98. ダンジョンアタック 3 (お約束の詰め合わせ)
ダンジョンを進み、神殿階層を下りて城階層へと辿り着いた。無駄に塔が乱立する城の姿を見上げ、干城と奈津希は好き勝手に論評を交わす。
「なんというか、威圧感はあるけど機能的にはどうなんだろう。あの二重塔なんてお互い死角になってないか? なんの意味があるんだろう」
「優美さのない城ね〜。ラノベ的な魔王城って雰囲気はあるけど、趣味じゃないわ。城はシンボルとして美しく荘厳でないといけないのよ」
57歳としての人生で培った無駄な雑学と、55歳だった奈津希のラノベ的こだわり。13歳に若返った見た目とは裏腹に、二人の会話はどこか冷ややかだ。
ともかく城に入らなければ先へは進めない。飛行魔法で一気に飛び越えても良かったが、それでは面白みがないと干城たちは城門へ向かって歩みを進めた。
すると、城門からワラワラと剣と盾を構えたスケルトンが湧き出してくる。干城は溜息をつく間もなくミラーボールほどのリフレクターを展開すると、『レーザーフォルテ』を行使した。リフレクターで拡散反射されたレーザーが振り注ぎ群れを蒸発させると、さらに空中にボーリング球大の多数のリフレクターを配置。死角だらけの城門とその周辺へ多角的にレーザーを乱射し、完全に安全を確保してから、影も形もなくなった城門跡を通り抜けた。
城門を過ぎると150メートルほどで城の出入り口があった。干城は随分余裕のない設計だなと思った。
「城門過ぎたらすぐ出入り口って、どういう防衛構想だよ。城自体の見た目だけ凝ってるテーマパークのアトラクションみたいな作りだ」
「ラノベの城もこんな感じの描写はあるし、ある意味らしいと言えばらしいわね」
二人は城に向かいながら、城を見あげた。高さも威圧感もあるが、城から迎撃はない。余程内部での防衛に自信があるのか、まるで迎え入れているようだ。
「迎撃もないのか、城の中はトラップだらけとかなのかな」
「あり得るわね。案外アタシ達のことをモニターみたいなのでトラップに引っ掛かったとか笑って見てるとかかもよ。それに考えようによってはダンジョン自体がアトラクションじゃない」
なるほど、ラノベのノリではそんな考え方も成り立つのか。アトラクションのトラップ付き幽霊屋敷と思えばダンジョンも楽しめるのかなと干城は考えてみた。気楽に考えることはできるが、だからといって油断するわけじゃない、変に緊張するよりはそれも良いかも知れないな。
城の中に入ると多数のシャンデリアがぶら下がり、城主なのか? 立派な顎髭を伸ばし襟が高いマントを羽織った大きな人物画が掛けられていたが、窓のカーテンは破れ床はボロボロで歩けば砂利道を歩くような音がし、壁に穴が空いていたり柱が倒れていたりと内部は廃墟然としていた。
スプレーで書いた落書きでもあれば日本で見た廃墟の姿に近くなるな。干城はかつての栄華を誇った頃は使用人が客人を出迎え、あの彫刻が施された柱も城の威風を引き立てる一助だったのか。ダンジョンが作った最初から廃城なのかどっちだろう? 多分後者かなと思っていると、奈津希の感想はもっとストレートなようだった。
「まさにラノベの廃城ってシチュエーションね」
奈津希は目を輝かせて城内を見回していた。
奥に進むと色んなスケルトンとエンカウントする、剣や槍を持った者、ローブを羽織り魔法を使う者、元は囚人なのか足に鉄球付きの鎖をつけられたグールなど、どれも干城がレーザーの魔法を重複展開して焼いていった。
「ここってドロップが実質的に魔石だけで、労力の割に旨味がないね」
「ラノベでもこれ系はそこが嫌われ要素ね。得るものはないのに魔力や体力は削られるから。って、その先トラップみたいね。左の壁に等間隔の傷が薄っすら残ってるわ。槍襖かしらね」
干城は壁の傷に気付かなかったが、奈津希がいう範囲に一歩踏み入れてすぐに飛び下がると右の壁から槍が飛び出してきた。左の壁に槍が突き刺さったのを見届けて通過する。振り向くと槍は消えていた。壁に槍に抉られたあとは残っていたが自動修復するのだろう。奈津希が薄っすら傷があると言ったが、誰かがトラップを作動させてあまり時間が経ってないんだろうか? まてよ、さっき壊した城門も復活してるんだろうか。
