【21】うーん、言い得て妙。
「けど、フェリックスさまに気付かれないよう発症前に殺すって。言ってみたけど、どうします?」
「そこなんだよね」
「眠っているところにグサリとするのは?」
というかそれしかなくない? 意識ある状態で刺した場合、絶対ばれるでしょ。殺された前後の記憶が飛ぶわけじゃないからね。ルドルフさまが頭を悩ませる。
「騎士だからね……。夜の野営経験もある。不穏な気配がしたら就寝していてもすぐに飛び起きるはずだ」
「うーん」
そりゃそうか。刺す直前まで私に気付かず眠りこけるわけがない。こちとら猟師なので多少気配は隠せるが、熟練の騎士さまと相対するとなると不利だ。
「気絶しているところを刺すというのは?」
「どういった事態でフェリックスは気絶しているわけ?」
「こう、ルドルフさまが悪ふざけのふりしてきゅっと締め技をかけるとか。幼馴染なら不意はつけますよね?」
「無茶言わないでよ。起きた後に僕はなんて弁解すればいいんだ」
駄目か。普段からそういうことする間柄じゃなさそうだしね。
「お酒を使うのはどうです? フェリックスさまはお酒強いですか?」
「強さは普通かな。でもあいつは羽目を外さないよ。飲むときもせいぜい2、3杯ほどだ」
ああ、確かにいつもそれくらい。ふむ。少し考えてみる。……これは犯罪の範囲だけど、致し方ない。それ以外に方法が思い浮かばない。
「例えばですけどね。睡眠薬とかはお酒と飲むと効果が増すと言うじゃないですか。それはどうです? 身体に負担がかかるかもしれませんが……」
「なるほど。あいつの飲む酒に薬を混ぜて深く眠らせれば」
「そして意識を失ったところで人目のないところに連れていき、グサリです」
「……でも2、3杯の酒でいけるかな? 少しの酒に確実に効く量の薬を混ぜれば、味で気付くかもしれない。それにいつもはその程度じゃどうともならないのに昏睡すれば、違和感があるはずだ」
あー、確かに。それならば。
「いつも以上に飲ませればいいんです」
「どうやって?」
「飲みの場に私も同席します。そして私がフェリックスさまに酒を勧めます。いつもの量に追加で2杯くらい飲ませられれば上々では?」
酔っているふりして押して押して押しまくるのだ。これが男性相手なら引き剝がされて終わりかもしれない。だが女性相手となると、フェリックスさまは跳ね除けられない可能性がある。この作戦をとった場合、私は酔うと質が悪くなるという不名誉を受けるけど。いけると思います? とルドルフさまを窺う。反応は悪くない。
「君が勧めれば、フェリックスは多少無理してでも飲むだろう」
「おお、やはり。女性には優しそうですもんね」
「……」
なにその沈黙。まあそんなわけでフェリックスさまの暗殺計画が企てられたわけである。うーん、言い得て妙。まさか幼馴染と友人に暗殺されそうとはフェリックスさまも思うまい。でもこれもフェリックスさまのためなので。
「そういえばちょっと聞きたいんだけど」
「はい、何でしょうか?」
「サシャさんはお付き合いしている人とかいないの?」
何で突然そんなこと聞くの? 首を傾げる。
「ほら、フェリックスの件で呼んでもらったけどさ。もし恋人がいてこの現場を見たらあらぬ誤解をされるよね」
ああなるほど、私のことを心配してくださっていると。大丈夫、それは心配ない。私に恋人はいないからね。そう伝えるとルドルフさまは一つ頷いた。というかですね。
「今はいないし、今後当分恋人はつくれないかもしれません」
「え? それはどうして?」
「御使いって処女じゃないといけないらしいので」
いずれ恋人ができればそういうこともするだろうしね。今までは狩猟のことで頭がいっぱいでそれどころじゃなかったのだ。で、今はサラエルさまに忠告されているので。まあ別に処女でも困っていないし。あ、ルドルフさまが刺されたみたいな顔してる。やば。女性が処女とか言うものじゃなかったか。少なくともご令嬢さまは絶対男性の前でそんなこと言わないだろう。慎みがなくてすみません。




