表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/44

8月22日(水)。課外研修旅行3日目

今回はお約束。

 課外研修旅行3日目。その日はホテルのモーニングコールではなく、碧のモーニングコールで起こされた。

『恭子。起きたか?』

「おはようございます、碧。どうしたのですか?」

 寝ぼけた頭を振りつつ尋ねると、恭子は時計を見た。まだ朝6時を過ぎたばかりではないか。

『とりあえず、香坂を起こせ。そして彼女を廊下に出してくれ』

「は? ……ええ。わかりました。ちょっと待ってください」


 恭子はいったん電話を切ると、何が何だかわからないまま悠李を起こしにかかった。

「ユウ。ユウ。起きてください」

 寝起きの悪い悠李は身を起こしたが、すぐにぼふっとベッドに逆戻りした。恭子は悠李の頬を引っ張る。

「起きてください。碧が用があるそうです。おーきーてーっ」

 両手で容赦なくゆすると、起きた。ベッドの上に座り込み、ぼんやりした目で部屋の中を見渡す悠李にミネラルウォーターを渡す。基本的に朝食が入らない悠李は、水があれば活動できるだろう。

「それ飲んで、廊下に出てください。碧が待っています」

「……なんで?」

「それがわからないので、ユウが聞いてきてください」

「……ん」


 低いテンションでうなずくと、悠李は水を飲み、薄手の上着を羽織っただけの姿で部屋の扉を開けた。恭子はパジャマ姿だが、悠李はジャージの下にキャミソールで寝ていたため、上着を羽織ってしまえば人前に出てもそんなに問題はないだろう。悠李と碧の会話が聞こえる。



「……はあ? 何それ。何でそれで僕を起こすんだい……」

「いいから来い。……その格好でいいのか?」

「待ってくれるなら着かえてくるけど」



 どうやら、碧は待ってくれるようだ。悠李が戻ってきて勢いよく服を脱ぎだした。スラックスに開襟シャツを合わせ、悠李は上着を手に取ると再び出ていった。どうやら、恭子に説明はしてくれないらしい。

「恭子。着替えたら君もおいで」

「あ、はい」

 悠李の声で呼ばれ、のんびり着替えていた恭子はあわててワンピースに着替えた。恭子も上着を持って、パタパタと部屋のキーを持ち、扉へ向かう。


「おや、早かったね」

「さすがに恭子はしっかりしているな」


 碧が悠李へのあてつけのように言ったが、悠李は自分が早朝にしっかりしていない自覚はあるらしく、何も言わなかった。


 碧に連れられて1階上の廊下に連れて行かれた。集められているのは10人ほど。何故か、警察官がいる。

「すまん。事件だ。お前たちは身体検査が行われる」

 引率の仁科にしな先生が言った。いや、仁科先生が謝ることではないが……しかし、恭子は仁科先生の言葉を聞いて、ああ、と集められたメンバーに納得した。


 全員、使用制限魔法の行使者なのだ。第3級から1級まで。いや、第1級使用制限魔法の行使者なのは悠李だけだけど。


 その悠李に恭子自身、碧、氏家、レイチェルに千尋。それに、1年生の村川もいる。彼も使用制限魔法の行使者だったらしい。

「この1階上で、殺人事件が起きました。申し訳ありませんが、皆さんには身体検査を受けてもらいます。ご同行願います」

 警察官の追い打ちに、全員重いため息をついた。使用制限魔法の行使者である以上、みんな、この扱いにはなれているのだろう。


「……その前に、どんな事件なのか教えていただけませんか?」

 碧が警察官に尋ねた。みんながバッと碧の方を見て、それから大きくうなずいた。確かに、協力するなら事件の内容を説明しろ。

「あ、えぇっと」

 警察官は迷い、それから、話しだした。


「……今日の午前5時半。この1階上の12階で、自称作家の熊谷くまがい洋次ようじ氏が死んでいました。見つけたのは隣の部屋を取っていた友人の自称イラストレーター川本かわもと駿しゅん氏。電話しても熊谷さんが出ないことから、気になってホテルの係員に頼んで開けてもらったらしいです。そして、ベッドの上で熊谷さんが亡くなっているのを発見しました。外傷はなし」


