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王子だ。すぐに分かった。威厳と気品が現れた瞬間から滲み出ていた。
確かに噂になるほどの端正な顔立ちだった。絵画の中から飛び出し来たような美しさだ。圧倒的な存在感を放つその高貴な佇まいに驚きつつも、私は静かに彼と目を合わす。
「殿下も麗しいですわ」
心の内を決して見せず、私は小さく微笑んだ。
この国の第一王子――アルベルト・ウェルドシア。
透き通るようなサラサラな金髪に澄んだ青い瞳。絹糸のような真っ直ぐな金髪は、品よくハーフアップにまとめていた。涼やかな切れ長の目の奥にどこか底知れない謎めいた魅力が潜んでいた。
左耳には青い宝石の小ぶりなピアスが煌めいている。これは魔法が扱える証でもある。
にしても、殿下直々に私に会いに来てくれるなんて、驚きだわ。警戒心が少し欠けているんじゃないかしら。
「自己紹介がまだなのに、よく僕が殿下だと分かったな」
一人称が「僕」なのは結構いいかも。私はそんな余計なことを思いながら、口を開く。
「第二王子がまだ五歳なので、消去法です」
そういうことを聞いているんじゃないのは分かっている。だけど、彼を前にすると分かる。この人が王子でなければ、誰が王子なんだ、と。それぐらいの眩しいオーラを放っている。
「なるほど」
彼は私の言葉に軽く笑い、改めて自己紹介をする。
「僕の名は、アルベルトだ。君の名は?」
「ルナです」
私の情報はとっくに調べ上げているはず。
王族相手に私は跪くことも、お辞儀もしていない。本来なら不敬に当たる行為だが、アルベルトの周囲の者が私に対して何も言わないのは、彼があらかじめ、何も口出しするなと言っているからだろう。
……敵か味方か全く読めない。
私はアルベルトをじっと見ていた。私が戸惑っているのは、彼から一切敵意を感じないからだ。嫌悪も。
「……私、釈放されますか?」
「自己弁護できたらな」
私は少し間を置いてから、落ち着いてゆっくりと答える。
「ついカッとなって、書いてしまったの」
「具体的に?」
アルベルトは私を射貫くような目で見る。まだ味方かどうか分からない相手に全てを話すことなどできない。
「聖女が私にとって悪だから」
「絶大な支持を集めている聖女に嫉妬か?」
「そんな風に見えます?」
私は思わず笑ってしまう。私が聖女に対して嫉妬していないことなど、王子はもう分かっている。
「聖女を嫌っているのは本当に私だけですか?」
私は続けてそう聞いた。
この手紙をわざわざ王宮に送ったのには訳がある。
あの女をどうも信用できないと思っている人間は、きっと私一人ではない。多少賢ければ、違和感を抱くはず。
まだ何の奇跡も起こしていないのに、些細な善行を重ねる度、喝采を浴びる。小悪党を一人懲らしめただけで英雄扱い。薄気味悪さを覚える者も絶対にいる。
ただ、熱狂的な聖女信仰の中で誰も聖女に対しての悪口など口にしない。聖女を疑うことは、神を疑うこと。
余計な争いは私だって嫌。だから、私もずっと沈黙を貫いていた。
「何も成し遂げずにちやほやされている聖女に対しての不満か?」
「いいえ。民は聖女のために課税すると言えば、喜ぶでしょう。それで国庫が潤うというのなら、むしろ結構なことです。……問題なのは、彼女が大馬鹿者だということです」
にこやかに伝える私の言葉にアルベルトは片眉をピクッと小さく動かした。
「つまり?」
「民に褒められれば自分の選択が正しかった、と思い込むでしょう? 物事の裏を読もうとしない。疑うことを知らないの。この世界の命運は彼女のクソみたいな正義に託されている。そう思うと、反吐が出る」
最後に口角を下げて、真剣な視線をアルベルトに送った。彼を見据える。
どう返答するつもりのかしら、王子様。




