怪異感染 破 ⅩⅨ
この作品はフィクションです。
実際の人物、団体とは一切関係ありません。
「フハハハハ!最初の威勢はどうしたのだ童どもよ!」
「訳も分からず逃げ回る様、すごく無様よあなたたち!」
とある部屋。中央には白髭を蓄えたベストの男性と、豪華なドレスに身を包む貴婦人が佇んでいる。
「何が無様だ!」
「決める様もねぇだろこの状況!」
相対するのは、クロと雲野だ。
「そうら、圧し潰れろ」
男が拳を強く握り込み、空を殴る。
大気が、クロたちに向かって押し出された。
「チッ、うまく飛べねぇ!」
「わっ、飛びすぎた!」
押し出された大気を、雲野はすんでで躱し、クロは横に大きく飛び、部屋の壁に激突する。
「痛た……」
「おい怪盗!俺の体なんだから大切にしろよ!」
「そっちこそ気をつけてくださいよ!自分の体はアンタほど頑丈じゃないっすからね!」
クロと雲野は口論を始めた。
「怪異となりて一世紀、ここまで滑稽なのは初めて見るな、我が妻よ」
「ええあなた。笑いが止まらないわ。こんなに面白いのはいつぶりかしら」
その様に、初老夫婦がニタニタと笑みを浮かべる。
「……だが、少し苛立ちもある。我が子を打ち破りここに……『天災』に到達した者が、まさかこの程度とは」
「フフ……あの子は優しいから、消えたことに怒りはないのだけど……ふさわしい動きくらいは見せてほしいわね。たとえ、“肉体”が違ったとしても」
笑みを浮かべていた『天災』の夫婦は一転、笑みを消し腕を振る。
再び大気が押し出された。
「チッ!」
「だぁもう!」
クロと雲野が互いに離れるように後ろに飛び退く。
「「この身体使いにくい!!」」
二人が叫ぶ。
そう、二人は今、身体が入れ替わっている。
『天災』の呪いは二つ。
一つは天……大気の支配。
もう一つは天……すなわち、神の力の一端。
自身のエリアに入った者の魂を、強制的に入れ替える。
「混乱沸き立つ『天災』の試練……易々と攻略はさせないわ」
「さあ挑戦者よ、その穢れた魂に相応しい最期を与えよう」
威風堂々、一切を自分たちより下に見るその視線に、二人は一瞬神を感じた。
最も、一瞬だけだったが。
大津波が、走る方向と逆に流れる。
何が起きたのかは、なんとなく予想がついた。
「……またな」
俺は誰に言うでもなく呟く。
別れの挨拶ではなく、再会を約束する挨拶。
短い時間でも、殴り合えばなんとなくそいつのことは分かる。
あいつはきっと、いい奴だ。
短い間だけど、楽しかった。
きっといつか、地獄で会えるさ。
「……さて、」
俺は双葉の方を見る。
「教えろ双葉。あれはなんだ?」
「あれは……自らを『戦災』と名乗ってました。最初の部屋……確か、『呪災』とか言ってた少女の部屋を出た後、佐藤さんと逸れて……それで気がつけばここに」
双葉がライザに答える。
「なるほど、お互い2ラウンド目ってことか……そういや、あいつも言ってたな。『戦災』に殺されるとかなんとか……」
ライザは水災の言葉を思い返しながら、津波が流れた方を見る。
「ここは戦災の領域。簡単に言えば……」
「……水災が水中だったなら、戦災は戦の渦中か。つまり戦争で勝てって訳だな。にしても三対大量とは随分理不尽な気が……いや、それが普通なのか?さっきも水責めだったし」
ライザは度重なる理不尽に少し不満を覚えながらも、そういうものかとあまり気にはしなかった。
「……?三と言うのは?」
双葉がライザの言葉に疑問を覚える。
「ん?さっき津波が流れた後、なんか入ってきてたぞ?あとなんかこっちに走ってきてる」
「早く言ってくださいよ馬鹿リーダー!回収しに行かないと!!」
双葉が走り出した。
「くっ……」
双葉の走った先にいたのは、見覚えのある人物だ。
「お、追ってきたんですか!?」
「なんなんだここは、どうなってる!?」
双葉が手慣れた動きで骸骨兵を捌く。
狼狽えていたのは、先程双葉が倒した警察の指揮官の男だった。
「いいからこっちに!」
「はあ?」
全てを聞いた男は、理解できないものを見るような目を向ける。
「まあそれが普通の反応だよな」
「どうでもいいです。それより……」
双葉は辺りを見回す。
「どうするんですか?正直逃げるしか思い浮かばないのですが…」
双葉は心底面倒だと言う表情をする。
「……お前、死ぬかもとか思わねーあたり肝据わってるよな」
「慣れてますから。大体、リーダーも一緒でしょう」
ライザはこの状況にあってなお、ただの人間でありながら微塵も絶望の表情を浮かべない双葉に少し引く。
対する双葉もライザの図太さに呆れていた。
「き、君たちは何なんだ!!?」
狼狽えたまま男が二人に銃を向ける。
「さっきそれで負けてましたよね?学習してください」
「何なんだ、ねー……強いて言やバケモンだな」
ライザがアゴに手を当てながら答える。
「ふ、ふざけてないで
ドォン!!
