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心臓を、抉る。  作者: kanon
武術大会と危機
56/61

【54】今寝るのは止めとこう。

その夜。私は朦朧としていた。


ルドルフさまの訪問後、神官さまやお医者さんが来て、私の状態を見てくれた。少しスープなども飲ませてもらう。とにかく汗をかいて熱を追い出した方がいいとのことだった。解熱の薬を飲んだが、効果は薄い。


日が暮れる頃、私は消耗が激しくなった。うんうん唸る。声を出さないと耐えられないしんどさなのだ。元々あまり発熱しない方。ここまでの高熱は初めてかもしれない。全身汗びっしょりで気持ち悪い。でも何度も人を呼ぶのも悪いし、我慢する。水差しは置いてくれたので、そこからちびちび水を飲んで頑張る。


さらにそこから、私は時間の感覚がわからなくなる。もう自分で水が飲めない。時々誰かやってきて、私に水を飲ませてくれる。苦しい。とにかく苦しい。この熱を何とか静めてほしい。もしかしてまずい? と思う。そんな、身体は丈夫だと自負していたのに。苦しんでいるうちに、意識が途切れた。


ふと意識が起きる。だが、身体はまったく動かない。目も開けられない。身体は眠っていて、脳だけ起きているような心地だ。相変わらず熱い気がするけど、今は何だか他人事のように苦しみが遠い。誰かが部屋に入ってきた。水を飲ませてくれるのかな? と思う。足音は私のベッドのすぐ近くまでやってくる。誰か。誰かが私を見つめているのがわかる。


「……サシャ」


あ、とわかる。フェリックスさまだ。お見舞いにきてくれたんですね。返事をしようとするも、できない。身体が言うことを聞かない。私は微かに唸り続けるだけだ。私の額の汗を、フェリックスさまが拭いてくれている。わあ、冷たくて気持ちいい。すみません、お手を煩わせて。


「君に大怪我を負わせてしまった。本来、俺は君に合わせる顔がない。」


何を言っているんですか。あれは狂病だったから仕方ないでしょう。そう言ってあげたいのに何も言えない。何とか動けないかと思うも、まるで縛り付けられたみたいに指先一本自由にできない。うぐぐ。


「しかし、ルドルフが峠かもしれないと言うから」


うそでしょ。ほんとに死にそうな感じですかね? いやまさか。私はこの程度で死ぬような女じゃないですよ。大げさです。


「俺のせいで、本当にすまない。……頼むから、持ちこたえてくれ」


そんな。そんな悲しそうな声は止めてください。大丈夫ですって、たぶん何事もなく起きます。私はけっこうしぶとい女ですよ。しばらくフェリックスさまは私の様子を見ているようだった。やがて静かに部屋から去って行く。


……何だか眠たくなってきた。寝てるのに眠いって変だね。このまま眠れば気持ちいいだろうな、と思う。あ、でもなあ。フェリックスさまに、大丈夫ですよって言わないと。今寝るのは止めとこう。フェリックスさまに会わないといけない。


「は!」


そして私は目が覚めた。朝になっていた。水を被ったように全身びしょびしょ。すごい汗をかいていたようだ。水差しの水を一気飲みする。頭ががんがんするし、だるさはある。けど今は身体が思う通りに動く。どうやら、高熱のピークを過ぎたよう。なお、過ぎていたのは一夜ではなく、二夜だった。丸一日、意識不明だったらしい。


朝に診察にきたお医者さんと神官さまがほっとした顔をする。熱が下がり出していると言ってくれた。安静にしていればこのまま落ち着いてくるだろうと。ふう、それはよかった。あんなに身体がだるくなったのは初めてだ。あのしんどさはもう経験したくないな。やっぱり健康が一番。


夜中のあのとき。意識朦朧としていたけど、夢とかではない気がする。たぶん、フェリックスさまはお見舞いに来てくれたのだろう。少しでも話せれば良かったんだけどな。残念。まあ今日とか明日とかにまた改めて顔を出してくれるだろう。私はそう呑気に考えていた。

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