【58】これもすっかり日常の範囲。
病院でフェリックスを刺してから早2か月が経過である。最近はめっきり冷え込んできた。身体が悴む。フェリックスは退院後、騎士業に復職した。二週間少しという短い休職期間だったため、出世に影響はないと思われる。弁償の件についてもそれとなく聞いたが、何とかなりそうらしい。よかった。あ、そうそう。フェリックスのことは呼び捨てることになった。恋人になったのでね。口調もタメ口だよ。
そういえば、エミルさまが近々結婚するらしい。春頃だって。おめでとうございます! そう伝えると、照れながらも喜んでいた。サシャさん達も上手くいくといいですね、だって。そうですね。恋人になってからが大変かも。だって身分が違うから。上手くいくといいけどな。
あとこの間、ルドルフさまがひそひそ話をしてきた。……すみません、ルドルフさま。その話、既にエミルさまから聞いています。というか、皆が皆、フェリックスの知らぬところでフェリックスのことを私に話している。そのことを指摘するとルドルフさまは以下のように言った。
「あいつは状況がはっきりするまで言わないだろうし。サシャさんが不安になるよとは言ったんだけどね」
「結局全部周りがばらしていると知ったらどう思いますかね……?」
「僕が言ったことは秘密にしてね。まああいつの来年以降の気迫はすごそうだ」
そして、私の御使い業務はすこし形態が変わった。何と王都の研究施設の魔法使いさまが、私の視力を一時強化する薬を作ってくれたのだ。副作用なしだって。素晴らしいね。これでまず、潜伏者かどうかの判別が完全にできるようになった。ほんの少しの黒い霧も見えるのだ。あとは対象者に集合してもらって、じーっと見るだけ。結局、潜伏者は目測100人くらいいた。ひええ……。
潜伏者は、私に殺されることになる。国王陛下が予防を可決したのだ。判断早い。まあ王都の治安が乱れるし当然か。と言っても、それには本人の同意が必要だ。無防備に刺されろってことだからね。強行は最終手段。周りに迷惑かける前に早くやってほしいという人7割、怖いから止めてほしいという人3割だった。前者の人たちは助かる。一日数名を目安にさっさと殺した。流れ作業だ。
今残っているのは後者の人だ。確かにいっそ狂病になれば訳がわからなくなるから気楽かもしれない。記憶は残るけど、刺されたときの動揺などは控えめ。基本は睡眠魔法や薬で意識を奪っての対応で殺すが、この手のタイプは緊張や恐怖、体質で魔法や薬が効かない人が多い。
意識がある状態で殺すしかない場合もそこそこある。だが一回死ぬのを自覚するわけだ。トラウマになったら可哀そう。フェリックスはともかく、他の人は普通に死ぬとき苦しそうなのだ。治療は苦しいという噂も出てしまい、残った潜伏者は余計怖がってしまった。万が一本当に死んだら、と考える人もいるみたい。
そういう人とはちょっとお話をして、気持ちを解してから殺す流れになる。怖がる気持ちが強いと苦しみがひどいみたいなのだ。上手くいったりいかなかったりだが、できることはしている感じ。殺しの同意を得るためでもある。一日で納得する人もいれば、一週間以上粘る人もいる。時間はかかるが、苦しい思いはさせたくないからね。
「今日の人はちょっと泣いてたな……。ああいうのを見るのは心苦しいよ」
「だが、上手く終わったのだろう?」
「まあね。もう発症直前だったし、最後は納得してくれた。あ、そういえば今日だっけ? クロの森の件」
「ああ、感知石の設置を議題として提出した。また進展があったら都度報告する」
私の家に、今日はフェリックスがやってきた。依頼で鹿を仕留めたのだが、内臓が余った。私の好物のハツを焼肉で食べようと考え、夕方に会いに来たフェリックスを食事に誘ったのだ。前の時は誘うなんてって感じだったけど、今は気心知れているしね。ハツは上手く処理できて最高だった。美味しい食事で気持ちは和やか。
あとは殺しである。フェリックスが服を脱ぎながらのさっきの会話であった。これもすっかり日常の範囲。恋人になってから、互いの都合が良ければ一緒にいる。私は夜なら大体空いてる。いつでもおいでって感じ。都合をつけるならフェリックスの方だ。
どう時間を作っているのか、割と頻繁に顔を見に来てくれる。翌日が非番なら大体私の家に泊まる流れだ。体力的に会いに来るのきつくないかな、多忙だよね、と思うも杞憂のよう。普通に元気だし、業務成績むしろ上がっているんだよね、とはルドルフさま談。すごい、優秀すぎる。