瞬時に男の脇に距離を詰め、ライザが砂を蹴り上げる。
骸骨兵が大きく吹っ飛んだ。
「別にふざけてはねーよ。そんなに俺らのことが知りたきゃ、後で戸籍なり何なり調べてくれ」
ライザが軽く屈伸をする。
「……規模感がおかしい」
「え?」
ライザの言葉に双葉が反応する。
「さっきから部屋のサイズが測れねー。つか変なところから電波が返ってくる。この部屋、壁あんのか?」
ライザが指を指しながら話す。
「俺はあっちから来た。んで、あっちから来たやつは津波で押し流された。ならこのニーチャンが追われてた骸骨はどっから来た?」
「それは……津波とは別の方からじゃ…」
「もう一個、何で俺たちが逃げた方からも骸骨の気配を感じる?」
ライザが後ろを振り向く。後ろには、骸骨の群れ。
「なっ……」
「なるほどな。後ろから来れたってこたー、この部屋は地球みたいに壁が無い空間になってんのか。そら」
ライザが指を伸ばす。
「……距離1キロってところか。そんなにねーな」
ライザは当たり前のように電波を飛ばし、ソナーの要領で距離を測ると、警察の男に手を伸ばした。
「な、何だ!?」
「アンタ銃持ってるんだから弾も持ってんだろ。何個かよこせ」
「で、できる訳ないだろ!!」
「ならおとなしく死ぬんだな。俺らも悪いけど、アンタ守りながら戦う余裕はない」
渋る警官に無慈悲に告げられる言葉。
「今俺が考えてる作戦が出来ないなら、あとは根性で何とかするしかねー。兵隊どもはどうでもいいが……」
ライザが遠くを睨む。
「……フン、あの男、妙な真似を……」
離れた場所、空に浮かぶ椅子に肘をついて座りながら、他と異なる骸骨……戦災がライザを睨む。
その風貌は、穴が開きほつれた黒いマントに黒い軍服、黒い帽子と、いかにも上官らしい服装だった。
(しかし……あの男、妙な雰囲気を感じる……かつての……)
戦災が目を閉じて、過去を振り返る。
刹那、戦災の頭に向かって尖った何かが飛んでくる。
コツン、という程度ではあるが、それは戦災の額に当たった。
「チッ、やっぱ軽いから意味ねーか」
ライザが舌打ちしながら戦災を睨む。
「しかも……見えねー」
「いや、1キロ先なんて普通見える訳ないでしょ」
ライザの呟きに双葉がツッコむ。
「あ?見えるだろ……あーいや、俺が言ってるのは多分そういうことじゃなくて……」
ライザが双葉の言葉に疑問を覚えたのち、意味を理解して訂正する。
「あいつ、絵画を隠してる」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
戦災の絵画の場所とは……というところでまた明日です。
閑話でも少し描写しましたが、ライザは電波を飛ばして地形を把握したりも出来ます。便利な身体です。
それではまた明日!明日も18時更新予定です!




