16.結婚式の日に
話し合いの日から半年がたち、リアテムたちは学園を卒業した。その間にブライダ伯爵家は違法な用紙を作成使用し、不当な契約を結んでいたことが王家の調査で明るみになり男爵まで降格した。
取り潰しの話ももちろんあったが、現当主の隠居と次期当主のヴィッジマーラの廃嫡と追放でブライダ家は取り潰されるまでは無かった。
そして、本日はハロルドとリアテムの結婚式である。
「はぁ…妹に先を越されるとは思いもしなかったわ。」
そう呟くのは聖女ミューリである。しかしそういうミューリも一か月後に結婚する予定である。ただ隣に立っている婚約者のギュライアスが気まずそうにしている。
「お姉様、殿下が困ってますよ。来月にはお義姉様も結婚なさるんですから。」
ヘアメイクを施されながらリアテムは姉の嘆きをいさめる。
「あら、別に殿下に文句は無いわ。ただあと一年は早く結婚できてたはずなのにやれ仕来りだ、やれ取り決めだって神殿側がうるさかったから文句があるのはそっちの方よ。」
「いや、それに関しては俺も強く言えなかったのだから責任はある。すまなかった。」
「あなたの責任じゃないっていつも言っているじゃない。大丈夫。もうすぐ結婚出来るんだから。」
正直いちゃつくなら外に行っててほしいなとリアテムは思うが、姉のわがままに付き合うのも久しぶりだからと放っておいた。
「お父様とお母様は?」
いつの間にかいなくなっている両親を心配してリアテムはミューリに聞く。
「ヤーハおじさんと話してくるって。ほら、お金借りることになったからそのことじゃない。」
「何も結婚式のこの時に話さなくてもいいのに。」
リアテムは苦笑する。
「これで完了ですね。」
ヘアメイクを終えリアテムは立ち上がる。それを見たミューリが感動して声が出なかった。
「へ、変ですか?」
何も言わない姉の心配になって問う。
「ううん。とても綺麗だから驚いちゃった。あんなに小さくておてんばだった妹がこんなにきれいになって。」
おてんばと言われてリアテムは顔を赤らめる。
「こ、子供の時の話でしょ!別に今はそんなんじゃないんだから。」
「確かにおてんばなイメージはわかないな。本当か?」
ギュライアスが聞いてくる。
「そうなのよ。実家の近くにある大きな木によく登ってたんだから。ああそうそう。それでリアが回復魔法を使えるとわかったきっかけなんだけど…」
「もう!その話は今は言わないでよ!!」
リアテムは恥ずかしくて叫んでしまった。
「え~。でもハルとの婚約のきっかけなんだから話してもいいじゃない。」
「ダメ!それは…恥ずかしい…」
ギュライアスは少々興味を持ったがその場ではミューリをたしなめた。
「準備できたか?アニキ。」
「ああ。どうだ?変じゃないか?」
ハロルドは着なれないタキシードを鏡で確認しながら言う。
「いいんじゃね?まあ、結婚式の主役は花嫁だからな。多少おかしくても誰も気にしないよ。」
「それもそうか。」
ウェイラは適当に言ったのだがハロルドは納得してしまう。
「トライスは来てないのか?」
親友がこの場に来てくれてなくて少しがっかりしながら言う。
「殿下なら婚約者と二人っきりになりたいからと時間まで外にいるってよ。」
「それ、そう言ってたのか?」
「いや、俺がそう思った。実際そうだろ。長年思い続けた婚約者と二人っきりになれる機会なんかそうそうないんだから。」
ウェイラはいたずらに笑う。
「まあ、そうなんだろうな。お前も在学中に婚約者見つけるとか言いながら何もなかったな。」
「まあな。いろいろ忙しいんだよ。」
そっけなく言うウェイラにハロルドは気づく。
「お前、まさかルーナ嬢の事を…」
「ないない。義姉さんと一緒にいたから話す機会はあったが好みじゃないし。」
「…じゃあまだリアの事を?」
それを聞いてウェイラは遠い目をする。
「それも昔の話だよ。そもそも貴族じゃ俺には上品すぎるのかもな。」