 それでかぁ、とみんな納得した。最近では、外傷のない死体の死因は魔法による死亡だと考えられるようになった。そして、話しを聞くかぎり、現場は密室。離れたところから人を殺すには、魔術師の中でも力が強くなければ難しいと言われる。


 ちらっと悠李を見上げると、さすがにいつものハンサムスマイルも引っ込み、顔をこわばらせていた。この状況でもっとも疑われるのは第1級使用制限魔法を持つ悠李なのだ。しかも、おあつらえ向きに外傷のない死体ときた。




 警察官が3人がかりで全員の素性を調べ、魔法特性を調べた。能力が暗殺に不向きである恭子と千尋らはすぐに解放されたが、遠隔的に暗殺が可能と思われる能力を持つ悠李をはじめ、碧、氏家、レイチェルらは引き留められた。が、頑張れ……。

「悠李、解放されっかな……」

 少し遅い朝食をとっていた千尋がつぶやいた。向かい側でサラダを咀嚼していた恭子は、口の中のものを飲み込むと千尋の方を見た。

「まあ、ユウが犯人とは思えませんし、大丈夫だとは思いますが、魔法犯罪の特徴は証拠が見つかりにくいことです。つまり、ユウはなかなか解放されないでしょうね」

 証拠が見つかりにくいということは、容疑者はなかなか解放されないということだ。と言っても、殺された人は悠李と無関係の人間なので、彼女が愉快犯や殺人狂でない限りはそのうち解放されると思う。


「恭子! ああ、千尋も一緒か」


 先に朝食を終えていた敬が紗耶加、花奈、絢音を連れてやってきた。少女3人の中に1人男がいる形だが、女顔の敬は妙になじんでいた。

「2人とも大丈夫? なんか警察が来てたけど……」

 紗耶加も不安げに尋ねる。恭子はミルクを飲み干すと、ハンカチで口元をぬぐってから言った。

「12階で人が死んでいたそうです。自殺の可能性もあると思いますが、今のところ、魔法犯罪が考えられるとのことです」

「……ああ。だからお前らも呼ばれたのか……」

「そう言うことです。まあ、学生ですし、すぐに解放されるでしょう」

 敬と紗耶加は使用制限魔法の行使者ではなかったので、呼ばれなかったのだ。花奈と絢音もそうなのだろう。


「そう言えば、今日は京都御所に行く予定だったよな。どうなったんだ?」

「中止よ」

 紗耶加がため息をつきながら言った。尋ねた方である千尋は「そ、そうか」とちょっと同様気味にうなずいた。

 それを見て恭子は少し微笑むと、花奈と絢音に向き直った。


「村川君なら、まだ警察に捕まっています。大丈夫ですよ。事情聴収を受けているだけですから」

 村川の魔法傾向は運動魔法寄りだ。そのため、早々に解放されてもよかったのだが、何故かそうはいかなかった。まあ、運動魔法と言ってもいろいろある。

「あ……そうですよね」

 絢音がほっとしたようにうなずいた。しかし、花奈は硬い表情だ。恭子は微笑んで首をかしげる。

「どうしたのですか?」

「あ……えぇっと。その、たぶん、これは自殺ではないかなーって……」


 勘なんですけど、と花奈。花奈は情報魔法に才能があると聞いている。精神系魔術師には勘が優れる者が多いと聞くし、ミネルヴァ魔法学院本校があるイギリスには、演算処理魔法という特殊能力をもつ魔術師がいるとも聞く。よって、花奈の勘はかなり信頼できると思う。


