第112話 目覚め
「ん……んぉんん……重いな……なんだこれ……ん?………所長ぉぉ……ぉおおおお?だよね?これ?あれ?でも鬣ないし……あれ?でも翼ある……けど、所長は雌ライオンじゃないし…………飯かな?でも生はちょっと……せめて火を通してくれないと……。あのスケルトン……手抜きしやがって。」
俺とカロリーさんは瓦礫の間から覗き込む。
すると先ほどまで舌を出して気絶していた筈のノーマルグリフォンが目を覚ましていた。
ブツブツと文句を言っているグリフォンは、背中に乗っていたプリンちゃんを乱雑に振り落とすと、まだ気絶しているプリンちゃんにスンスンと鼻を近付かせる。
プリンちゃんの事を瞬時に『所長』と呼んだので、行方不明となっていたグリフォンで間違いなさそうだが……
鬣が無くなり、プリンちゃんと認識されず、嘴でツンツンされて今にも食われそうになってるけども。
良かった。生きていたか。
見た所、外傷なども無く元気そうに見える。
代わりにプリンちゃんの命が失われようとしているが……。
「どうやらあのグリフォンが行方不明のグリフォンみたいですね。」
「お!無事だったかぁ!!依頼達成だな!良かった良かった!!あいつ(プリンちゃん)も従業員が見つかって一安心だろうぜ!」
「今にもその従業員に食われそうになってますけどね(笑)」
俺とカロリーさんはハイタッチをする。
「あのーそこの人―。これ(プリンちゃん)食っていいんですかー?」
「「?」」
俺たちが騒いでいると、当のグリフォンが、プリンちゃんとみられるものを食う許可を求めてきた。
「あぁ!いいぜ!食っちまえ!!」
いいんだ。
カロリーさんはグリフォンに向けてサムズアップする。
共食いさせちゃうの?
「生はなぁー……でも腹減ったし……。生肉なんてすげぇ久しぶりだぜ……。俺は美味しい部位は後から食う派だから取り合えずマズイ所から……。」
と言いながらそのグリフォンはプリンちゃんの翼にガブッと噛みついた。
「いったぁぁぁああぁぁぁぁいぃんんん!!!!」
「うおッ!ビックリしたぁ!まだ生きてるし!!」
「んもぉぉおん!!何するのよぉぉんん!!痛いじゃなぁぁああああぁっぁいい!!」
「あれ?その口調は……やっぱり……所長?」
「そうよぉぉおおおん!!!どこからどう見たって見目麗しいあなたの上司で女子(男子)の所長のプリンちゃんよぉぉおおん!!!」
「鬣無くなってるじゃないですか!?遂に雌ライオンに性転換したんスねぇ!!」
「してないわよぉぉおおん!!今日1日で全部無くなっちゃったのよぉぉおおおん!!慰めてぇぇぇぇぇん!!」
「1日で………何をどうすればそんな変わり果てた姿になるんスか……。」
それはそれは壮大な物語があったんですよ。
悪さをするプリンちゃんを諫める為にカロリーさんに羽を毟られ、鬣も毟られ続け、またある時は魔石ライトで目潰しをされ、またある時はマナに殴られ壁に叩き続けられ……そして今に至る。
ここに辿り着くまで涙無しでは語れない物語が……(呆)
思い出すだけでプリンちゃんの扱いの雑さに少し可哀想になってしまった。
今度から少しは優しく接してあげよう……。
「元尖晶石級冒険者だった所長をここまで痛めつける奴がいるんスか!?」
「もぉぉおぉぉおおおん!!そこら中にいるわよぉぉおおおん!!!私がどれだけひ弱でか弱いライオンなのか思い知らされたわぁぁぁぁん!!!『井の中の蛙、大海を知らず』ならぬ『サバンナの中のライオン、大陸を知らず』……だったのよぉぉおおおん!!!」
「サバンナの中のライオンは普通だし、それに所長はライオンじゃなくてグリフォンじゃないスか。最後『ン』しかあってねースよ。」
普段からやりとりしているだけにツッコミも冷静だな。
と言うか諺、こっち(異世界)でも同じ言い回しで草。
そういえばプリンちゃんて今の仕事(グリフォン便)をする前は冒険者だったんだっけ。
「そう言えばプリンちゃんも元冒険者でしたね。」
「ん?あぁ。そうだね。あのバカもっと上に行けたのにな。勿体ねぇ。」
「………カロリーさん。尖晶石級 てギルド内ではどのぐらいのランクでしたっけ?」
「10ランクある内の丁度真ん中の5番目さ。とは言ってもそこまでランクを上げられる連中もそこまで多くないけどね。ギルド内でも100人ぐらいしかいないよ。」
「え……!?そんな少ないんですか?」
俺は金で、ルク・スエルの筋肉ダルマのギルマスのレトが確か二つ上の金緑石級て言ってたな。
