12
少しして、再びルナ・マキリスの元へと訪れた。
彼女は静かに小窓から外を眺めていた。その様子は、まるで絵物語から飛び出してきたようだった。僕に気付き、彼は視線をゆっくりと僕へと移した。
小窓から差し込む月光が牢に差し込み、それに照らされた彼女は神秘さを纏う。
「殿下、今日は何しに?」
彼女の艶やかで透き通った声が落ちる。
暫くの間、牢で過ごしているのにも関わらず、彼女は余裕そうに見えた。普通の女性なら、いつもと違う劣悪な環境に慣れず、疲労によってやつれてしまう。
「何か欲しいものは?」
「そうね。アールグレイティーがほしいわ。ミルク入りで」
美しく形づくられた唇がゆっくりと動く。
「すぐに用意させよう」
僕はアールグレイティーを持ってくるように、ニールに視線を向けた。彼は僕に頭を下げて、ここを去る。
「最近、なんだか外が騒がしいわね。……皆、私を断罪したがっているみたい」
彼女は目を細めて笑う。切羽詰まった様子は一切ない。
黒竜が殺された容疑者としてルナ・マキリスの名が挙がってから、彼女に対してのヘイトが大きくなった。竜の住処の近くに住んでいる人間はルナ・マキリスぐらいしかいない。森に住んでいる人間は彼女以外にいるが、黒竜の遺体があった場所から最も近いのがルナ・マキリスの家だった。
竜同士で争うはずがないと考えた民衆は真っ先にルナ・マキリスを疑った。そして、彼女はもう既に牢に入れられていた。そのせいで、世間は、ルナ・マキリスが黒竜殺しの犯人だと思い込んだ。
かなり面倒なことになってしまった。
それなのに、ルナ・マキリスに少しも焦っていない。
「どこまで計算済みだ?」
「パパが殺されたこと以外」
表情一つ崩さず彼女はそう答える。まだ彼女のことを読めない。
「……竜が森から消えた。君と何か関係があるのか?」
単刀直入の僕の質問に、彼女の瞳の光が僅かに揺らいだ。一瞬だが、僕はそれを見逃さなかった。
「関係あるんだな」
彼女が答える前に、僕は声を発した。彼女は肯定も否定もしない。黙ったままだ。
「君をここから出す」
続けてそう言った僕にルナ・マキリスは目を見開いた。
「今、なんと?」
「もうここは飽きただろう?」
「私に対する民の怒りが集まっている今、私をここから出すなんて、正気ですか?」
ルナ・マキリスはまさか牢から出られると予想していなかったのか、驚いた表情を僕に向ける。計算外の出来事かもしれないが、僕はお前の手のひらで踊り続けないぞ。
「もう手続きは済んでいる。……牢から出ると、まずいことでもあるのか?」
「いえ、ずっとここから出たかったんだもの。……けど、少し急だわ」
「何を企んでいた?」
僕は牢の鉄柵に手をかけて、顔をルナ・マキリスに近づけた。彼女はじっと僕を見る。同じように僕も見返した。信頼するに値するかを互いに探っている。
「私の処刑は免れない」
まるで処刑を望んでいるような言い方をする。彼女はその場に立ち、ゆっくりと僕の方へと歩いて来る。その凛とした佇まいに釘付けになる。
僕と触れるか触れまいかのギリギリのところで立ち止まり、口を開いた。
「私を火あぶりにして」




