【30】あ、この話題駄目だ。
おっと。私の話をしすぎてしまった。フェリックスさまが終始興味深そうに相槌を打ってくれたから、ついつい内面的な部分まで。今度はこっちがお返しに聞く。そういえば全然家族関係聞いたことない。無礼かなって思っていて。
「俺の家が伯爵家というのは話したか。両親ともに健在で、父上が現在の当主だ」
「将来はフェリックスさまが当主になられるのですか?」
「いや、俺は長子ではないからな。継承の優先権は低い。望めば当主の権利をかけて争う場合もあるが、俺は特に興味がない」
え! 絶対長子だと思っていたのに。だって責任感あるし強いし。なんと三番目生まれらしい。意外だ。兄、姉、弟がいるという。今は生家に戻るのは行事ごとのときくらいで、結構疎遠らしい。当主になる気がないなら案外放任主義の家のよう。貴族出身でも、当主以外だと爵位は継承できないんだっけ。とはいえ、貴族出身の騎士さまは大体が騎士爵を叙勲されている。猟師のような労働階級とは違う世界の人だ。
「このまま兄が当主を継承するだろう。既に結婚していて子供もいる。俺は騎士業が性に合っているからこれでいい」
さらりとした言葉だったけど、本当に誇らしそうだ。私にも共感の念が起こる。私も猟師としての生業を誇りに思っている。仕事が生きがいなのはいいことだ。結婚、というキーワードが出てきたことで、ふと思う。
「あれ、フェリックスさまって26歳でしたっけ?」
「そうだな」
私より4つ年上だもんね。私は22歳だ。
「フェリックスさまはご結婚を考えたことは……」
あ、この話題駄目だ。慌てて言葉を切る。しかし零れてしまった言葉は十分意味として通じる。フェリックスさまが私をちらりと見た。それから正面に視線を戻す。
「結婚については、色々あるからな。相手の意見を尊重しないといけない」
「……確かにその通りです」
たぶん私の緊張はフェリックスさまに伝わった。濁して回答してくれたようだ。……私はフェリックスさまの気持ちを察している。同様に、フェリックスさまも私の気持ちをある程度察しているだろう。だからこれ以上踏み込んでこないのだ。
本当は、このままではいけない。私ははっきり自分の気持ちを言ってケリをつけるべきだ。それが誠実なこと。だがそれは関係の断絶に繋がるかもしれない。それは友人として悲しいし、何よりフェリックスさまの狂病の件が行き詰まってしまう。どうすればいいんだ。
遠乗りで見た景色は素晴らしかった。自然の息吹を感じ、馬の静かな歩調も心地よい。空を見上げると、雲一つない快晴だった。ゆっくり乗れて、とても楽しかった。また乗りたい。でも次の機会のとき、隣にフェリックスさまがいる確率は低いと思う。




