第53話 到着
「ではパンツ殿。そろそろ出発しようか。」
「ファムさん、その前にちょっといいですか?」
「ん?何だ?」
既に俺が冥魔法を使える事は知られてしまっているので回収した馬車を収納魔法から取り出す。
「これも一応回収してきたんですが……どうします?」
「こ、これは……野盗に襲われた際に、途中で逸れてしまった2両目の馬車ではないですか!どこでこれを!?」
「さっき食料調達の為に倒したブラッドボアの辺りに横倒しになってましたよ。」
食料調達したブラッドボアは、俺が真っ二つにしたブラッドボアだとは言っていない。
言えば俺が空間移動まで使える事がばれてしまうからだ。
流石に第5位階魔法の空間魔法まで使える事は黙っていた方がいいだろう。
相手は王室関係者だしきっと面倒な事に巻き込まれかねない。
するとファムさんは馬車の中を検め始めた。
「馬車に積んでいた収納袋は全て残されています。パンツ殿……。感謝致します。」
ファムさんは膝をついて仰仰しく俺に礼の言葉を口にする。
「パンツ殿、誠に申し訳ないのだが、ルク・スエルまでお主の収納魔法で運んでくれないだろうか?」
「ええ。勿論いいですよ。」
当然、俺もそうするつもりだったし。
そして軽い休憩を終えた俺達は、ルク・スエルへ向けて馬車を走らせる。
道中、野盗やモンスターに襲われる事もなく明け方、ルク・スエルに無事に到着する事が出来た。
まだ街の門は開いていなかったので、俺達は門の前で適当に時間を潰していると、徐々に街の中から衛兵達が出て来て開門の準備をし始める。
すると一人の若い20歳前後だと思われる衛兵が俺に近付き話しかけてきた。
「おまえ、もしかして噂のグネグネか?」
「……?グネグネ化?何ですかグネグネ化って。」
誰?いきなり?俺に衛兵の知り合いはいないぞ?しかも何だ突然。
グネグネ化て。
「あれ?違ったか?グネグネル・パンツって黒髪の奴だって聞いてたんだが。」
何だその足首を捻りそうな名前は。
グネグネグネール・パンツな。
自分で訂正するのも恥ずかしい。と言うか苗字?のグネグネの方で呼ばれたのは初めてだから気づかなかったわ。
と言うか、普通にこの名前を受け入れている自分が悲しい……。
「あ、多分俺の事だと思います。」
「え?やっぱりそうか!ほぉ~、君が1週間足らずで金級に昇格したって言う冒険者か!」
「何で俺の事を知ってる……と言うか分かったんですか?」
「そりゃおまえさんが黒髪だったからな!この辺りじゃ見ないから直ぐにおまえさんだと察しが付いた訳さ。それ本物か?」
「いてて!引っ張らないで下さいよ!」
「あ、すまんすまん。本物なんだな……。」
いきなり髪を引っ張るなよ……。おっさんになると抜け毛に気を遣うんだぞ?
今はピチピチの17歳☆キャピッ だからフサフサだけどさ……。
確かアイルも出会った時に言っていたな。
この辺りに黒髪は見た事ないと。
外見だけでも有名になってしまっているな。
髪も隠した方がいいか?フード被るとかいっその事、赤い彗○さんみたいに仮面でも被るか?
あ、でもあれは顔だけしか隠してないから意味ないか。
そんな事を思案していると、衛兵が続けて話しかけてくる。
「それにギルド冒険者や衛兵達の間でもおまえの噂で持ちきりだよ。」
「ええ!何故!?」
「そりゃこんな短期間に金級に昇格すれば嫌でも目に付くって。期待の新人冒険者ってギルマスも嬉しそうに言いふらしてたしな。ギルドの広報誌にも載せてやるんだぁー!って嬉しそうに話してたぞ?」
『人の口に戸は立てられぬ』とは良く言ったもんだ。
と言うか、ギルマスめ……個人情報を言いふらさないで欲しい。
クソッ。本人は控えめにしていても周りから情報が駄々漏れて行くパターン……。
ギルマスに俺の事を余り広めない様、釘を刺しておく必要があるな。ったく。
…………。
…………………ん?
「……って、え!?ギルドの広報誌?何ですか?それ?」
「ギルドに所属してるのに知らないのか?ギルドが毎月1回発行してる広報誌の事だよ。」
ええ。知りませんよ。
だって俺、まだギルドに登録して1ヶ月経ってないし。
「その広報誌ってどんな内容の事が掲載されてるんですか!?」
「各地で起きた事件・事故とか、どこどこでどんなモンスターが出たとか、モンスターの討伐方法とか、薬草の採取場所とか載ってるな。最近は各地のギルマス達のコラムとか人気だぞ。俺も毎月楽しみにしてんだぁ!」
その衛兵はその広報誌が楽しみなのか、本当ににこやかに話している。
そんな物があったのか。
各地ギルドの出来事や情報が掲載されているフリーペーパーみたいなもんか。
しかしその広報誌はフリー(ただ)ではないらしい。
銅貨5枚(¥5,000)との事。
ギルドの有用な情報を売る訳だから流石にただとはいかないか。
しかし、その広報誌に俺の事を……載せる……だと!?
イヤイヤイヤ……本人が知らぬ間にギルド界隈だけじゃなくて、各国の兵士達にまで情報が共有(漏れる)されるって事じゃないか!!