「おいおい、お前も貴族なのになんだよそれ。それに早く相手を見つけないと騎士じゃ職場結婚なんか無理だろ?」
ウェイラは卒業後騎士団に入団した。現在見習いである。
「いやそうでもないよ。結構女性も入ってきている。まあ貴族の割合はかなり少ないけどな。」
「ああ、だから貴族は上品って言ったのか。いい人でもいた?」
「いやまったく。気長に待つさ。」
二人の会話を遮るように扉を叩く音がする。
「そろそろお時間です。」
扉の外から呼びかけられた。ウェイラはハロルドの肩を叩き二人は部屋を出る。
トライスは結婚式を行う神殿の外のベンチに座っていた。隣には婚約者となったルーナが同席している。
「本当に来るのですか?」
ルーナはあたりを探りながら言う。
「情報だとよからぬことを企んでいるらしい。まあ、あいつらの名誉を汚すには今日という日はうってつけだからな。」
「はぁ…一緒に外に来てほしいというから何かと思いましたら…」
ルーナはため息をつく。
「いや、それはすまない。」
「ふふ、別に構いませんわ。私としても親友の結婚式に何かされたら目覚めが悪いですもの。そういった意味で私たちは同じですね。」
ルーナは満面の笑みで答える。その笑顔に顔が赤らむのを感じる。
ふと、木陰に人影が見えた。今日は王家の名の下神殿は貸し切りにしている。外には騎士を配置し誰も入ってこれないようにしていた。しかし一か所だけ警備の隙を作っておいた。それがトライスたちが待ち構えている場所だ。
「どうやら来たようだ。ルーナ嬢、いつでも誰か呼びに行けるように準備しておいてくれ。」
「せっかくのドレスで走りたくはありませんが仕方ありませんね。ですがトライス様、なるべくそのようなことがないように早々に片づけてくださいませ。」
トライスは頷き、人影に向かって迫る。人影はトライスが迫ってきたのを見て逃げ出そうとするがトライスの方が素早く、足を駆けられ転ばされてしまった。
「よぉ、ヴィッジマーラ。家を追い出されて平民になってたようだが元気だったか?」
転んだヴィッジマーラをトライスは踏みつける。
「な、なんでお前がここに!?」
「なんでって、ハロルドの結婚式に出席してるからだよ。おかしくないだろ。」
トライスは当然のように言う。
「ちがう!なんで外にいたんだ!やっと警備の手薄なところを見つけた…まさか…」
ヴィッジマーラは気づいた。警備が手薄なのは自分を呼び込むためと。
「ホントお前は抜けてるよな。知略を巡らせても穴だらけだ。」
トライスは踏みつけている足に力を込める。
「痛い痛い!やめてくれ!!」
「さて、今日神殿は王家の貸し切りだ。警備の目をかいくぐって不法侵入したのだから罰は重いぞ。」
いつの間にかルーナが騎士を連れてきていた。走りたくないと言っていたがトライスが動いたときに騎士を呼びに行っていたようだ。
「ふざけるな!!どいつもこいつも!親父も!!ライア姉も!裏切りやがって!!」
騎士に捕らえられながらヴィッジマーラは叫ぶ。叫びながら連れてかれてしまった。
「ライアって誰だ?」
トライスは足に着いたほこりを払いながら言う。
「トライス様、お怪我はありませんか?」
ルーナが声をかける。
「ああ、俺は大丈夫だ。ありがとう。急いで騎士を呼んできてくれて。」
「いえ、たまたま近くにいましたので。」
もちろん騎士を配置したのはトライスだが、巡回などでそこまで近くにいなかったはずだと記憶している。よく見るとルーナは深く呼吸を繰り返していた。やはり走って呼びに行ったようだ。
「君こそ大丈夫か?走ったようだし足をくじいたりは?」
「問題ありません。ですが…」
ルーナは顔を赤らめる。
「会場までエスコートしてくださいますか?」
それを聞いてトライスは微笑んだ。
「ああ、もちろん喜んで。」
トライスは腕を差し出しルーナはその腕に手を添えた。




