第38話 帰路1
「なんだ!もう帰るのか!?」
「うん。ウェアウルフの討伐金を遺族のみんなに分配しないといけないから。」
「そうか……そうだったな。」
グリフォン便の事務所から宿へ帰ってきた俺達は丁度、受付にいたステフおっさんに明日帰る旨、アイルが伝えるとステフおっさんは寂しそうにする。
すると俺と目が合って思い出した様に話しかけてくる。
「おッ!そうだ!パンツ兄ちゃん!どうだ?考えてくれたかい?」
「……?パンツ、何の事?」
「………?」
そう言えば、ステフおっさんにこの宿屋に転職を進められた事をアイル達に話して無かったな。
アイルとソフィちゃんは首を傾けて俺とステフおっさんを交互に見る。
「え~と、ステフさんにここで働かないかと誘われたんだ。」
「……ええぇ!?ここって……『ゆっくりしていっ亭』で!?」
「そ、そう。」
「何でよ!!」
アイルは俺に詰め寄り詰問してくる。
今日こそイケるか?ん~……
メリッ!
俺の顔面にアイルのパンチがめり込む。
「私達とパーティ組むって約束したじゃない!!!」
「お兄ちゃん……おじさんと働くの?」
アイルは俺の襟首を掴みガクガク揺さぶり、ソフィちゃんは寂しそうに俺のズボンを握り見上げている。
「何だよ。先約がいたのか。パンツ兄ちゃん、それならそうと言ってくれよ。」
ステフおっさんは頭を掻きながら苦笑気味にそう話す。
「す、すみません。お伝えしようとは思っていたんですが、昨日、今日と色々と状況が目まぐるしく変わってしまって……。」
「いやいや、謝る事ぁねぇよ!パンツ兄ちゃんなら仕事任せられそうで俺が少しはサボれるかと思って誘っただけだからな!ガッハハハハハ!!」
ステフおっさん……逆に俺に気を使ってくれてるのが伝わって来て申し訳なくなるな。
「すみません。ステフさん。折角誘って頂いたのに……。またこちらに来た時にはお手伝いさせて頂きます。」
「あぁ!その時は宜しくな!で?状況が変わるって、何かあったのか?」
「アイル達とパーティを組む事は決めてたんですが、ギルマスに『調査隊』に入らないか?と勧誘されましてね‥…。」
「調査隊?ギルドのか?そうだったのか。この街じゃねぇが俺も昔やってたぞ!」
「え?おじさんも調査隊に所属してた事があるの!?」
「あぁ。若けぇ頃に1年ぐらいだったけどな。」
まさかのステフおっさん、調査隊経験者がこんな身近にいたとは。
アイルも知らなかったらしく驚いている。
「おじさん、調査隊ではどんな事してたの?」
「ん~、そうだなぁ。大昔の事だからうろ覚えだが、モンスターがいるかどうかの確認だけだな。残りの討伐金の交渉とかは他の奴に任せてたから良くしらん。」
ソフィちゃんも興味があるらしくステフおっさんの過去の調査隊時代の事を尋ねたのだが、余りのも簡潔過ぎて参考にならない……。
「それに調査隊以外の仕事がつまらなくてなぁ。」
「ステフさんもギルドの受付とかした事あるんですか?」
「おぉ、あるぜ。しかも面倒臭ぇんだよなあれ。一々あいつら(冒険者)に説明しなきゃならんし、手続きとか書類仕事も多いしな。それに俺が受付しても滅多に寄りついてこねぇしよ。」
俺はステフおっさんがギルドの制服を着て受付をする様を想像してニヤけてしまう。
しかし当時の冒険者達の心情も分かる気がする。
こんなゴリゴリの厳ついおっさんが受付にいたら近寄り難いのは明白だ。
初見であれば俺でも近づきたくない(笑)。
「それでその事務仕事が嫌で1年ぐらいで辞めちまったのさ。」
「へぇ~そうだったんだぁ。知らなかったぁ。仕事めんどくさいの?う~ん、どうしよう。」
………。
ステフおっさんからギルド調査隊のネガティブな情報しか出てこないのでアイルが困惑している。
でも受付仕事がステフおっさんには合わなかっただけでアイルやソフィちゃんが受付にいたら俺なら間違いなく一直線にそこに並ぶだろう。うん。絶対!
しかしポジティブな情報はないのか?
「ステフさん、調査隊の仕事をしていて良かった思い出とかないですか?」
「う~んそうだなぁ……あちこちタダで行けるから色んな街でその土地の美味いもんとか酒とか飲み食い出来たからそこは良かったな!!その伝手で今、食材を融通して貰ってる奴等もいるし、悪い事ばかりじゃねぇな!そう言えば!!ガハハハハ!!」
おぉ!この世界を知らない俺としては、タダで他の街に行けるのは魅力的だな。
しかも給金も出るなんてサイコ―じゃないか!
