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「君が黒竜の娘だという証拠は?」
目の前にいる眼鏡をかけた男にそう質問された。
彼はイアン・グラリス。ジャディアス国の宰相だ。ずっと眉間に皺を寄せていて、気難しそうな男。
私の牢の前の廊下に椅子を置いて、何やらメモを取っている。イアンの持っている分厚いノートは変色しており、随分と年季が入っていた。あのノートの中には、この国の機密情報が沢山書かれているのだろう。
「黒竜に娘がいたなどという記録は一切ない。それに君は人間の娘だ」
きっと、私は頭がおかしい女だと思われているに違いない。
聖女には死を求めるし、自分のことを黒竜の娘だなんて言うのだもの。間違いなく要注意人物だ。
「父は、私が普通の女の子として過ごせるように王族に報告しなかったのだと思います。私も父が聖女によって殺されたりしなかったら、黒竜の娘であることを隠し続けていただろうし……」
「その、聖女が黒竜を殺したと言うのは本当なのか?」
「私が嘘をつくメリットなどないでしょう?」
いつになったら、この牢から出れるの。
そう簡単に聖女を成敗できるとは思ってはいなかったけれど、まさか私が疑われる側になるとは思わなかった。改めて、この国において聖女への信仰は確固たるものだと認識した。
「貴女の言葉を信じるためにも、貴女が黒竜の娘であるという証拠が欲しいのです」
イアンの真面目な口調に私は小さくため息をついた。
証拠と言われても、私は別に竜に変身できるわけじゃない。しかし、特別な能力はある。
口から僅かに炎を吹き出し、その火を自由自在に操ることができる。そこに火が存在すれば、それも意のままに操れる。
聖女や王族が扱うような魔法ではない。
竜は口から火を噴く。その遺伝が人間と混ざったことで突然変異したのだろう。この世で唯一の能力を手に入れることができた。
……使うことはほとんどないのだけれど。お菓子を作る時ぐらい。
「そもそも、竜がどうやって人間との子を……。いや、我々は実際に見たことはないが、数百年後に人間の姿に変身できるようになったというのは本当だったのか? それならば、彼女はこの世で初めての竜と人間のハーフ……。いや、だが、まだ確定するには……」
イアンは私をまじまじと疑い深そうに見つめながら、独り言をぼそぼそと呟いている。
……まだ、力は見せない方が良いかも。
この力は人間にとって脅威になるかもしれない。そうなったら、私の森での生活は終わる。ずっと、この牢獄生活だ。
「というか、母親は誰だ?」
「私もそれが知りたいわ」
私はようやくイアンの独り言に反応した。母親は誰か。探し出そうにも、何も手がかりがない。
「……知らないのですか?」
丁寧な言い方だが、圧がある。訝し気に私を見るイアンに、母が亡くなったこと、そして理由を伝えた。彼は興味深そうに筆を動かしていた。
これは真実。私に対する信頼度が高くなっているといいのだけど……。
「その闇に溶けてしまいそうな瞳……、どこかで見たような……」
イアンはボソッとそんなことを口にした。
どこかで見たことある?
詳しく聞こうとしたのと同時に、イアンが先に話を続けた。
「黒竜が亡くなられたのなら、次期竜の王は誰になられるのですか?」
年功序列だと、白竜の長になる。ただ、私は黒龍の血を継いでいる。王位継承権がある。……しかし、人間が竜の王になるなんて聞いたことがない。
「それが今、竜族の中で問題になっているの」
「その、竜の方々は……、聖女が黒竜を殺したこと……」
「もちろん知っているわ」
言葉を詰まらせるイアンに私は確かな声を発した。
正直、次期竜を決めるよりも、聖女への報復の方が先だろう。王が殺されたのだ。竜たちの聖女に対する怒りは爆発寸前だ。
「…………ですが、まだ貴女が黒竜の娘だと信じるには証拠がありません」
イアンの言葉と重なるように、衛兵の声が盛大に牢に響いた。
「閣下! ご報告があります!」
私とイアンは、こっちへと走って来る衛兵の方へと視線を移した。必死な形相をした汗だくの衛兵はイアンの前に止まり、彼は姿勢を正した。
「黒竜の死体が見つかりました!」




