(閑話)執務室の話し合い
王都ログマイヤ支部ギルドマスターの執務室にはユグリダ王国のフリーランスギルドを統括するグランドマスターのアウダーレ・ルヴィアスとギルドマスターのアズレスト・リシーデル、干城と奈津希の常識相談役受付嬢のソフィア・リベリテがいた。
干城と奈津希が召喚され、城で王他多数が殺された一件はギルマスのリシーデルからグランドマスターのルヴィアスに報告されていた、今日はルヴィアスが二人の近状を聞きたいとソフィアを呼び、リシーデルの質問から始まった。
「ソフィア、タテキとナツキはあの後どうしている」
「はい、毎日依頼をこなして昨日ランクEに昇格しました」
「昨日? 二人がフリーランサー登録してまだ1週間経ってないだろう?」
「はい、二人とも登録翌日から1日3件の依頼を全て優良評価で達成してますので、実働5日目で達成ポイント30、達成率100%で昨日昇級しました」
ルヴィアスは少し驚いた風に、だが面白そうに言った。
「F依頼は一人ででもこなせる依頼が殆どだが、それにしても1日3件を全て優良評価はスゲェじゃねえか」
「いえ、グランドマスター、二人は不均等依頼を一人で1日3件こなしてるんです」
「残り物? どういう依頼だ?」
「はい、報酬一人分の不均等依頼で、内容は荷運びと溝掃除です」
「荷運びと溝掃除? 三〜四人で半日やる仕事じゃねぇか、それを一人だってか?」
「はい、毎日荷運びを1件、溝掃除を2件、それを全て優良評価です」
リシーデルは少し考え、二人のステータスを思い出した。
「その仕事内容を一人で1日3件? そうか、魔法は全属性だったな」
その言葉にはルヴィアスも驚きを隠せなかった。
「なんだそりゃ? そんな奴は宮廷魔導師でも聞いた事ないぞ」
「あの二人のギルドカードを確認しました、二人とも魔法は全属性持ちで間違いありません、身体強化魔法もありました」
ルヴィアスはやや唖然としながらも、それ程の能力がありながら何故そんな不遇を自ら受け入れているのか気になった。
「とんでもねぇバケモノだな、それが勇者って事か。だが、なんでわざわざ残り物の仕事なんかやってんだ、なんか理由があんのか?」
「はい、なんでも人混みに入って子供と依頼の取り合いをしたくないそうです」
「どういう事だ? 召喚者は12歳なんだろう?」
リシーデルは思い出すように説明を始めた。
「面談した時にタテキは、元の世界では57歳、ナツキは55歳だと言っていました、どうやら彼らの元の世界は我々より教育水準が高い様に推察されます、実際所作や落ち着きぶりや話しぶりからも、最初は老練な貴族と腹の探り合いでもしてるように思いました。ナツキの話では代表者として選ばれた平民が政治を行い、性別に関係なく誰もがこの国の貴族並みかそれ以上の知識と所作が出来ると言っていましたから」
「平民が政治……それもとんでもねぇ世界だな。性別に関係なく貴族並みかそれ以上の教養を持った世界のバケモノみたいな強者か、対応を間違えるとこっちが滅ぼされちまいそうだ」
「いえ、グランドマスターそうはならないと思います」
ソフィアは至極真面目に説明する、ギルドの説明をした時の理解の早さ、普段の態度から見る人柄などから、二人は信頼できる存在と思っている。
「なんでだ?」
「はい、タテキさんとナツキさんはどちらも真面目で気さくな方なんです。今の境遇を国に対して文句も言わず、フリーランス登録に来た日はお金も持たず、食べる事もできず橋の下で夜を明かしたそうです。フリーランス登録したのも、食べる為に働かないといけないからと言われてるんです」
「なるほどな、そんな境遇でも理性を保てるのか。それに、やろうと思えばとっくにこの国とやり合ってるか」
「そうですね、私も話した印象は理知的で理性的な印象でした、タテキの話では召喚された後に前宰相に国の都合を押し付けられ、前王はタテキとナツキに隷属の首環を着ける様に命じて、それが二人の逆鱗に触れてあの仕儀になったようですから」
ルヴィアスは頭を掻いて溜め息をする様な仕草の後で薄くニヤリとした顔をした。フリーランスギルドは世界中に拠点を置く組織だ、だからこそどの国にも肩入れはしない中立公正を貫き、国と密接な利害関係を持たない。そんなフリーランスギルドであっても、前王の治世は眉を顰めるものであった、それを自滅とはいえ排除したのが干城と奈津希であった。
「そんな事をすれば誰だって怒る、ましてそれだけ高度な世界に生きて、理性的であれば尚更な。前王と前宰相は救いようのない馬鹿だな、戦争で必勝の道具として召喚しておいて、怒らせて返り討ちになっちまったのか、自分達が勝てない相手に喧嘩を売っちまうとか何考えてんだ」
「何も考えてないから返り討ちになるのでしょう」
「ちげぇねぇ」
それからもリシーデルとソフィアは様々な情報をルヴィアスに共有した。
ルヴィアスはひとつの結論を出した。
「もし、タテキとナツキが国と対立するならフリーランスギルドは全力でタテキとナツキを支援する」
「ありがとうございます、ですが国と対立してよろしいのですか?」
「構わねぇだろう、話を聞く限りタテキとナツキが先にちょっかい掛けて国や貴族と対立する事は考え難い、なら俺達はあくまでフリーランサー保護の立場を貫く」
「そうですね、それでしたらこちらも体裁は整います」
「だろう、尤も……」
ルヴィアスは凄みのある顔で言った。
「俺達が出張る程の事なら、その前にタテキとナツキが黙っているとも思えんな。既に実行しているんだからな」




