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【44】猟師って生きがいだなあ。

飲み会中に仕事が入った日から三日後の早朝。私はせっせと猟道具の整備点検を行っていた。もうそろそろ、本格的な狩猟期が来る。11月に入ったからね。万全にしないといけない。クロの森の感知石の件は、武術大会が終わった後に議題として出す予定だそうだ。少しは状況がよくなるといいな。私たち猟師は、森があるがままであることを望んでいる。


フェリックスさまの狂病についてだが、やっぱり馬鹿な私では原因がわからない。ただ頭を悩ますだけではなかった。大厄災の記事や号外を読み直したし、図書施設に行って過去の事件で似たようなものがないかも調べた。


あ、ちなみに私は文字が読める。父がちょっと教えてくれたのだ。それに加えここに独立してやってきたとき、博識な猟師の人に教えてもらった部分もある。文字が読めないと舐められるぞって言われてね。おかげさまで助かった。まあ、書くのは下手だけど。文法とか語彙とかが限られているので、簡単な言葉しか無理。閑話休題。


狂病と同様なのかはわからないけど、過去に人がおかしくなる病気は他の国でもあったそうだ。その時は、その国の巫女さまが聖なる杖でぶん殴ったら病気が治ったという。……どうしてサラエルさまは、そういう方法の治療法しかくれないんですかね? いやまあ、いいですよ? 私はそういうことできる人間だし。人を殺す経験なんて、普通は正当にはできないしね。貴重な体験をさせていただいている。


人を殺すときも獲物を殺すときと案外変わらないのだなと理解した。最初の頃は感動したり、わくわくしたり。でも、これも慣れだね。仕事になっている。あえて言うなら、なるべく痛くないようにしてあげたい。


幸い、装備類は万全の状態だ。私は弓の弦の調整をする。少し構える。うん、大丈夫だと思う。ちょっと見回ろうと思い、森に入る。最近すっかり寒くなってきた。こういう時期が狩りに適している。藪蚊はいないし、空気も清涼だ。もう少しして雪が降ったなら、足跡が残るから獲物を見つけやすくなる。今年もたくさん恵みにありつけるといいな。


……ふと、初めて獲物を狩ったときのことを思い出した。父が横について見守ってくれていた。最初の獲物が鹿だなんて、なかなかないだろう。私は緊張していた。そして失敗した。獲物に命中はしたが、即死させることができなかった。鹿に駆け寄ると、足をばたつかせて苦しみ悶えていた。ああ、悪いことしたなあ。そう思いながら、狩猟ナイフで喉を切り裂いて殺した。懐かしい。


本当に、あの鹿には悪いことをした。私が未熟だったばかりに。でも、あれが最初の経験だったから今がある。獲物を無駄に苦しめるようなことはしたくない。私が生きるために犠牲になる、尊い命。彼らに感謝と敬意を払いたい。これが私の殺しの信条である。そして、消えゆく命から目を逸らさない。自分が奪うものは、責任もって看取るべきだ。その姿勢は人間相手でも同じ。私が殺す騎士さまは私の糧にはならないけどね。


(……あ)


きつねだ。もうここまで出てきたんだ。綺麗な毛並み。ふんわりとしていて、色の具合もいい。私は静かに距離を詰める。相手は気付いていない。きつねをじっと見る。弓の弦をそっと引く。なるべく毛皮が汚れないようにしないと。きつねはふんふんと地面の匂いを嗅いでいる。くっと鼻先が空を向いた。今だ、と思う。私は獲物に矢を放った。ああ、やっぱり。猟師って生きがいだなあ。

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