怪異感染 破 ⅩⅧ
この作品はフィクションです。
実際の人物、団体とは一切関係ありません。
「おーいじめられっ子よ、死んじまうなんて情けねぇ」
誰かの声がする。
「……誰?」
僕は不思議と警戒していなかった。いや、そもそもさっきまで戦っていたのに、今は全く違う場所にいる。それはつまり、そういうことだ。警戒する必要は……もうないのだろう。
「誰、ときたか。まぁ確かにちゃんと会ったことはないな。んならまぁ、神様とでも思っといてくれ」
目の前の上下スウェットの人物は神を名乗る。
「……自宅警備の神様とかそういう?」
「誰がニートだぶち殺すぞクソガキ。いや死んでるけども」
神はキレながらタバコを吸いはじめた。どんどん神っぽくなくなるな……
「……フーッ、さてクソガキ、反省会と行こう。お前が負けた理由はなんだ?」
「……クライマーの話をよく考えなかったから」
僕は致命的なミスを犯した。
僕が練習した技は、僕を守る技ではなかった。
いや、使い方次第では僕を守ったのかもしれない。
……でも、僕はそう使わなかった。
クライマーはおそらく僕より色んな人を知っている。たかだか中学生の僕の意図なんて手に取るように読めただろう。
『見てねェだけのやつに教える言葉なんてない』……僕は、自分が弱いと知っていたはずだ。
グランさんだって、クライマーは護身用だと言っていた。
でも、憧れに惹かれて曇った僕の意識には、その言葉は刺さっていなかった。
「……でも、カッコよかったんだ。そう、なりたかったんだ……」
僕は誰にいうでもない言い訳をしながら涙を流す。
自分すら守れない僕に資格なんてなかった。
クライマーを扱う資格も、彼らの横に並びたいなんていう資格も。
僕は、特別でありたいと思うあまり、自分の普通から目を背けた。
「……はぁーあ、カッコいいから、ねぇ……ったく、目先のかっこよさに惚れるのは誰に似たんだかな」
神が頭をかく。
「いじめられっ子。なら、もし次があったらやることは分かってんな?」
神が僕の顔を見る。
「……守りに徹する」
「バッキャローそれじゃあカッコよくねーだろ!!」
「痛っ!!」
神がゲンコツを打ってきた。頭がガンガン揺れる。
「しょーがねーな。最初の一発だけ助けてやる。それくらいは保つだろ多分。そのあとは……ま、反省したなら自分で考えろ」
不思議と、神が見せた最後の笑みを、僕は知っている気がした。
「なっ……!?」
不意に、黒雲が繊維に貫かれる。
弾けた光が辺りを無差別に壊した。
両の掌底を合わせ、手のひらは相手に向ける。
「……そんで、全部を否定しろ。お前を苦しめるもん、お前を否定するもん、お前の前にいてほしくないもん。お前を邪魔する一切を否定して、お前を見てる奴とともに行け」
「……うん」
誰かのやりとりが聞こえる。会話の様だが、話しているのはどちらもナガレだ。
「……“呪倶戴天”」
誰かが呟く。
「ぐうぅ……!」
手から放たれた黒い光が、雷災の腕を貫いた。
「……ありがとうございます」
「坊主!!」
腕を押さえて倒れる雷災とは対照的に、ナガレが感謝を述べながら立ち上がる。
(…………)
『俺はここまでだ。じゃあ、あとは頑張れよ。もう、次は蘇生出来ないからな』
ナガレが立ち上がる直前、そんな言葉が耳に残っていた。
「……マグレかな」
雷災はゆらりと立ち上がる。消し飛んだ腕は、徐々に黒い霧が集まり再生しているようだ。
「……うん。マグレだ」
答えとは裏腹に、ナガレはそれを特に焦るでもなく眺めている。
「じゃあ、今の一撃で僕を殺すべきだったね!」
雷災が腕を構え、手に集められた黒雲から無数の雷が広がる。
「坊主!鎧だって
「違うよクライマー。鎧はもう必要ない」
ナガレの言葉と同時。ナガレに飛んだいくつかの雷が床へと進路を変える。
「……なるほど」
雷災が気づいた時には手遅れだった。
ナガレは雷災と同じ構えで、手のひらにクライマーの繊維を集める。
限界まで、圧縮しながら。
「……お見事」
雷災の賞賛の後、針のように硬くなった繊維が弾けた。
「……どうしたんだい?」
しかして、雷災は立っている。
いや、そもそも傷を負っていない。周りは全壊していたため、意図的にナガレが狙いを外したと分かる。
「いえ、ちょっとズルだなと思って」
ナガレはそう言うと、もう一度椅子に座る。
「もう一度最初から行きましょう。今度はお互い手の内をわかった状態で」
いつになくナガレは強気だった。
「……ズルっていうのは?」
「僕は今、優秀な先生がついてたから勝っただけです。特に、最初の一発。あれは僕じゃ撃てない」
ナガレは何故か申し訳なさそうだった。
(……最初のあれは、可能性だ)
ナガレは可能性を示された。
今、目の前にいる彼らと同じ力。
自身を苦しめてきて、そして、助けてくれてもいるのであろう、切っても切れない力。
それでいて、彼の知り合いが扱う、“魔力”とは別の力。
「もっと僕に練習させてください。ここで、僕一人の力で、あなたに勝てるまで。……この“呪い”を使いこなせるまで」
ナガレは驕りを捨て、自身の身を守る“呪い”を扱い切れるまで、雷災と戦い続けることにした。
もう、失敗しないために。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
呪術師ナガレ、その始まり……というところでまた明日です。
呪いと魔力の説明はそのうち書きますが、基本的にこの作品では別の力です。似た様な現象を起こしていても、プロセスや中身が全く違うものだと考えてもらえれば。
それではまた明日です!明日も18時更新です!




