【20】「よくて休職。最悪なら魔物扱いだ」
黒い霧を見てから二日後。私はルドルフさまを作業場に呼んでいた。私の呼び出しの段階で、大体の予想はついていたのだろう。開口一番、フェリックスのこと? と聞いてきた。はい、その通り。私は発症直前の予兆を伝えた。ルドルフさまは顔を歪める。このままではもう間もなく、フェリックスさまに四回目の狂病が来てしまう。
「猶予はあとどれくらいだろう?」
「今思い返せば、三回目の発症直前に酒場で会った時も、一瞬霧が出ていたんです」
あの時は見間違えたかと思っていたけどね。今思うとあれは予兆だったわけだ。で、酒場の件の一週間後には発症していた。つまり、もうあと数日で危険な段階に到達する。幸いこの一週間ほどは、フェリックスさまたちは王都内での活動のようだ。やっぱり私が殺せるように因果が働いているんだろう。私はルドルフさまに提案する。
「私はこの際、フェリックスさまに正体を明かしてもいいと思っています。言いふらすような人じゃないのはわかっていますから。事情を話して、発症前に都度フェリックスさまを殺すのが確実です」
「……うーん」
何か問題? 私自身が正体明かしていいよって言っているのに。これでフェリックスさまも周りの人に迷惑かけなくて済む。何回も発症する要因も、時間の経過とともにわかってくるかもしれないのに。
「その場合、あいつは発症直前までいったことを上に報告するだろう」
「は? なぜですか?」
「結局、根治していないわけだからね。病気を隠して勤務するのは信念に反する、とか言いそうだ」
「いやいや! そんなの堅物すぎます! 潜伏因子があっても何も起きないならいいじゃないですか!」
あいつだからね……、とルドルフさま。ど、どんだけ堅物なんだ。それ報告したら自分の立場がほぼ終わるってわかるでしょ。それだけじゃない、とルドルフさまが続ける。
「君の正体を明かせば、下手すれば狂病以上にあいつは苦しむかもしれない。君に負担を強いていると思うはずだ。今ですら、正体不明の御使いに申し訳なさを感じている」
「いや、ぶっちゃけ殺すのは何とも思っていないんですが。私そういう人間ですので」
正直、心臓抉るときは獲物を狩るときの心境。
「ちなみに次に上に報告した場合、フェリックスさまはどうなるでしょう?」
「よくて休職。最悪なら魔物扱いだ」
頭痛くなってきた。そうなるって想像つくのに報告する? しそう。
「説得でなんとかいけません? フェリックスさまがそうなったら、騎士団はどうなるんです? 部下のためにも、隠す方がいいでしょ」
「一時しのぎはできるかもね。でも引継ぎをしてから報告をする可能性が高い」
「御使いの私が言ってもだめですか?」
「……わからない。せめて再発の原因とかいつまで続くとか、そういう決着点がはっきりすれば妥協してくれるかもしれないけど」
それはそうか。いつまで続くかわからないから問題なのだ。ここまで耐えれば終わる。そういう目標があればフェリックスさまも自分に甘くなるかもしれない。しかし次の発症は推定一週間以内。それまでに再発原因を突き止められるとは思えない。時間稼ぎが必要だ。私とフェリックスさまは友人の間柄だ。友人を助けたいと思うのは当然。なんとかしてみせないと。
「……現状とるべき方法は一つですね。フェリックスさまに気付かれないよう、発症前に殺す」
「サシャさんには迷惑をかけてしまうけど、それでお願いしたい」
「迷惑ではないですよ。私もちゃんと治してあげられればいいんですけど」
サラエルさま、今一度夢に出てきてくれませんかね? なんか何度も再発している人がいるんです。これは私が悪いの? それとも何か別の要因? わかっているなら教えてほしい。少なくとも、フェリックスさまに非はないと思っている。




