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8月21日(火)。課外研修旅行2日目

今回も特にオチはありません。

そして、今回も私の趣味と妄想と願望が大いに含まれますので、事実と反する場合があります。ご了承ください。

 翌朝。恭子はモーニングコールで眼を覚ました。謎の演説を繰り返す受話器を置くと、恭子は半分眠ったまま悠李のベッドの方を見た。わかっていたが、彼女はまだ眠っているようだ。

 悠李は非常に朝に弱い。寝起きが悪い。恭子も寝起きがいい方ではないが、悠李ほどではない。どうやら彼女はかなりの低血圧らしい。


 時計を見ると、6時半を過ぎていた。朝食は7時半のはず。恭子はベッドから降りると、悠李の肩をつかみ、乱暴にゆすった。

「ユウ。悠李。起きてください。朝です。ユーウー?」

 ゆさゆさゆさ。話しかけながら延々とゆすっていると、悠李が目を開いた。半眼で、ただでさえ吊り上り気味の目がかなり凶悪に見える。そんな彼女に恭子は微笑んだ。

「おはようございます、ユウ」

「……おはよう……」

 よし、今日は大丈夫そうだ。恭子は「早めに起きてくださいね」というと、先に着替えはじめた。悠李はもぞもぞとベッドの上で身を起こす。ここまでくれば、後は覚醒するのを待つだけだ。十分もすれば眼を覚ますだろう。


 恭子が服を着替え、顔を洗って戻ってくると、悠李が着替えていた。彼女は昨日はスラックスだったが、今日はショートパンツだ。レイチェルではないが、脚線美が素晴らしい。悠李がモデルとしてデビューしてもおどかないくらいスタイルがいい。


 それにしても。

「ユウ……前から思っていましたが、足が長いですね」

「……そう……?」

 まだ半分寝ぼけ気味の悠李は恭子の言葉に生返事を返した。恭子は苦笑し、寝るとき邪魔にならないように束ねていた髪をほどき、鏡面台の目に座って髪を梳きはじめた。入れ替わるように悠李が顔を洗いに行った。


「あ、ユウ。お願いがあるのですが」

「……ん?」

 まだちょっとテンション低めだが、顔を洗って一応目は覚めた様子の悠李を恭子はそばに呼び寄せる。

「髪を結ってほしいんですけど」

 ちなみに、恭子は自分で髪が結べない。不器用なのだ。だからいっそ、悠李くらい髪を短く切ってしまいたいのだが、切ろうとすると、周囲が全力で止めにかかってくるのだ。

「……まあいいけど。どんなふうにすればいいんだい? ツインテールにしようか」

「17歳でツインテールはちょっと。せめておさげにしてください」

「……おさげって、今日は仮装がしたいんじゃないのかい……。まあいいか。ゆるふわなおさげにしようか」

「あなたの口からゆるふわって言葉が出てきたことに驚きですわ」

 基本ハンサム口調の悠李がそんなかわいらしい単語を発するとは。ちょっと驚く恭子である。悠李は反論の代わりに恭子の髪を強めに引っ張った。


 髪を左右で2つに分け、両方を軽く三つ編みにする。髪の半分くらいを編んだところでヘアゴムで束ね、レースのリボンを結ぶ。確かにゆるふわなおさげだ。

「器用ですねぇ、ユウ」

「僕ももともと髪が長かったからね……恭子はそろそろ自分で結べるように成りなよ」

「髪が長すぎて、結びづらいんです」


 最大の理由は不器用だからだけど!


