【22】こんばんは、共犯者さま。
決行は早かった。暗殺計画を練った二日後、私は夜に酒場に向かっていた。手順はこうである。まず、ルドルフさまがフェリックスさまを飲みに誘う。成功したら通信石で私に連絡を取る。私は二人が飲んでいるところに偶然を装って声をかける。で、酒の席に混ぜてもらうわけだ。
睡眠薬の準備はルドルフさまがした。知り合いの薬師に相談して、あまり影響が残らない調合をしてもらったという。粉ものだが液体に入れるとさっと溶けるらしい。匂いも強くないものだ。私も一袋分もらっている。さて準備万端。店の中に入る。お、いたいた。
「あれ? フェリックスさまとルドルフさま?」
「っ! サシャ? 偶然だな。飲みに来たのか?」
私の声にフェリックスさまはこちらを振り返った。笑顔を向けられる。いやあ、偶然じゃないんですよね。そういえば、最近フェリックスさまは結構笑ってくれる。最初の頃は堅物そのものの生真面目顔が多かったのだが。親しくなったものだ。既にお酒は飲みだしている様子。今は2杯目が届いたところのようだ。
「こんばんは、サシャさん」
ルドルフさまも片手をあげて挨拶してくれた。こんばんは、共犯者さま。
「今さっき一仕事(殺ではない方)を終えたところで……」
「そうか。もしよければ一緒に飲まないか?」
幸先がいい。こちらが声をかける前に誘ってくれた。自然な流れだ。それでは遠慮なく、とフェリックスさまの隣に座る。酔った演技をしないといけないので、一先ず酒を多めに注文だ。おっと、ついでに。
「フェリックスさま、これとこれならどっちがおすすめですかね?」
「どれだ?」
私はメニューを広げて指さした。当然フェリックスさまの視線はメニューの方を見る。さあ、今のうちに。流石に早い。ルドルフさまがフェリックスさまのお酒に粉末を入れた。
「最初は軽いものがいいだろう。こっちにすればいい」
「わかりました。ありがとうございます」
早速私のお酒が届く。さっと入れ物を持ち上げた。乾杯。私は届いたお酒を飲んだ。フェリックスさまも薬入りのお酒を飲む。味で気付かないかな、大丈夫? 様子を窺うも、特に何か気付いた様子はない。いけそうだ。
さて、結論としてフェリックスさまは見事に潰れた。ふう、頑張った。途中から明らかに呂律が怪しくなり、最後は昏倒するように眠ってしまった。完璧だ。ルドルフさまと一緒にフェリックスさまをずるずる引きずって店を出る。
「良かったです。上手くいきました」
「びっくりするほどにね……」
いやあ、案外素直に飲みまくってくれて助かった。隙も大きかったし。私は途中から酔ったふりをして、もっと飲みましょうとお酒を勧めまくった。
「このお酒美味しい。フェリックスさまも是非1杯頼んでみてください」
サシャがそう言うなら、と頼んでくれた。これで3杯目。受け取ったルドルフさまが隙を見て薬を入れる。
「あれ、間違って別の注文した? フェリックスさま、このお酒飲めますか? ちょっと苦手で……」
悲しい顔をして差し出したら飲んでくれた。これで4杯目。私が自ら薬を入れた。
「もう少し! もう少し飲みましょうよ! 今日はとにかく飲みたいです! 一緒に飲んでください! お願いします!」
流石にフェリックスさまの顔は酔いで明確に赤くなっていた。薬も入っているから意識も朦朧としていただろう。断られそうな雰囲気を察知。とにかく強請って腕をぐいぐい引っ張った。根負けして次を頼んでくれた。トドメに5杯目。ルドルフさまが薬を入れる。これを飲んでいる途中、無言で倒れこんだ。よし。なお普通に生活する上では、こういうことは絶対に真似しないでほしい。




