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心臓を、抉る。  作者: kanon
武術大会と危機
51/61

【49】くそ、気付くのが遅すぎ!

「……!」


周りの人は突然途切れた映像に戸惑っている。おい故障か? 折角いいところだったのに、と文句を言っている。私は人混みを抜け出し、全力疾走する。移動ゲート! 一番近い移動ゲート!


「ルドルフさま!!」


もう一度叫ぶ。ざざっと音がした後、ルドルフさまの切羽詰まった声が聞こえた。


<サ……! っ。あいつがいきなり狂病に……! しかも今までで一番ひどい。目に入るもの全部壊す勢いだ!>


「今会場近くのゲートに飛ぼうとしています! 状況は!?」


<周りにいるのは精鋭ばかりだ。皆でなんとか押さえようとしている! ゲートの入口に僕が迎えに行くから来てくれ! エミル、御使いが来るって周りに伝えるんだ!>


「ルドルフさま! フェリックスさまの狂病の再発。原因がわかったかもしれません!」


なぜ彼だけ再発していたのか。例外には例外たる理由がある。まさにその通りだったのだ。フェリックスさまは特別だった。


「フェリックスさまの体質です! 風のマナを吸収するっていう! さっき見た時、マナを吸収する際、黒い霧も一緒に取り込んでいました!」


私が御使い業務で殺しているとはいえ、まだ潜伏者は多いのだろう。大会会場には潜伏した黒い霧を持つ人がいっぱいいたに違いない。近くにいるだけなら、何ともないかもしれない。しかし、大技の使用などでフェリックスさまがマナを使用したらどうなる? 欠けたマナ分、フェリックスさまの体質はマナを回復しようとする。風に乗せて。その時、大気中に発生した黒い霧まで吸収していたということ。


私は馬鹿だ。気づくヒントはあった。フェリックスさまの体質を聞いていたのに。それに、五回目の狂病。あの急進行が起きた日、確か団長副団長クラスの模擬試合をしたとか言っていた。手強い相手と当たったのかもしれない。そのときに一気にマナを使った可能性がある。そして対戦者や周りの見学者から黒い霧を摂取してしまったのだ。


今までの周期が2か月ほどだったのは、普段の鍛錬試合のせいだろう。エミルさまは鍛錬相手が都度変わると言っていた。毎回違う騎士団の潜伏者から少量ずつ黒い霧を吸収していたと考えられる。多少の時期のずれは、周辺の潜伏者の有無やフェリックスさまがどれほどマナを使ったかで変わる誤差というわけ。


私は移動ゲートに辿り着く。大会会場付近にゲートを繋ぐ。ルドルフさまは私の話に息を呑んでいた。いやでも、と声を張り上げる。


<二日前見た時、開会の儀で黒い霧が出ていた人は殺したはずだろう!?>


「そうです。発症直前の人は殺しました。でも、見えないからと言って、完全にないわけではなかったんです!」


サラエルさまは私に黒い霧が見える力をくれた。しかし、この見る力というのはあくまで私の視力に依存すると思われる。……黒い霧が身体から発生するのは、発症直前や発症後だけではない。潜伏段階でも発生はしていたというのがミソだ。


霧の濃度が濃ければ、当然肉眼でも見える。しかし、まだ潜伏段階だと微粒子程度の量だろう。それは私の目に認識できなかったのだ。そういえば、ルドルフさまもかつて潜伏者だった。私が予防するまでは、近くにいるルドルフさまからも黒い霧を吸収していた可能性がある。


くそ、気付くのが遅すぎ! 移動ゲートを通ると、ルドルフさまが迎えてくれた。他に数名の騎士さまもいる。ルドルフさまが驚愕する。


「サシャさん! フード!」


そうだ。認識阻害フードを被っていない。私の顔は丸見え。でも。


「それどころじゃないですから!」


「っ! こっちだ! 観覧席にいた騎士のほとんどは避難した! 今は魔法使いや神官が拘束魔法で止めてくれている!」

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