「今回はここのギルマス、レトの番らしいから、コラムで紹介するって言ってたぜ?良かったな!!」
そう言いながらその衛兵は俺の背中をバンバン叩く。
全然良くない。
俺はなるべく目立たない生活をしたいのだ。
今、ここルク・スエルだけでもこの見知らぬ衛兵に話しかけられてるのに……広報誌なんかに掲載されたら……めんどくさい事になる!!
広報誌掲載の事は後でギルマスに話(注意)をしておく必要がありそうだ……。
それにしても、他の衛兵は忙しなく開門の準備をしているが、この衛兵、俺と立ち話してるけど仕事しなくていいの?
「かいもぉおーん(開門)!!」
俺と衛兵が話をしていると他の衛兵が大声で開門を告げると同時にラッパの音が鳴り響く。
どうやら開門の合図みたいなものらしい。
すると既に街から出る為に門の前で待機していたのか、街中から冒険者の護衛を伴った商人達や別の街を目指す冒険者達がぞろぞろと出て来る。
「さて、街に入る一番乗りは兄ちゃん達だな。そちらの馬車に乗っている騎士は一緒なのか?」
衛兵は御者に座るファムさんに目を移しそう聞いてくる。
「私はフリオセラ王国騎士第3騎士団所属のファム・クランシーと申す。そして中には第2王女ゼブリナント・アレクサ・フリオセラ様がご乗車されています。」
「な、何!?フリオセラの王女!?」
ファムさんが御者台から降り馬車の扉を開けると、お姫様が可憐な所作で降りてくる。
さっきまで泣きじゃくったり気絶したり、音量MAXの腹の音を出していたお姫様とは思えない程に美しい金髪を靡かせて優雅に馬車から降り立つ。
あれ?こんな美少女だったっけ?
「わらわがフリオセラ王国第2王女の『ゼブリナント・アレクサ・フリオセラ』じゃ。ご領主様へ御取次ぎを願えないだろうか。」
お姫様はそう言うと豪奢な意匠で彩られている真紅の石が埋め込まれたペンダントを胸元から取り、衛兵へ見せる。
魔石には6本脚の馬の胴体から、蛇の首が3本出ている意匠が刻まれている。
あれもファムさんが持っているペンダントと同様に、何かしらのマジックアイテムなのか?
俺は鑑定をして視る。
【神の慈愛加護付ペンダント】
致死性の攻撃、間接攻撃を3度無効化する事が出来る。
3度も致命的な攻撃を無効化してくれるアイテムか!凄いな!!
流石王族の持つアイテムは破格の性能だ。
しかし神の慈愛加護って……まさか仏の顔も三度まで的な?
「こ、これは確かに……フリオセラ王家の紋章……。暫しお待ち頂けるでしょうか。」
衛兵はそう言うや、見張り台の中に全力で走り去って行く。
その間に収納魔法から収納しておいたもう一両の馬車を横付けに取り出しておく。
すると暫くしてマントを纏った騎士が先ほどの衛兵を伴って現れた。
恐らく衛兵の上官なのだろう。
「あなた様がフリオセラ王女のゼブリナント・アレクサ・フリオセラ殿下でしょうか。私はオースフィギス王国ルク・スエル駐屯騎士団団長の『ザグローム・ヘイマン』と申します。御領主様へ御取次ぎする前にお話しをお聞かせて頂けないでしょうか。」
応対した騎士は片膝を付き、深々と頭を下げながらそう答える。
王室関係者にはこんな仰々しく挨拶しないと行けなかったのか……。
俺、フランク過ぎて無礼と捉えられてない?
後で呼び出されて首を刎ねられるなんて事にならないよね?
今後、王室関係者と会う機会もないだろうけど、一応所作だけは覚えておいた方がいいかも。
「分かりました。わたくしが突然訪問されて色々と戸惑う事も理解出来ます。」
「ご理解頂きまして感謝致します。御付騎士殿もご一緒にどうぞ。」
アレクサ姫とファムさんは頷くと俺の方へ歩み寄って来た。
そして俺にしゃがむ様な仕草をすると俺の耳元に顔を寄せるお姫様。
「お主。ここまでの護衛の任、大義であった。今回の護衛の礼はわらわが落ち着いたら改めてさせて貰う。それと……専属調理人の件も考えておくのじゃぞ?」
俺の耳元でそう囁くとニコリと微笑みかける。
料理人の件、マジで考えてたの?
でも悪くないかもしれないな。
王族専属の料理人とか一流っぽくていいよね。
しかし俺、こっちに来てからリクルートされまくりじゃない?
ステフおっさんの宿屋、ギルドの調査隊、そして王族調理人。
転職し放題じゃん!
「それと!」
「はい?」
俺が転職妄想を膨らませていると、アレクサ姫は俺の胸倉を掴み更に引き寄せる。
その目には先ほどまで騎士相手に清楚で可憐な所作をしていた美少女お姫様とは思えない程の殺気を孕んだ眼つきだ。
「例の事を他言したら…………分かっておるな?」
「れ、例の事って……例の事(腹の音の事を他言したら死刑)ですね?は、はい!勿論十分に承知しております!!」
「……………うむ!良い返事じゃ!ならばよし!!」
アレクサ姫は俺の答えに満足したのか歩いていってしまった。
うん。絶対他言しない様にしよう。
そう俺は心に強く誓った。
あの目は王族ジョークじゃない。王族本気の眼だったし!
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