【32】それはそれで残酷すぎないか?
うわあ。ぶっこんできたなあ。このことについて正面切って話題に出したのはルドルフさま以外では彼が初めてだ。私は一先ず本題を逸らした。
「身分差恋愛は報われませんよ」
騎士爵と労働階級の恋愛は普通成立しない。あったとしても、愛人関係だ。私はそういうのは嫌だ。というか、そこが本当に意外。あの堅物なフェリックスさまが私にアピールしている事実。だって私が了承したらどうする気? 責任とれるわけ?
色々やり様はありますよ! とエミルさま。あー、はい。同等の身分の家に養子にとられるとかあるらしいね。ようするに根回しして、身分差を見かけ上は同等にするのだ。もし私が身分差のみを気にしていたなら、フェリックスさまは何とかしようとするだろう。愛人関係ではなく、本妻でとる手筈を整えるかもね。今ならそれくらいの熱量はありそう。でもお断り。そんなことしたら私は猟師を辞めないといけない。それにだ。
「身分差も引っかかるところですが。そもそも私はフェリックスさまに恋愛感情がありません。だから付き合う気がありません」
いや絶句しないでよ。フェリックスさまを断る女がいるのか? という顔だ。私は言う。
「フェリックスさまは素晴らしい方です。でも私の人生を変えられるわけではない」
もし身分が同じだったなら、付き合っていただろう。彼の情熱に対して嫌悪感はないから。温度差がある関係でも、良きパートナーになれる可能性は高い。私が彼を愛していたなら、付き合っていただろう。気持ちの赴くままに、愛人になるか猟師を辞めるか選択するかもしれない。
しかし、私はどちらでもないのだ。思えば、私は初恋もしていない。恋愛というものが、よくわからない。エミルさまは明らかに落胆した様子だった。でも私を責める様子はない。人の気持ちは、どうしようもないものだ。エミルさまもそこは承知しているだろう。
「せめて、しっかり線引きします。期待を持たせないように、あくまで友人として接します」
愛の情熱が続くのは、せいぜい数年という。それを越えると、感情は凪いでいくそうだ。フェリックスさまの今の情熱も、いつか落ち着くときが来るだろう。私はその時まで、無駄な期待を彼に抱かせないようにする。そうすることが誠実だ。勿論、彼が答えを求めてきたのなら、しっかり引導を渡すつもりである。そう伝えると、エミルさまは言う。
「サシャさんの気持ちはサシャさんのものですからね。残念ですけど……」
「自分の卑怯さに少し嫌気がさしますけどね。なあなあにしているので。友人関係がなくなるのは悲しい気持ちがあって、断るのに勇気がいります」
「団長はサシャさんを優先してくれるはずです。もしお断りしても、サシャさんが望むなら友人関係を続けそうです」
それはそれで残酷すぎないか? あー、でも。長期戦で虎視眈々と機会を待ちそうな雰囲気が。うーん、どうしよ。