それよりも上のランクだったて事か。
ギルドのランク、忘れかけてたわ……。
鋼玉級
天河石級
蒼玉級
紅玉級
尖晶石級
金緑石級
白金級
金級
銀級
貝殻級
そんな事を思っているとノーマルグリフォンが雌ライオンの頭をヨシヨシしている。
傍から見れば、動物同士でじゃれあっている微笑ましい光景に見える状況なのだが、プリンちゃんの事を知っているだけに何とも言えない感情になるな。
ここまでプリンちゃんと顔見知りなら間違いないだろうけど、一応、行方不明のグリフォンかどうか確かめておこう。
「お取込み中すみませんが、あなたがグリフォン便所属の『カン』さんですか?」
「んもぉぉおん!!パンツちゃぁあん!!失礼よぉぉん!!何処からどう見ても『カン』ちゃんでしょぉおおん!!!もう5年も一緒に苦楽を共にして来たんだから間違いないわよぉぉお……って……パンツちゃん?………よねぇえぇえぇん?」
プリンちゃんは俺を二度見すると己と同じく変わり果てたモヒカン頭を見て一瞬絶句する。
まぁそうなるわな……。
気絶して目が覚めたら先程まで一緒に冒険してきたパーティメンバーの頭がいきなりモヒカン頭になっていれば触れずにはいられない。
「え?そうですけど?」
「それ……どうしたのぉぉおん?」
「触れないで下さい。」
「中々イケてる?…………じゃなあぁぁぁい?」
「………………。」
「………ッププププ…プッププ!後ろ姿………ッププ!!」
プリンちゃんの問に無言でいると後ろにいるカロリーさんの笑いを堪えている声が聞こえる。
プリンちゃんも疑問形で答える辺り、一応、気を使ってるのかな……。
「ま、まぁ……プリンちゃんが気絶してる間にこちらも色々あったんですよ……。」
「…………!?わかったわぁぁあん!!!」
「?」
「きっとあたしがそのバカ(カロリー)に鬣を毟られたのを見て、愛する人と同じ様な髪形にしようとしてくれたのねぇぇん!!うれCぃぃいいいい!!!」
……………。
…………………………。
「……………。そう言えばカロリーさん。グリフォンの見分けって付くんですか?」
「いやぁぁぁああああああん!!!無視ぃぃいいいいいん!?」
俺は振り返りカロリーさんに話をふる。
プリンちゃんの戯言に一々付き合ってたらこちらが疲れるだけだからな。
適度にスルーしよう。
優しくしようと思ったけどやっぱり難しいな。
しかし……カロリーさんが蹲って震えている。
「ブフッ!!だはははははっははは!!!だから真面目な顔でこっち見ないでって言ったじゃん!!だはははは!!!」
俺が真面目な顔で振り向いたのが余程面白かったのか、カロリーさんが噴き出した。
いい加減にしろよこいつら。
数分すると俺のモヒカン頭に慣れ始めたのか、ひーひー言いながらも落ち着いてきた。
別の意味でひーひーいわしたろか?ああん?などとは口が裂けても言わないけどな。
「はー面白かった。そーだね、個体識別するのは嘴の形や色、大きさ、羽の大きさや毛並み、鉤爪の形、体色の模様の違いで見分ける事は可能さ。ま、今回は俺も行方不明になったグリフォンの特徴を知らされてはいたけど、やっぱり依頼者のそいつ(プリン)が一番分かるだろうし一緒に連れて来たって訳。それでも分らない時には魔力紋でも分かるしな。」
「魔力紋?」
「あぁ。魔力の質は種族、個人毎それぞれ異なっていて、生きている間、生涯変わる事がないんだよ。だから『魔力紋』で個人を特定する事が出来るんだ。ほらこれがそのアイテムさ。」
カロリーはそう言いながら、収納袋から少し窪みがある円形のフリスビーの様な物を取り出した。
「この窪んでる所に魔力を流せば登録されている魔力と照合が出来るって事なんだ。運送業の営業を許可する際に従業員全員の魔力紋を登録していたからね。」
人で言う所の『指紋』とか牛の『鼻紋』みたいなものかな?
この世界の生物は大なり小なり『魔力』を有しているらしいしな。
さて、行方不明者も見つけられた事だし、さっさと帰ろうと思っているとマナが一歩前に出る。
「おい、鳥。一つ確認じゃ。」
「鳥って………何ですか?この獣人のお嬢ちゃんは?」
「貴様、何故このダンジョンに居るのだ?」
「そうよぉぉおん!!カンちゃあぁん!何でこんな所に入っちゃったのぉぉおおん!?」
そう言えばそうだ。
マナがこのスライムダンジョンを見つけたから良かったものの……
俺達3人(パンツ、カロリー、プリン)だけじゃ発見できなかったぞ。