 ということは、場合によっては事件が解決するまで、京都に留め置かれる生徒が出てくるだろう。明日で研修旅行は終わりなのに。恭子はため息をついた。

「確かユウはこちらに母方の実家があると言っていましたね」

 恭子は悠李の弟の千尋に尋ねると、彼はうなずいた。

「ああ。京都市内にあるぞ」

 なら大丈夫だと判断して、恭子は「トランプでもして遊びましょう」と花奈たちを誘った。





 夕刻になって、碧と氏家が戻ってきた。トランプに飽きて、ロビーで紗耶加とオセロをしていた恭子は2人を見上げて首をかしげた。

「解放されましたか。よくここがわかりましたね」

「人が捕まっていたみたいに言うな」

 碧が不機嫌そうにそう言うと、氏家が苦笑した。

「まあ、似たようなものだよね。ここにいるのは千尋君に聞いたんだ」

 氏家が穏やかな口調で言った。そう言えば、いつの間にか千尋がいなかった。敬も気づいていなかったから、気配を消して移動したのだろうか。恭子は本気でそう思った。

「悠李とレイチェルは? まだ捕まってるの?」

 紗耶加も他意なく聞いた。やはり氏家がにこやかに「2人はばっちり精神系魔術師だからね。調書を書かされてるよ」と言った。


「事件は解決しましたか?」

 恭子の言葉に、碧と氏家は目を見合わせた。敬も含めた3人が座っているソファの近くのソファに腰かけると、碧が口を開いた。

「……まあ、解決したと言えば解決した」

「なんか含みのある言い方だな」

 敬が碧の言葉にツッコミを入れた。


「いや……犯人は自称・作家の元カノでな。これが念動力があるけど魔術師ではない女性で、どうやら自称・作家に招き入れられて部屋に入り、犯行に及んだそうだ。ちなみに死因は心臓発作だった」

「……」


 さらさらと言葉が出てくる碧にちょっぴりあきれつつ、恭子はよくある「捨てられた恨みが動機かぁ」と思っていた。


 魔力はあるが、魔術師として訓練を受けていない人は時々いる。野良魔術師と言ってもいい。念動力主体の魔力があるなら、魔力を心臓にこめて、心臓発作を引き起こさせることは造作もない。証拠も残らない。こういったことは精神系魔法を得意とする魔術師には難しいので、悠李やレイチェルが残された理由がわからないが。

「それで。悠李とレイチェルはどうして調書を書くことに?」

 紗耶加は恭子と同じことを考えていたらしい。尋ねると、氏家が少し厳しい表情になった。

「洗脳魔法だそうだよ」

「洗脳魔法?」

 存在は知っているが、実際に見たことはない。人を洗脳するのは難しい。人間の精神は強く、根気強く洗脳を施さないと唐突に我に返るということだ。まあ、やろうと思ったことはないからよくわからないのだが。


「犯人の方が洗脳を受けてるんじゃないかって。よくわからないけどな。それで、香坂と水瀬が引き留められてる。仁科先生も一緒だから大丈夫だ」

 碧が最後にそう言って恭子と紗耶加を落ち着かせた。悠李はその能力が洗脳魔法に近いし、レイチェルは五感を共有できる魔法を持っている。引き留められた理由はわかったが。


「……誰が洗脳を施したんでしょうか」

「……」

 恭子の問いには誰も答えなかった。まあ、恭子たちが考えることではないのだが……。


 何となく、嫌な予感がした。洗脳魔法が使える人間が、野放しになっているということだから。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


修学旅行に行ってこんな事件が起こったらびっくりですね。まあ、もっとびっくりな事件が起こったこともありますが。


悠李の『ドリームメーカー』は外傷なしに人を殺すことができる強力かつ凶悪な精神魔法です。

それと、今回ちらっと出てきた花奈の『直感』は、今後もちょくちょく出てくる予定。


次は8月18日、月曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