96. ダンジョンアタック 1 (マッピングは嗜み)
オークを焼き払い残った魔石を回収すると奈津希がフォルティアミグオンのことを聞いてきた。
「あの魔法改めて見るとどうなってるの?」
「あれ、あれは光属性魔法でマイクロ波を使った攻撃だよ。端的にいうと電子レンジで温めてるようなもんだね。ラシーグルの骨集めのときに効率いいやり方ないかなと考えて、思い付いた魔法だね」
「アンタの雑学魔法ってだいたいエグいわよね」
「雑学魔法……」
干城は、まさに背景に昭和生まれらしく巨大な『ガーン』という文字が見えそうなくらい呆然とした。そして的確な比喩であることを認めざるを得なかった、干城は専門家ではないのだから。
干城は社会で長年揉まれて培った精神力でなんとか立ち直り、マッピングと攻略を再開した。切っ掛けは奈津希が昼食にアジフライを出すと言ったら奮い立った。
二人はマッピングを再開しオークの他に頭に一本角や二本角のオーガや背が高いトロールに遭遇した、奈津希も攻撃に加わり聖属性防御無視の単体貫通魔法『天使の聖裁』を出力の減衰をそこそこにトロールに放ったら魔石も残さず爆散した。
「天使魔法トロールが魔石も残さず爆散ってエグすぎない」
「魔力の出力調整に慣れが必要ね、折角だからここで感覚が掴めるよう練習するわ。ここはきっとラノベ的な成長フェーズなのよ」
そこから攻撃は主に奈津希が担い、干城は魔力探知で敵の魔物の索敵を担った。魔法に関しては自分よりも奈津希の方が直感的な鋭さがあるからすぐ慣れるだろう。実際相手に合わせた魔力の出力調整を重ね、魔法に慣れ発動も早くなっていった。理屈で組み立てる自分と違いフワッとしたラノベの定番イメージをシビアな魔力制御で魔法に落とし込んでいく奈津希の魔法は天性の才能だと、その成長スピードに舌を巻いた。
この人型の20階層代エリアはトラップがないが宝箱もないな。マッピングなんて作業のようなものだからサクサク進むのは大いに結構なんだが。
「トラップもないし、だんだん作業みたいになってきたね」
「駄目よ油断しちゃ、ラノベでは油断したときにピットフォールに落ちるのが定番よ。と言っても干城の言うことも正解だから、少し休憩にしましょう」
干城はテーブルとデッキチェアを空間収納から出し、奈津希は少し悩んでロイヤルミルクティーとサブレを出して、本場英国紳士が見たら呆れ顔で頭を抱え、他のフリーランサーが見たら正気を疑うだろう異様な光景だが、二人にとっては至って真面目なティータイムだった。
当然オークやオーガが襲ってくるが、二人はお茶を楽しみながら都度魔法で撃退していった。過去にティータイム中にワイバーンに襲われてもコーヒーを零さないよう気をつけながら秒殺したのだから、干城はこのくらいは余裕で対処できなければと呑気に考えていた。
しばしの休憩のあと散らばった魔石を回収して攻略を再開した、気分転換もできたのでマッピングも捗った。次の階層のマッピングが終わって階段の出入り口付近で昼食にした。奈津希は宣言どおりアジフライを用意してくれて、他にロールキャベツや天ぷら、貝のすまし汁と茸の炊き込みご飯だった。サクサクとして揚げ立ての熱さが口の中に広がるアジフライと天ぷら、炊き込みご飯の茸の歯ごたえ。火が通り柔らかいキャベツにブイヨンの香りと味が染みたロールキャベツ、貝の味が染み出した澄まし汁。前世では歯茎が弱り、硬いものを避けるようになっていた干城にとって、若い歯で奈津希の美味しい料理を心置きなく噛みしめられる時間は、理不尽な転生の中で唯一の救いだった。
「うん、美味い。奈津希の料理はいつも絶品だ」
「なによ、どうしたのよ急に」