 必要最低限の荷物を持って食堂に向かう。みんな揃って朝食である。ちなみに、隣の部屋の紗耶加とレイチェルには部屋の前で遭遇し、悠李がレイチェルに「美脚!」と抱き着かれていた。

「おう。おはよう、お前ら。恭子、体調は大丈夫か?」

 食堂で真っ先に声をかけてきたのは心配性気味の敬だ。恭子は微笑む。

「大丈夫です。朝に限ってはユウより体調がいい自信があります」

「ああ……香坂、朝が弱かったんだったな。朝食はちゃんととれよ」

「食べ過ぎると気持ち悪くなるんだよ。どうもお世話様」

 悠李がせっかく心配して声をかけてくれた敬に皮肉気にそう言った。本当に起き抜けの悠李は機嫌が悪い。心の広い敬は「胃腸が弱いのかもな」と苦笑するにとどめたが。


 朝食を取りながら今日の段取りを決める。まず、今日の午前中はで二条城。午後から映画村だ。

「行くのは、わたくしとユウ、紗耶加、レイチェル、碧、敬、氏家君でいいですか?」

 こっくりと呼ばれたメンバーがうなずいた。紗耶加が昨日のうちに路線を調べていてくれたらしく、話し合いはかなりスムーズに進んだ。デザートまで平らげて一度部屋に戻ると、紫外線対策をして鞄を持つ。ロビーで一度集合し、そこで解散。恭子たちはバスで二条城に向かった。千尋を含む2年生の何人かも二条城に行くらしく、バスで一緒だった。





 二条城――徳川家康が築城を命じて作らせた城。京都における徳川家の居城。徳川家康と豊臣秀頼との会見がこの城の二の丸御殿(当時は御殿)で行われたという。まあ、恭子が知っている二条城の知識としてはこんなものか。


 とりあえず、恭子の最初の感想は、

「広い……ですね」

 だった。

「何言ってるの。恭子のうちだって広いじゃない」

 紗耶加が呆れてツッコミを入れる。いや、広さだけで言うなら、香坂家が一番敷地面積が広いと思うけど。それはともかく。

「これだけ畳が並んでいる光景なんて、そうそう見られないでしょう?」

「ああ……うちも道場と言いつつ、洋館的だもんな」

 千尋が何となく納得したようにうなずいた。わかってくれてありがとう。

「中が見られるのはこの二の丸御殿だけだったけど……」

 紗耶加が残念そうに言った。まあ、紗耶加は楽しそうに見ていたし、残念がる気持ちはわかる。

「大丈夫よ紗耶加。魔法修復師になれば、こうした歴史的建造物の立ち入り禁止区域にも入れるもの」

 レイチェルが紗耶加の耳元に囁いた。紗耶加が「なるほど」と感心している。まじめな紗耶加にうなずかせる悪魔のささやき。すごいぞ、レイチェル!


「まあ、明日は御所に行くだろ。そっちも楽しみにしておけ」

「それもそうね」

 普通に慰めた敬に、紗耶加も気を取り直したので昼食を取りに向かった。


 紗耶加の案内に従ってバスを乗り継ぐ。最短ルートを調べてくれた紗耶加に感謝。無事に映画村に到着した。あたりまえだがすごい人で、家族連れや友達同士、カップルなど様々だ。恭子ははぐれないように悠李と手をつないだ。

「さっきからつっこもうか迷ってたんだけど、言うわ。それ、今日は悠李が男装してないから、ちょっと変よ」

「女の子同士ならセーフです! 男同士だったらちょっと気持ち悪いですが」

 恭子の主張に、ツッコミを入れたレイチェルがおさげの恭子と日傘に偏光グラスの悠李をしげしげと見つめ、「……ありかもしれないわ」とうなずいた。


 途中で突然始まった時代劇の殺陣を見学しつつ、貸衣装屋に向かった。そこでちょっともめた。


 女子組はともかく、男子組も扮装するか、という話になったのである。男子組は、温厚な氏家も含めて拒否したため、レイチェルの命令でじゃんけんをした。負けたものが1人、生贄として扮装すればいい、と結論を出したのだ。この3人ならだれが扮装しても似合うだろうから問題ない。