「へぇ~色んな場所いってみたぁ~い!!ね!お姉ちゃん!お兄ちゃ~ん!!」
旅する事を想像したのか、ソフィちゃんが喜色満面の笑顔で俺とアイルの手を取りながら間で飛び跳ねている。
無邪気でカワイイなぁ。
ステフおっさんと元おっさんの俺2人はそれを見てほっこりしている。
「ギルド調査隊の事は兎に角、村に帰ってお父さん達に相談してから決めよう?」
「うん。分かったぁ!」
そして俺達は各々の部屋に戻り明日出発する為の準備を整える。
そして夜も更け、晩御飯の時間になると俺達3人は1階に集まった。
今日の晩御飯は小麦パンとワイバーン肉のステーキ、豆と野菜たっぷりの煮込みスープだ。
「え?ワイバーン肉のステーキって高いんじゃないの!?」
席に着くなりアイルがステフおっさんにそう話しかける。
「おめぇ達は明日、村に帰るだろ?。道中長いんだ!しっかり食って精を付けないとな!」
「おじさん!有難う!!」
ステフおっさんが態々俺達の為に用意してくれたらしい。
見た目怖いけど、心は優しいな。見た目怖いけど。
「おぉおお!今夜はワイバーン肉かぁ!?」
「マジ!?」
いきなり声をかけて来たのは例の4人組のリーダー(仮)のシェールとジンの2人だ。
エチルさんとカバールさんはまだ部屋にいるのか姿は見えない。
「あぁん?おめぇ達はこっちだ。」
4人組用のテーブル上にはワイバーン肉ではなく、オーク肉のステーキが並べられていた。
「あれ!?何でメニューが違うんだよ!」
「アイル達は明日、村に帰る為に精を付けて貰わねぇといけねぇからな。な?ソフィ~?」
ステフはソフィの頭を優しく撫でながらそう話す。
「え?俺達も明日、旅立つ予定なんだけど?」
「おめぇ達はいっぱしの冒険者だろうが!それに今朝は俺に手間かけさせやがって。まだ礼の一つもされてねぇんだけどな?あぁ?」
「……あ、あ、け、今朝は誠に有難うご、御ぜぇめしたぁ……。」
シェール……怖いのか?噛んでるぞ。
今朝、『太陽の風』の4人は前日に酒を飲み過ぎてギルドの集合時間に遅刻してしまったのだ。
まるで蛇に睨まれたなんとやら状態だ。
シェールとジンは一瞬でシュンと縮こまりステフに礼を言う。
「礼はこっちのパンツ兄ちゃんにいいな。おめぇ達を呼びに来てくれたのは兄ちゃんなんだからな!」
「兄ちゃん、すまねぇな。命も助けて貰った上に……借りばっかり作っちまって……。兄ちゃんが呼びに来てくれなかったらマジでやばかったぜ。」
シェールがそういいながら頭を下げる。
「そうだ!兄ちゃん達、村に帰るって言ってたよな?どこなんだ?」
「え?メリッサ村だけど。」
シェールの問いかけにアイルが答える。
「ヨシっ!決めた!!」
「「「?」」」
「借りを返しきれる訳じゃないが、俺達が村まで護衛してやるよ!」
「えぇ!いや、いいよ!別に!そんなつもりで助けた訳じゃないし!」
シェールが護衛の提案をすると、アイルが戸惑った様に答える。
「いや!させてくれ!メリッサ村ってマゾン草原の近くだろ?勿論、依頼料なんていらないし、道中の夜の見張りは俺達が担当するからぐっすり眠れるぞ?」
「ど、どうする?パンツ?」
アイルはまだ戸惑いの表情をしながら俺の顔を覗きこんだ来る。
ソフィちゃんはもうワイバーン肉に齧りついてハムハムしている。
「御好意に甘えていいんじゃないか?護衛してくれるならこちらとしても有り難いし。」
「そ、そうかな……。私はパンツがいれば道中、モンスターに襲われても大丈夫だと思うけど……。」
「夜、見張りをしなくていいんだぞ?道中の5日間。それだけでも有り難いだろ?」
「そ、そうだけど……。」
「ヨシッ!決まりだな!」
シェールはアイル団長の答えを聞かずに俺達に付いて来る事を決めた様だ。
決断早えぇな。シェールの隣りでジンは頭を抱えてるし、この場にいないエチルさんとカバールさんにも相談してない。
こんな調子で突っ走るから他の3人が巻き込まれるんだなきっと。
悪い奴じゃないけど、天然で周囲を振りまわすタイプだ。
そしてそれぞれ夕食を済ませて明日の道程について1階でアイルと相談していると、部屋へ先に戻った4人の部屋から聞き取り辛いが怒声が聞こえて来る。
「……なん……いつ……勝手に………るのよ!」
「……そう……すよ!!買い出しもしなきゃ……んですよ!!」
