14.決闘
部屋を広げハロルドとヴィッジマーラが中央に立つ。
「今回は聖女様や淑女もいるため武器は己の肉体のみとする。もちろん魔法の使用も禁止だ。いいな?」
トライスの精一杯の援護だった。この決闘でどちらかが死ぬことを極力避けたものだ。
「承りました。」
「こちらも異存はありません。」
二人のにらみ合いが拮抗する。トライスは学園時代の格闘訓練を思い出していた。実力的には五分五分であった。しかし貴族らしく指南書通りに戦うハロルドに対し、実践を鑑みて戦うヴィッジマーラ。学園の評価としてはハロルドが上だが、実戦という意味ではヴィッジマーラの方が一枚も二枚も上手だった。正直、ハロルドに勝ち目はあるのかと心配になる。
二人が構えた。同じ教師に習っていたためか同じ構え。最初に仕掛けたのはハロルドだ。ハロルドの右の拳がヴィッジマーラの顔面を捕える。しかしヴィッジマーラは体を捻ってよけ、その反動を利用して同じようにハロルドの顔面を殴りつける。それに反応できなかったハロルドはもろに攻撃を喰らってしまう。
口から血を流したため拭うハロルド。しかし実戦ではそのわずかな隙は命とりだ。すかさずヴィッジマーラはハロルドの腹部に拳を叩きいれる。三、四発ハロルドを殴りつけた。ハロルド程度ならこれで膝をつくだろう、そう思い間合いを取る。しかし予想に反してハロルドは立ったままだ。
わずかに俯いているため攻撃は効いていると判断したヴィッジマーラは間合いを詰め顔面に拳を叩きつけた。しかしその拳はハロルドによけられ、そのまま腕を掴まれた。そして捻り上げられそのまま地面に顔面を叩きつけられる。
「まだやるか?」
低く冷たい声がヴィッジマーラの耳に届く。
「ま、まだだ…」
逃げようともがくがハロルドに腕を捻られ激痛が走った。
「ググ…ま、まだだ…」
なお逃れようとするがハロルドに馬乗りにされ腕を捻り上げられた状況で逃れる術をヴィッジマーラは知らなかった。何度も逃げようとして腕を捻られ激痛を味わわされる。
「ま、まいった…」
激痛に負け、ヴィッジマーラは弱弱しく言った。ハロルドはトライスを見る。トライスは頷きヴィッジマーラの敗北宣言を承認する。
「ヴィッジマーラ、お前の負けだ。そのままおとなしくしているといい。」
トライスはハロルドに拘束を解かれた後、腕をさすりながらこちらを睨んでいるヴィッジマーラに言う。
「くそっ!くそっくそっ!!」
ヴィッジマーラは貴族らしくなく憎々しげにつぶやく。
「さてハロルド殿。貴殿の勝利となった。貴殿は敗者であるヴィッジマーラ殿に何を望む?」
ハロルドは再び流れた口からの血を拭う。
「リアテム嬢への謝罪と口外しないという約束を。それ以外は何も…」
ハロルドは口を濁す。何も求めないではなく、求めても支払えないだろうとハロルドは考えていた。
「ふむ。欲がないことがいいことなのかどうかは少々疑問ではあるがまあ勝者が求めるのがそれならばいいだろう。ヴィッジマーラ殿、立ちなさい。」
ヴィッジマーラはその言葉にゆっくりと立ち上がる。
「聞いていただろう。リアテム嬢に謝罪を。」
ヴィッジマーラは国王を睨んだがすぐに目をそらしリアテムに向き直った。そして深々と頭を下げる。
「…」
「…言葉は無しか。」
国王はため息をついた。
「ハロルド殿、これでどうだ?」
ハロルドは国王に言われてリアテムを見る。リアテムは頷いていた。
「構いません。言葉を出さないのが彼の最大の抵抗でしょう。少なくとも陛下の前でリアテム嬢へ謝罪したのは確認できました。これ以上は構わないです。」
「ふむ。ヴィッジマーラ殿、頭を上げなさい。それでは今回の話し合いを終了する。異議のあるものは裁判所にでも訴えるといい。」
そう言って国王は立ち上がり王太子、ミューリと共に部屋を出て行った。ミューリはリアテムの前を通る時立ち止まりリアテムに何か耳打ちする。リアテムはそれを聞いて少し赤くなり頷く。