 結局、負けたのは氏家だった。彼は整った顔をひきつらせながら、男性スタッフに案内されていった。もちろん、恭子たちを案内してくれたのは女性スタッフ。

 ずらりと衣装を見せられ、何を着るか尋ねられる。

「十二単がいいです」

「すみません。貸し出し中です」

 という会話がなされたので、恭子もおとなしく着る衣装を選んでいた。


「私、武士がいい!」


 初めに決めたのはレイチェルだった。ていうか、何故そのチョイス。

「レイチェルはこっちのドレスの方がいいんじゃない?」

 と、紗耶加も西洋人風なレイチェルに似合いそうなドレスを指さす。すると、レイチェルは言った。

「だって、そう言うのはいつでも着れるでしょ。男装なんてめったにできないわ!」

 それを聞いて、常時男装状態の悠李が複雑な表情になったのは見なかったことにしておく。

「じゃあ、僕も武士にしておこうか」

「ええっ。そこはお姫様でしょ」

「……レイチェルのそのこだわりはなんなんだ……」

 映画村に行きたいと言い出したのは恭子だが、レイチェルの方が楽しそうだ。レイチェルの謎のこだわりで、悠李は戦国お姫様の恰好をすることになった。もちろんかつら着用。武士も似合いそうだけどね。


 一方の恭子は芸者の恰好にした。レイチェルの『めったにできないから』という理由をまねた結果だ。紗耶加は町娘で、よくわからない集団が出来上がった。

 1時間ほど村を散策できるということで、入口の方に戻ると、お茶を飲んで待っていた碧と敬が観光客の女性に囲まれていた。いや、敬は女顔だから、囲まれているのは碧か?


「……何してるんだい、君たちは」


 空気を読んだ悠李が声をかけた。その声に顔を上げた碧と敬の顔が強張るのが面白い。何しろ、悠李は現在、絶世の美女にしか見えないからだ。ちなみに、偏光グラスをかけていないため、よく『見え』るらしい。


 レイチェルとともににやにやと女装(?)の悠李を見ていた恭子だが、彼女の今の恰好に既視感があった。以前、夢に出てきた彼女と同じだ。もしかして、予知夢的なアレだったのだろうか。

 腰まである長い髪にゆったりとした上衣は鮮やかな赤。ちょっと背は高いが、十分美人で通る。


「あ、悠李ちゃん。きれいだねぇ。みんなも……レイチェル。思い切ったね」


 おそらく、まず目に入った悠李をほめ、続いて恭子たちも誉めようとした氏家は、レイチェルの武士姿を見て言葉を変えた。


 そんな氏家もレイチェルと同じ武士姿だったが、何というか……彼が正しい武士姿なのだろうな。彼と並ぶとレイチェルが小姓に見える。


 とりあえず、洋服の碧と敬も一緒に写真を撮り、村の散策に向かう。わかっていたが、イケメン武士の氏家と絶世の美女悠李がいるので、かなり目立った。


 しかも、突如始まった殺陣にお姫様が「ああ、僕もやりたい……」と切なそうにため息をつくという混迷ぶり。明らかに何かが間違っている!


 突飛なことを言いだすお姫様は武士と小姓に任せ、恭子は碧の隣に下がった。ニコッと笑って芸者は尋ねる。ちなみに、芸者の恰好は下駄で、歩きづらかった。

「どうですか? ユウ、美人でしょう」

「……もともと美人なのは知っている。ドクター香坂の娘だからな」

 まあ、ばっちり母親似ですからね、悠李は。恭子は素っ気ない碧に苦笑した。


 ちなみに、ホテルに帰ってからの夕食時、悠李の弟である千尋に悠李のお姫様姿を見せたら爆笑された。

「姉貴、おふくろにそっくりだな~。っていうか、親父の要素がどこにも見出せないよな」

「何言ってるんだ。僕の能力はばっちり父親譲りだよ」


 爆笑された姉は、爆笑した弟に冷静にツッコミを入れていた。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


特にオチはありませんでしたね、はい。

恭子は割とノリがいい人です。それにしても、何故十二単が着たかったんだろう。


次は8月16日、土曜日です。

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