【40】「ドキドキするものが周りと違うとか」
喫茶店の話し合いの翌日。私はルドルフさまと公園で会っていた。今日は彼が非番なのだ。私は一仕事(殺)のあと、ここに来た。この公園は自然豊かで空気が美味しい。散歩している人やのんびりしている人がまばらにいる。何はともあれ、とルドルフさまが切り出す。
「あいつが辞めずにすみそうで良かった。サシャさんのおかげだ」
「ルドルフさまの言葉も響いていますよ」
彼は肩を竦めた。昨日の喫茶店の話し合いについて、フェリックスさまからある程度聞いたようだ。
「エミルには僕が話しておいたよ。君のことは絶対誰にも言わないと誓っていた」
「はい、助かります。ルドルフさま、あの日すぐに来てくれてありがとうございました」
「……あいつの狂病を甘く見ていた。サシャさん、本当にごめん」
私はそれ以上の謝罪はいらないことを伝えた。既に過去のこと。乗り切れてよかったではないか。なお、四回目の暗殺の件は最後まで隠し通すことを再確認した。二人だけの秘密である。あいつには悪いけどね、とルドルフさま。
「聞いたよ、昨日のこと。断ったんだって?」
「正直に答えるべきだと思いまして」
「……そうか」
「諦めきれないとは言われましたけど。私は恋愛を意識しない人間なので、期待するだけ無駄かと」
恋愛の過程だの心境だの。そういうのは人の受け売りか、劇や小説の知識。身に降りかかったことがない。私の主張を聞いたルドルフさまが言う。
「今までないからと言って、これからもないとは限らないよ」
「それはそうですが、あえて茨の道を歩こうとする必要はないでしょう」
平民は平民同士で恋愛するのが一番。そもそも騎士爵と平民の恋愛なんて、行く末は愛人関係か駆け落ちだ。私はそこまで覚悟決まれない。というかだ。前も思ったけど。
「むしろフェリックスさまがアピールしてきたのが予想外ですよ。中途半端な関係しなさそうなのに」
「あー、まあ。あいつも色々考えていてね。ちゃんと責任取る気があるよ」
「どう取る気なんですか……。というか、ルドルフさま。さっきからフェリックスさまのフォローに忙しいですね」
「僕はあいつを応援しているから」
他人事だと思って。身分差恋愛の過酷さは想像に難くない。あとさ、とルドルフさま。
「サシャさんには恋愛に必要な情緒があると思うよ。思いやりや気遣いもできるし、友人を大切にする気持ちもある。恋愛だけないなんてことはないだろう」
「ではなぜ、今まで一度もなかったのでしょう?」
「例えば、ドキドキするものが周りと違うとか」
何じゃそりゃ。あれか。顔、身分、財産、性格とかかな? 大体ここらへんがモテ要素だよね。確かにそういうのはあるに越したことないけど、恋愛と結びつけたことはないなあ。ルドルフさまの言う通り、私は他の人と違うものにときめくということ? いやね、とルドルフさま。
「ある意味あいつもそのタイプだからさ。……僕にとってはあいつの言うものは、怖いだけだったから」
はあ。まあ感性って色々ですよね。私は曖昧に頷いておいた。