「奈津希、よく壁の傷に気づいたね。俺には分からなかったよ」
「そう? 結構はっきり分かったわよ」
何か目の付け所の違いがあるんだろうか、それともスキル? 光属性魔法にも死霊系には一定以上の効果があるのか、奈津希と二人それぞれ弾幕のような魔法で火力制圧しながら前進し、奈津希がトラップを見つけて、それを躱しながら気づけばボス部屋だった。
扉を開けて中に入り出現した階層主に疑問が湧いた。ボスはデカい骸骨じゃなかったかな? てっきりギガサイズのスケルトンとか思っていたんだが違った。
「奈津希、デカいボスって、あれリッチじゃない? それにあの羽織ってるマントって出入り口に掛けてあった人物画が羽織っていたのと一緒だよ」
「そうみたいね。ここの城主がネクロマンサーって設定かしらね? 確かにスケルトンより大きくはあるわね」
今までのボス部屋は奥の扉からリポップした魔物が出てきていたが、ここは階層主のリッチがレイスやスケルトンを召喚していて、レイスやスケルトンが無限湧き状態だった。ステータスにレベルがあれば経験値稼ぎとなるんだが、ステータスにレベルはマスクデータなのか、そもそもないのか表示がない。多少は練習にはなるかと干城は光属性魔法でスケルトンに対処し、奈津希は天使魔法でレイスに対処した。
それもしばらくすると飽きて奈津希が『天使の聖裁』でリッチを倒し攻略も終わった。山のような量の魔石を回収し奥へ進むと、それまでより大きな宝箱があった。
「立派な宝箱なんだけど、そこはかとなく禍々しい雰囲気を感じるね」
「これミミックかしら? でもラノベのお約束よね」
「じゃあ開けずに放置する?」
「干城何言ってるのよ、開けるに決まってるじゃない! ミミックと分かっていても開けるのは冒険者の性で、お約束。そしてラノベの王道展開よ。それをやらないなんてあり得ないわ」
そう言って奈津希は宝箱を開け、ミミックから多数の触手のようなものが鞭の様に飛び出してきた。奈津希は刹那の間に脇差でそれを全て斬り捨て、その勢いのままミミックを横一閃で真っ二つにした。
ミミックが溶けるように消えたあとには数えるのが嫌になるような大量の白金貨や大金貨、聖剣や魔剣、美しい弓や槍、防具やローブなどの山のような宝物が残った。その中には「は?」となるものもあった。拳銃や小銃、バズーカのようなものもあったのだ。取り敢えずあとで整合して分配しようと決めて、宝物をインベントリに回収した。
先に進み降りた階層はフィロメナさんに教えてもらった情報では自動生成型ダンジョンになるんだったなと思い出しながら階段を下り通路を抜けた先には、これまでのように通路はなく、青い空と陽の光があり微風が草の匂いを運んでくる草原が広がり、丘の起伏が見えるフィールド型ダンジョンだった。
奈津希はテンションが爆上がりして、この光景に目を輝かせていた。
「凄いわ。地下なのに空に太陽、見渡す限りの草原なんてラノベの夢が目の前にあるわ。この先何がアタシを待っててくれるのかしら」
干城は奈津希のはしゃぎっぷりに55歳だよな? と思いつつも、楽しそうならなりよりとも思いながら。干城は空間魔法? 何をどうやったらこんな空間が生成できるんだ? インベントリや空間収納も容量無限だし同じようなものか? などと思考する自分に内心で苦笑していた。
「慌てる理由もないし、ここで腹拵えしていこうか」
「そっ、そうね。料理を出すわね。干城はマットをお願いね」
地面にシートを敷き、焼きおにぎりに卵焼きや唐揚げ、蒸し焼きしたソーセージや温野菜のサラダなどメニューと雰囲気はピクニックだった。野菜もふんだんに使っているメニューは色目の寂しさもなく、ありがちな茶色メニューでないところに奈津希の拘りを見た気がした。ダンジョンなのに春先のような柔らかな陽光と時折肌を撫でる微風に草が揺れサワサワとした音を聞きながら、食事とお茶を堪能し心も身体も一休みできた。




