になった、空間収納は空中に黒いワームホールを彷彿とさせる空間ができ、黒い空間に手は入らないが物質は吸い込まれる様に消え、取り出す時は頭に収納物のイメージをすれば取り出せた、また収納物を一覧の様に把握する事も出来た。
インベントリは物質が光の粒子の様になって格納され、取り出す時は光の粒子が物質化するような感じだった、その後に練習を重ね、二人とも短剣など選ぶ物次第で自分の手に持つように出現させる事もできる様になった。
「空間収納とインベントリってどう違いがあるんだろう?」
「検証してみないと分からないけど、多分空間収納は中で時間経過して、インベントリは中で時間固定だと思うわ」
「そりゃ大きな違いだね」
「でも、空間収納もインベントリも闇属性だとは思わなかったわ」
「そこは同意する」
奈津希が何かを思い出したようにポンと掌を叩き、練習する魔法を提案してきた。
「そうそう、溝掃除の時に、物質を浮かせて運べる魔法ないかなって思ってたのよね」
「物質を浮かせて?」
「そう、溝から掻き出した泥を浮かせて運べないかなって、それか溝の泥を直接浮かして運ぶか」
「ああ、なるほど、どんな感じかイメージついた」
「でもどの属性になるのかしら?」
「練習してみよう時間はある」
それから二人は色々なイメージをしながら練習をつづけていった、なかなか上手くいかなかったが練習は楽しかった、そうしている内に足元の石を浮かす事ができた、浮かした石を移動して任意の位置に降ろす。
「干城! 今のどうやったの」
「うん、重力を反転させるイメージでやってみた」
「重力を反転……」
奈津希も足元の石が浮いた、だが一気に上昇し街道の方に向かってカッ飛んでいった。
「えっ! なんで?」
干城は自分の影の向きから、概ね西の方に飛んだかな? とあたりをつけた。
「奈津希、重力を反転させるイメージ、もしかして引力を反転させるイメージしなかった?」
「それって違うの?」
「違うよ、さっき石が西に飛んでいったというか、西寄りに打ち上がるように飛んでいったから、そうじゃないかと思った」
「どう違うの?」
「うん、専門家でも趣味の人でもないからザックリとだけど、引力は惑星中心に引きつける力で、重力は惑星の引力と自転の遠心力も含めた力」
干城は土魔法で球体を作り、球体が止まった場合と自転で回転している場合の違いを説明した。
説明しながら、引力だけを反転させたのに、なんで慣性モーメントが消えたんだ? とも思ったが、自分は重力でイメージして上手くいったんだよなぁと、思考の泥沼に嵌まる前に一旦考えるのを止めた。
「あ! 引力だけを反転させた、それで西に向かって飛んでいったというか、上昇しながら取り残されたのね」
「多分そういう事じゃないかと思う、まぁクソつまらん雑学知識だけど。でも引力だけじゃなく大雑把にでも東に向かう慣性まで含めて、重力反転のイメージを魔法で構築すれば上手く行くと思う、というかさっき上手くいった」
「分かったわ慣性も含めてね」
石はまた西方向に飛んでいった。
「今凄い勢いで石が飛んでいったでしょ」
「そうね、殆ど一瞬で見えなくなったわね」
「具体的な数字だったら地球の自転速度は赤道で秒速465m、日本辺りだと380mだった気がする」
音速を超えてるのになんでソニックブームが起きないんだろう? まぁ今は良いか、後で考えよう。
「秒速で?」
「うん、そう、ここが地球と同じとは限らないけど、魔法構築の時に、東に向かう秒速も意識しながらやってみて、俺はさっき東に秒速400mのイメージだった」
「分かったわ、東に秒速400m……」
今度は奈津希も物体を浮かす事が出来た。
「ここで練習して行こうか、街の中で失敗したら洒落にならなさそうだら」
「そうね」
何度か練習している内に気付いた事があった。
「これさ、最初はゴチャゴチャ色んな事考えるけど、慣れてきたら、浮かして、こっちに移動、ここで降ろすだけで良くなるね」
「えっ! ホントに?」
「……本当だ、なんでなの?」
「魔法の事をそんなに知ってる訳でもないしね、今はこんなんだってしかならないね。ああ! だから魔法がある世界は哲学や科学が発展しないのか?」
「そうね魔法だから、で思考を放棄するわね」
「でも、さっきの様子だと科学も必要そうだけどなぁ」
そう言えばと思ってステータスを見てみた
名前 タテキ・アリハラ
年齢 12歳
職業 剣士
職業スキル
剣士 魔術士 治癒士 テイマー 商人
スキル魔法(全属性)
無属性魔法
身体強化魔法
生活魔法
無属性魔法が増えていた、無属性魔法をタップすると
重力魔法 浮遊魔法
となっていた、正直なんじゃそりゃ? という心境だった、元々ある魔法なのか? 無属性魔法って自分で作るのか? 今日は色々と後で考えようが増えた日だった。