「前世はさ、歳のせいか歯茎が弱くなって、だんだん固いものは食べにくくなってたんだよ。今はそれを気にしなくて良くなったから、奈津希の料理を楽しめることが転生で唯一の救いなのさ」
「あ〜、歯ね。干城固めの歯ブラシ使ってなかった」
「固めの歯ブラシでガシガシ歯を磨いてた」
「アタシは歯医者さんに歯ブラシは柔らかい毛先の歯ブラシで優しくブラッシングしなさいって言われたわよ、歳をとったら歯茎を痛める原因になり得るからって」
干城本日二度目の『ガーン』であった。だが、今は目の前に美味しい食事があるので立ち直れた。自分の雑学の引き出しに歯ブラシはなかった。そうか歯ブラシに固さが三段階あるのはそんな意味があったのか、遥か遠い前世の自分に思いを馳せた。
「まだ還暦も迎えてないのに歯茎が弱ってたのはそんな理由もあったのか」
「歯ブラシが決定的な理由とは言えないわよ。それで、60歳はなんで還暦って言うの?」
「十干十二支つまり干支が一回りするのが60年だから還暦だね」
「干支って12じゃないの?」
「それは十二支だね。きのえ、きのと。とかの十干と子、丑、寅とかの十二支の両方で干支だよ」
「ああ、干支ってそういうことなのね。それで一回りするのが……60年だわ、なるほど還暦というわけね」
少し前世を思い出しながら昼食の後片付けを済ませ食休みしたのちに二人はマッピングを再開した。魔力探知も魔力の質で識別できたし、何度も遭遇して気配も分かるようになった。ここまでくると視認できない角の死角でもリフレクターや魔物の至近に魔法陣を展開して攻撃することができた。だが奈津希が嬉々として楽しそうにマッピングをしているので止める選択肢はない。
干城はゲームでマッピングで不明部分があると明らかにしないと気が済まないとか、図鑑機能があると全部開かないと気になって仕方ないとかのやり込み気質だったが、多分奈津希も同類だったんだろうなと思いながら先へ進み気がつけばボス部屋だった。
「もうボス部屋か、そういや途中フリーランサーはぼちぼち見かけたけど、正解ルート以外では見なかったね」
「宝箱でもあれば寄り道もするでしょうけど、正解マップがあれば誰でも最短距離を進むでしょ。マッピングが終わったアタシ達も次からはそうなるでしょ」
干城はそりゃそうだなと同意する。オーク肉を確保するにしても正解ルートで遭遇するし、なんと言ってもこの世界のステータスにはレベルやパラメーターの表記がないから、自分の成長というやり込み要素に気づけないもんな。せめてレベル表記があれば魔物討伐でも適正レベルやランク分けがあるんだろうが、それもないからな。
ボス部屋へ入り、オークがゾロゾロと奥の扉がスライドして出てきた。あのシャッターのように上へ開く扉の向こうがリポップポイントなんだろう。扉が締まりオークキング以下の全てのオークが出現したと判断した干城はリフレクターを展開して魔法を行使した。
『(レーザーフォルテ)』
多数目標にはリフレクターで拡散反射させたレーザーが手っ取り早い。ボス部屋のオークキング以下20体程のオークは頭上が降り注ぐ光の雨を受けて数秒で
全滅した。干城たちから見れば光はリフレクターを起点に反射して三角に広がるように見えるが、対象からしたら雨のように降り注ぐように見えるだろうからとこの魔法名にした。奈津希からは魔法作ったんなら名前をもう少し捻りなさいよと言われるが、干城としてはネーミングセンスを求めないでくれとお願いしたい。
敵を全滅させたあと開いた奥へ進む扉へ進むと宝箱があった。中には袋があり空間拡張のアイテムバッグだった、多分当たりのお宝なんだろうが干城たちにはあまり魅力はなかった。ただ、アイテムバッグがどんなものかは調べることができるので、自分で作れるようになるかも知れない。ともかくお宝を回収してセーフティエリアへと進んだ。




