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「私の母は、私を身ごもったせいで亡くなって、父は聖女に殺された。……私、そんなに悪いことしたのかしら」
落ち着きを取り戻した私は口を開いた。アルベルトは私の方を振り向く。彼の澄んだ青い瞳と視線が重なった。
「貴方も私より先に死ぬの?」
なぜか私はアルベルトに向かってそう聞いていた。一瞬の間の後に、彼は答える。
「僕は君より先に死なない」
その声は驚くほど優しかった。私の心をそっと抱きしめてくれたような気がした。
「絶対に?」
「約束しよう」
アルベルトは躊躇いなくそう言った。彼の言葉には決意が宿っていた。
張りつめていたものがほどけるように、私は小さく笑った。
「私は三日後に処刑だものね」
冗談を言えるほど、心は穏やかだった。
「君が本当に処刑されそうになったら、僕が持つ全ての権利を使って阻止するさ」
こんな殺し文句、私じゃなかったら間違いなく勘違いしている。
「それは頼もしいわ」
「殿下、そろそろお時間が……」
ニールが会話に割り込んでくる。アルベルトは「分かった」と短く答え、再び私に話しかける。
「紅茶以外に他に欲しいものは?」
「そうね、本を読みたいわ」
「何の?」
「サリファー・ゴーズの詩集」
私は迷うことなくそう答えた。
百年近くも前に書かれた詩集だ。彼女は貴族の身でありながら、過酷な人生を送った。ある日、突然ゴーズ家は滅んだ。
没落した理由は、運の悪さだ。数年続いた凶作で領地の税収は激減した。そのため、領主は税を取り立てず、領民を飢えさせまいと家の備蓄を開放した。さらに不足を補うため、自らの財産まで切り崩した。その結果、民は救われたが、領主家の財政は立ち直れないほど疲弊した。
サリファーは自分たちの生活がそこまで逼迫していることを知らなかった。両親が最後まで隠し通していたのだ。だが結局、没落寸前まで追い詰められた時、事実を知ることになる。やがて、国王の耳にゴーズ家の話が入る。王家はすぐに彼らを救おうとした。しかし、ゴーズ家はもうそこにはいなかった。彼らの行方を知る者もいない。
サリファーはそれからの人生を全て詩にしていた。贅沢な生活は一変し、明日への不安と希望を抱きながら、日々を生き抜いた時の感情を記した。
生まれた時から我が家にあるいくつかの本のうちの一冊だ。この本が最もお気に入りだった。
「サリファー・ゴーズか、すぐに持ってこよう」
アルベルトとニールは頭をこの場から去った。




