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親愛なる聖女様へ、どうか死んでください  作者: 大木戸 いずみ


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 少しして、再びルナ・マキリスの元へと訪れた。

 彼女は静かに小窓から外を眺めていた。その様子は、まるで絵物語から飛び出してきたようだった。僕に気付き、彼は視線をゆっくりと僕へと移した。

 小窓から差し込む月光が牢に差し込み、それに照らされた彼女は神秘さを纏う。

「殿下、今日は何しに?」

 彼女の艶やかで透き通った声が落ちる。

 暫くの間、牢で過ごしているのにも関わらず、彼女は余裕そうに見えた。普通の女性なら、いつもと違う劣悪な環境に慣れず、疲労によってやつれてしまう。

「何か欲しいものは?」

「そうね。アールグレイティーがほしいわ。ミルク入りで」

 美しく形づくられた唇がゆっくりと動く。

「すぐに用意させよう」

 僕はアールグレイティーを持ってくるように、ニールに視線を向けた。彼は僕に頭を下げて、ここを去る。

「最近、なんだか外が騒がしいわね。……皆、私を断罪したがっているみたい」

 彼女は目を細めて笑う。切羽詰まった様子は一切ない。

 黒竜が殺された容疑者としてルナ・マキリスの名が挙がってから、彼女に対してのヘイトが大きくなった。竜の住処の近くに住んでいる人間はルナ・マキリスぐらいしかいない。森に住んでいる人間は彼女以外にいるが、黒竜の遺体があった場所から最も近いのがルナ・マキリスの家だった。

 竜同士で争うはずがないと考えた民衆は真っ先にルナ・マキリスを疑った。そして、彼女はもう既に牢に入れられていた。そのせいで、世間は、ルナ・マキリスが黒竜殺しの犯人だと思い込んだ。

 かなり面倒なことになってしまった。

 それなのに、ルナ・マキリスに少しも焦っていない。

「どこまで計算済みだ?」

「パパが殺されたこと以外」 

 表情一つ崩さず彼女はそう答える。まだ彼女のことを読めない。

「……竜が森から消えた。君と何か関係があるのか?」

 単刀直入の僕の質問に、彼女の瞳の光が僅かに揺らいだ。一瞬だが、僕はそれを見逃さなかった。

「関係あるんだな」

 彼女が答える前に、僕は声を発した。彼女は肯定も否定もしない。黙ったままだ。

「君をここから出す」

 続けてそう言った僕にルナ・マキリスは目を見開いた。

「今、なんと?」

「もうここは飽きただろう?」

「私に対する民の怒りが集まっている今、私をここから出すなんて、正気ですか?」

 ルナ・マキリスはまさか牢から出られると予想していなかったのか、驚いた表情を僕に向ける。計算外の出来事かもしれないが、僕はお前の手のひらで踊り続けないぞ。

「もう手続きは済んでいる。……牢から出ると、まずいことでもあるのか?」

「いえ、ずっとここから出たかったんだもの。……けど、少し急だわ」

「何を企んでいた?」

 僕は牢の鉄柵に手をかけて、顔をルナ・マキリスに近づけた。彼女はじっと僕を見る。同じように僕も見返した。信頼するに値するかを互いに探っている。

「私の処刑は免れない」

 まるで処刑を望んでいるような言い方をする。彼女はその場に立ち、ゆっくりと僕の方へと歩いて来る。その凛とした佇まいに釘付けになる。

 僕と触れるか触れまいかのギリギリのところで立ち止まり、口を開いた。

「私を火あぶりにして」

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