「アイルちゃん達に……迷惑に……でしょ!!」
相談もなく勝手に俺達に付いていく事を咎められているのだろう。
エチルさんとカバールさんにこっぴどくお説教をされている様だ。
シェールが縮こまり2人にお説教されている状況が目に浮かぶ。
暫くするとエチルさんとカバールさんが俺達の元に降りてきた。
「アイルちゃん、ごめんね。うちのバカが勝手に付いて行くなんて言い出して。迷惑じゃない?」
「え?いいえ?私達は別に……むしろありがたいと思ってますけど。」
「ほんと?……ほら、アイルちゃんとパンツ君……やっぱり……男女の旅でしょ?……邪魔しちゃ悪いかなって思ったのよね。」
「………///!?そ、そそそそ、そんな!パンツとそんな関係じゃないですから!!な、ななななな何を言ってるんですか!?エチルさん!!それにソフィだっているし!!!」
アイルはワタワタと手を振り頭を振り顔を真っ赤にして否定する。
そこまで必死に否定されると寂しいよ。おじさんは……。
「そこで、明日の朝から食料の買い出しに行きたいと思っているので出発は昼からにして頂けないかのご相談に来たのです。」
カバールさんがこのパーティ雑務全般の担当って言ってたな。
買い出しから宿の手配まで……大変だな。
買い出しについては俺達も同様に明日の朝、向かう予定だったので一緒に付き合う事を決めた。そうだ。胡椒も買わないと行けないし!
翌朝
「絶対また来るんだぞ!」
俺達3人が旅支度を終え、1階へ降りると既にステフおっさんが待ち構えておりアイルとソフィちゃんにハグをして『途中で食べてくれ』とポーク肉をパンで挟んだサンドイッチを持たせてくれた。
「あいつら(4人組)も付いていくんだろ?奴らの分も一応、あるからよ。」
ステフおっさん、ホントいい人だな。見た目怖いけど。
1階で雑談をしていると例の4人組が降りてくる。
「おめぇら、アイル達を絶対に守れよ!」
「ヒッ!!あ、当たり前ですよ!おやっさん!!俺達はこう見えても白金級のパーティですよ?それに兄ちゃん達は命の恩人なんですから俺達の命に代えても守って見せますよ!!安心して下さい!」
「おぅ!宜しく頼むぜ!!もしアイル達に何かあったら……分かってんだろうな?」
ステフがシェールに腕を回し顔を近づけて威嚇する様に耳元で囁くと小さく『ヒッ!』と呻く声が聞こえてくる。
白金級冒険者の護衛を怯えさせる宿の店主てどうなんだよ。
そうして俺達はステフおっさんに礼を言い、街で買い出しを終えてメリッサ村、アイル達の故郷へ帰路につく。
道中初日、街道沿いを馬車をアイルが操り、それを護衛する様に四方にシェール達が陣取りのんびり進んでいく。
出発したのは予定通り昼過ぎだったので街道沿いの木陰に馬車を止め、ステフから貰ったサンドイッチをシェール達にも手渡し小休憩を挟む。
「うめっ!!」
「ほんと美味しッ!!」
ジンとエチルさんはサンドイッチを頬張りながら満足そうに笑う。
「あのおっさん、見た目は怖ぇえけど、いい人だよな。」
「えぇ。それに料理も美味しかったですし。」
「だよな!それに久々に帝国の酒も飲めたし最高だったぜ!!またあそこに泊まろ!!」
シェールとカバールもステフの宿を気に入った様だ。
「シェールさん達、ほんとに良かったんですか?金にもならないのに俺達の護衛なんて受けちゃって。」
「ん?シェールでいいぜ。敬称なんて堅苦しいモン俺は苦手なんだ。」
「じゃぁ俺もパンツと呼んで下さい。」
「おう!パンツ兄ちゃん!!」
「それで、良かったんですか?」
「あぁ。命の恩人だからな!全然気にしてねぇぜ!こいつらだって同じ気持ちだよ。」
「そうだよパンツ君。気にする事ないよ。」
エチルさんも頷きながらそう答える。
「それに、マゾン草原にも寄ろうと思ってたしな。手頃な魔獣でも狩って金と経験値を上げてこいつらも早く白金級に上がって貰わないといけねぇし。」
シェールは3人を親指で指しながらそう話す。
「そうすればもっと………」
シェールの言葉を断ち切る様にジンが俺達に向け手を挙げ周囲を伺う仕草をする。
「ど、どうかしたんですか?ジンさん?」
「シッ………モンスターがいる。多いな。」
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