↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心臓を、抉る。  作者: kanon
情熱と戸惑い
31/61

【29】愛着は、人を弱らせるのだ。

少しピリピリしながら三人でごはんを食べた一週間後。私はフェリックスさまに外乗に誘われた。何かの話題で、馬に乗れることを伝えたのだ。最も、所有の馬はいない。時々腕を鈍らせないために馬を借りて乗ることはあるが、お金がかかる。乗れる時間も少ない。


今回はフェリックスさまが馬を借りてくれたそうだ。嬉しい。外乗なんて久々だ。今の時期にコースをゆっくり回るのは素敵だろう。丁度季節の変わり目なので、鮮やかな風景が馬上から見られるはずだ。これがただの友人としての厚意だったらどんなに良かったか。


彼は私がもう少し心を開くことを望んでいる様子だ。忌避感を抱かせない絶妙な接触もある。あまりに態度がわかりやすい。それに加え、私の好みをよく理解している。私が口に出した話題をまめに覚えているのだ。最初の頃の異様な気まずさは何だったんだというレベルでこなれている。


誰かから助言をもらっている? あるいは根が情熱的なパターンかな。フェリックスさまが平民出身だったら、付き合おうかな、と気軽に思っていたかもしれない。うーん、案外女性経験が豊富なのか? と勘繰る。ぎこちなさがないんだよね。


「上手いな。本当に久々なのか?」


「騎乗は結構自信があるんです」


暴れ馬も私が乗ると大人しくなることが多かった。相性かな?


「乗り方はどこで覚えた?」


「独立する前に父に乗り方を教えてもらいました」


「ほう。……そういえば、あまり家族の話は聞かなかったな」


ですね。最初のうちはそもそも会話自体が少ないこともあったし。あとは狩猟のこと。魔物討伐のこと。話題が増えたのは本当にここ最近だと思う。


「父も猟師です。母は私が小さい頃病死したそうです。あまり覚えていません。ちなみに私は一人娘です」


「君の生業は、お父上が?」


「そうです。色々教えてもらいました」


ちなみに、父は今でも現役だ。居場所の森がここではないだけ。父のいる森は、クロの森よりも環境的に厳しいところだ。たまに手紙でやりとりしているが、相変わらずの様子。


父は、私が一人で生きていけるように仕込んだ。女性は結婚して家庭を守る。そういう考えがまだまだ根強い。だから猟師としての技を娘に教えない親も多いだろう。だが、父はそんなことはなかった。狩猟の方法、危険の見分け方、そして猟師としての心構えを私に教えた。私はそのことに感謝している。


「父の言葉で、今でも思い出すことがあります。『獲物に愛着を持つな』と。それができないなら、猟師は一人前ではないと」


「それは、狩猟に影響が出るからか」


「そうですね」


私がまだ幼かったとき、鹿の親子を見た。母鹿と仔鹿。連れ添って歩く二匹。かわいい、と言った。すると近くにいた父は、獲物に愛着を持つなと言って母鹿を殺した。仔鹿は逃げていった。父は母鹿を私の前に持っていき、これを熟成させたら食わせてやる、と言った。唖然としていた私は、鹿肉がお腹いっぱい食べられることがわかり笑顔で頷いた。先ほど感じたかわいい、という感情はなくなっていた。


本来、親子の鹿を射るなどあり得ない。母鹿を殺すということは、仔鹿も殺すようなもの。繁殖を減らすわけだから。それでも父が母鹿を殺したのは、私に教えるため。獲物に愛着を持つなんてご法度だと。


鹿を可愛いと思ってはいけない。うさぎを可愛いと思ってはいけない。リスを可愛いと思ってはいけない。彼らは等しく、猟師にとって獲物である。私たちが日々を生きるための糧。獲物は獲物としてしか見るな。殺したら可哀そうと思っては、猟師失格である。この生業で生き残ることはできない。


愛着は、人を弱らせるのだ。人間同士なら、愛着を持つ者同士が力を合わせ、さらに強くなることもあるだろう。だが猟師が獲物に愛着したとして、どう強くなるというのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。