13
アルベルトが帰った後、私は彼の従者が持って来たアールグレイティーを飲んでいた。毒見はちゃんと彼が目の前でしてくれた
流石王宮の高品質な紅茶。香りも最高で、味も美味しい。
まさか彼が私をここから出してくれるとは思いもしなかった。ここに入ったことは想定外だったけど、もう別のプランを用意していた。いくらでも逃げ道はある。
私が黒竜殺しの容疑者になったなんて知ったら、他の竜たちは黙っていない。さぞ憤慨していることだわ。竜の仲間意識の強さをなめてもらっては困る。
手紙を出した後、私たちは王族の対応によっては反乱を起こすつもりだった。しかし、第一王子はちゃんと話を通じる相手だった。
王族を味方につけて、次にすべきことは民衆へのヘイトを全て私に集めること。そして、この怒りの渦に聖女を巻き込む。
最初から聖女を糾弾できるなんて思っていない。ならば、私が悪者になればいい。
正義感の強い間抜けな聖女様は必ず私を倒そうとするはず。それを私は待ち望んでいる。そして、そのためにも王族の助けが必要。
ジャディアス国の治めているのは聖女でも神でもない。王族だ。王族には起爆剤と後始末の役割を果たしてもらう。
聖女に死んでもらうためならば、なんだって利用してみせる。
次の日、アルベルトが私に処刑日を伝えに来た。
「三日後、君は処刑台に立つことになる」
意外と早いものだ。それほど民は私に制裁を与えたいのだろう。
アルベルトははまだどこか納得していない様子だった。私は処刑台に立つ、とまでしか言っていない。その後、何が起こるか彼は知らない。
聖女が黒竜を殺したことも、私が黒竜の娘であることも、私が言ったところで信じない。だから、私が言わなければいい。自分の目で自分の耳で確かめてもらう。
「本当に街で一番大きい広場で行うのか?」
「ええ、盛大に」
九割の罪人は処刑場で殺される。その場は限られた者しか出入りできない。貴族ですら制限があるぐらいだ。ジャディアス国では、処刑がかなり厳格に行われる。大衆の見世物になることはまずない。
名が知れ渡った超悪徳貴族とかだと、民の鬱憤を晴らすためにも公の場で処刑が行われることもある。けれど、それはものすごくレアケース。
そして、私は今回そのレアケースになる。全ての国民を集結させる勢いで大々的に処刑をしてもらう。
「君は死ぬつもりはないのだろう?」
「さぁ」
私はにこやかな笑みを浮かべた。
処刑台に立って、死ななかった者など歴史を遡っても誰一人としていない。
「一体、何が起こるのやら」
アルベルトはため息交じりにそう言った。
「何が起こっても黙って見ていて」
「ああ、分かっている。……邪魔しない代わりに、と言っては何だが、一つ教えてくれ。なぜ竜が姿を消したんだ?」
私は少し間を空けてから答えた。
「今は人類の敵だから」
「え?」
「この国に対しての忠誠心が薄くなっているの。だから、人の前に現れなくなった。意思表示ってところかしら。……黒竜を殺されたことに憤慨しているのよ。そして、今度は私を殺そうとしているでしょ? 次の王はまだ決まっていないけれど、私は黒竜の血を受け継ぐ大切な姫的存在。私を殺せば彼らはこの国を焼き払うつもりなの」
「やっぱり、処刑台に立つの、考え直してくれないか?」
私が話し終えたのとほぼ同時にアルベルトは真顔で口を開く。
無理、と私ははっきりと答える。そもそも、今更私の処刑が中止なんて、国民が許さないだろう。
「はあぁぁぁ、まじで三日後大丈夫か? 警備の量を予定よりも多くしておこう」
長いため息と共にアルベルトが片手で額を押さえる。
初めてアルベルトの素を見たような気がした。一国の王子の独り言を聞けるなんて、滅多にない。まじまじとアルベルトを見ていると、彼は私へと視線を向けた。
「なんだ?」
「何をそんなに心配しているの」
「なにもかもだ。国民を制御できなくなるのも、竜を敵に回すのも、君が死ぬのも。不安しかない」
「私が死ぬことも?」
首を傾げる私に王子は私を射貫くように見る。彼は「ああ」と短く頷く。
「君に死なれたら、気分が悪い」
「そう、なの」
私は戸惑いながら、返答する。なんだか変な感覚だ。アルベルトは私を守ろうとしてくれている。彼の真っすぐな瞳から真摯な想いが伝わってきた。
「アールグレイティーとケーキをお持ちいたしました」
アルベルトの従者であるニールが現れる。彼は私をあまり良く思っていない。きっと、アルベルトに対してタメ口を使っているからだろう。
ニールは鉄柵の下部にある食事用の扉を開けて、金のトレイを私のいる方へと置く。甘い香りが漂う。いつものティーカップと、その隣には苺の乗った豪華なケーキがあった。
……美味しいそう。
「ケーキも?」
「ああ。毒見したほうがいいか?」
私は首を横に振って、「ありがとう」と呟く。
まさか、こんな待遇を受けられるとは……。私、本当に牢に入れられた身?
ちゃんとミルク入りのアールグレイティー。私はティーカップを手にして、紅茶を少し飲む。次に、フォークを持って、ケーキを食べた。
優雅な時間だった。それと同時に、このケーキを作ってパパに食べさせてあげたいと思った。パパのことを考えると、すぐに胸の奥から悲しみがこみ上げてくる。心がキュッと苦しくなる。
あまりにも突然の別れだった。
「おい、大丈夫か?」
アルベルトが目を丸くして私を見ていた。それと同時に私は自分が涙を流していることに気付いた。
……もう、泣かないって決めていたのに。まだ立ち直れていない私がいた。
静かに涙が頬を伝う。無意識だった。
「これで、泣くのは最後だから。もう、泣かないから。今だけ、少しだけ」
「ああ、沢山泣けばいい。誰も見ていない」
アルベルトはそう言って、私に背を向ける。ニールも彼と一緒に背を向けてくれた。
人に優しくしてもらったのは初めてだった。彼らのその言動に胸が熱くなった。感情が色々と混合する。
辛いのに、温かくて、涙が止まらない。
パパ、貴方がくれた愛を私は生涯忘れない




