◾️九月二十五日——後日Ⅲ
説明がつかないことに、結論を出すことはできない。
だが、みよ子がいなくなった。それだけは事実で、どうしようもない無念が私や山吹さんの胸を巣食っていることだけは事実だ。
「あの、私……みよ子のことを本にしてみようと思うんです」
「本に……?」
「はい。実は私、小説家をしておりまして。みよ子と以前会ったときに頼まれたんですよ。そのときは、冗談とばかり思ってたんですけど、まさか本当にこんなことになるとは思ってもみなくて……。でもあの子のこと、私はずっと友達だと思ってるから、やっぱり探すのを諦めたくないんです。だから、みよ子のことを本にして、その本を読んだ誰かがみよ子の情報を探してくれるように、少しでも力になれたらと思います。そのために、山吹さんがみよ子から聞いた話をもっと詳しく教えてくれませんか? あとは、みよ子が運営していたYouTubeを見て、彼女が失踪前に経験したことをまとめます。協力してもらえないでしょうか」
私は、目の前で呆気に取られている男に、深々と頭を下げる。
無謀だとは分かっている。本を書いたところで、みよ子が見つかるかどうかも分からない。第一、企画が通るかも分からない。だけど私はみよ子の友達だ。彼女を見つけたい。彼女が体験したことはきっと、誰も知らない摩訶不思議な物語だ。
「分かりました。僕に手伝えることがあったらなんでもします。僕も、藤島さんのことを諦めたくないです」
「……ありがとうございます」
利害が一致した私たちは、それから何度も顔を合わせることになった。
いつか、みよ子が老後にシェアハウスをしようと笑って話してくれたことを思い出す。私は「何かあったら連絡して」と伝えたけれど、彼女は私に連絡をくれなかった。それが何を意味するのか、考えたところで仕方がない。胸がツンと痛くて締め付けられるから。私は彼女を見つけ出して、彼女ともう一度他愛のない話をして、猫を飼って一緒に暮らそうと言いたい。
その一心で、みよ子のことを本にまとめた。懇意にしている担当編集に企画を持ちかけると、最初は渋い顔をされた。私は普段、心温まるヒューマンドラマを書いているので、作風に合わないと言われてしまったのだ。それならば、と私は新たなペンネームで本を出すことを提案した。それだと無名の新人がぽっと出て来たと思われる。売れるかどうか、分からない。とまた渋られた。
「お願いします! 必ず、面白いと言わせます。そして、この本を読んだひとに、みよ子のことを少しでも長い時間、考えてほしいんです」
最終的には、私の熱意に屈したのか、担当編集が編集長に掛け合い、さまざまな事情を考慮した上で出版させていただく流れになった。
ペンネームはそのまま、本名の「メイ」という名前が入るようにした。みよ子のことも本名で綴る。本気でみよ子の情報を求めているから。だから私も、ありのままの自分でこの本を書く——。
八ヶ月後、無事にこの本を刊行することができた。
ちょうど出版の企画が通ったあたりで、頃合いを見計らったかのように、私の仕事用の銀行口座に、「フジシマミヨコ」より多額の入金があった。
「これ……」
入金日はその日になっている。確かに以前、みよ子が本を書いてくれたら謝礼は用意すると言っていた。でも、まさか。みよ子が近くにいるのかと錯覚する。だが、振り込みには予約機能があるから、私と会った日の前後に、彼女があらかじめ予約振り込みをしてくれたのだろうと思う。
「みよ子」
震える手で通帳を握りしめて、大切な友人の名前をつぶやく。
彼女がどれだけの想いで、私に託してくれたのかを痛感して、身が引き締まる思いがした。
どうかこの小説を読んだみなさん、藤島みよ子の情報があれば、出版社宛に連絡をください。
彼女の居場所を見つけてください。
それだけが私の望みです。
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藤島みよ子に関する情報がお分かりの方は、下記宛にご連絡ください。
〒150-00××
東京都渋谷区××××-××
◾️◾️出版株式会社 書籍ご意見係
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