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【19】「線引きは大切だと思います」

クロの森の件から一週間ほどが経った。結局、私は万全になるまで数日を要した。一般人はそんなものですよ。その間、フェリックスさまがぽつぽつお見舞いに来てくれた。お菓子や果物を差し入れてくれたのである。有難くいただいた。普通に嬉しい。ルドルフさまやエミルさまも顔を見に来てくれた。いやあ、心配かけてすみません。


そして今日。快気祝いにフェリックスさまが食事をご馳走してくれるというので、私はいそいそと会いにいったわけである。以前、魚が食べたいと言ったことを覚えてくれていたらしい。おすすめの魚料理の店につれていってくれた。さすがおすすめの店。食事は最高に美味しい。


「クロの森の件だが、今考えているのは感知石の設置だ」


「感知石って、魔物が範囲内にいると光るやつですっけ?」


「そうだ。最近になって、安価な量産の目途が立ってきた。これを森の内側の境界域に一定間隔で設置するのだ」


なるほど。森に魔物を捨てられても、感知石があればその存在をすぐ証明できる。騎士さまを公的に動かせるようになるだろう。問題は、どういう言い分でクロの森周辺に感知石設置を提案するかだ。そこのところはまだ考え中らしい。ここで重要なのは、これが猟師たちの訴えであると悟らせないことだ。何らかの理由で、クロの森に感知石を設置する必要が出てきた。そういうことにすればいいのだ。


「なるべく早くに理由付けをする予定だ。もう少し煮詰めさせてほしい」


「本当に助かります。仲間たちも皆喜びます」


今回の件だって、死傷者は出なかったが無問題というわけではない。ロビンは経済的に大きく打撃を受けた。魔物の出現で、クロの森内の縄張りなども変わってしまったかもしれない。そして私は一週間ほど稼ぎがほぼなかった。


今の時期、元々狩猟数は少なくしないといけない。それでも、本来やることは色々ある。薬師に頼まれて森の薬草を採ることもあれば、獲物の皮で加工品をつくることもある。食用に適さない肉を加工して、飼料として売ることだってある。そういう一切の稼ぎがゼロだ。


猟師仲間の助けはあったが、お金は減ってしまった。ただでさえ稼ぎが少ない時期だっていうのに。元々あまり貯める方じゃない。すぐに底をついてしまう。御使いの方で一殺すればお金入るようにならないかな。無理か。今月は少し切り詰めないとね。それについて少し愚痴を言ったので、フェリックスさまはそこも心配しているようだ。援助を申し出られたがそこは遠慮した。


「猟師というのは結構その日暮らしの部分がありますから。ロビンのように畜産をやってないと猶更です」


「この件で狩猟の内容に影響が出るだろうか?」


「魔物に怯えて、獣たちが森の奥深くに逃げ込んだ可能性はあります。私たちは普段あまり奥地まではいきません。持って帰るのが大変になりますから」


「……」


「最悪、飢えて死ぬことになります。でもまあ、それも摂理です」


猟師というのは自然の循環の中を生きる者だ。ある意味、獣と同じ。獲物が捕れれば腹が膨れる。捕れなければ飢えて死ぬ。強い者が生き残る。そして、言うほどたくさん蓄えなんてできない。生態系を破壊せずやりくりするなら、乱獲は許されない。蓄えのためなら日々の娯楽や彩りは我慢する必要がある。だが、そういう切り詰めをする者は稀だ。大体の者が、今を生きることに集中している。


家庭があればまた違う結果になるだろう。しかし独り身の猟師の場合は、老いて獲物が狩れなくなり痩せ細っていくことも珍しくない。そういう世界だ。今回の場合は、第三者のとんでもない行いでその循環が崩れそうなので、私たちの怒りもひとしおである。だが、起きてしまったことは取り戻せない。


「まあ私たちは人間です。知恵を絞る頭がありますから。色々工夫して、危機を乗り越えます。今回もなるようになるでしょう」


「本当に困ったときは必ず相談してくれ。君の力になりたい」


フェリックスさまは今回の件をかなり重く考えているようだ。一猟師の私にここまで言ってくれるなんて優しい。今フェリックスさまが頑張っているらしい感知石の件で十分助かります。


「今回、君の狩りに同行して思ったのだが」


「はい?」


「君は猟師仲間だと気安い喋りをするのだな」


「そうですね。同僚には敬語とか使いません。あれが素です」


「俺と君は友人だ。どうだろう。もう少し砕けて話してみるのは」


……えーと。


「それは無理ですかね。身分差があるので。友人とはいえ、線引きは大切だと思います」


「……そうか」


「はい」


すみませんね。でもどこで誰が聞いているかわからないので。第三者から見れば、私が騎士さまにタメ口聞く生意気女になってしまう。もしこれが、素で話せ、という命令ならば当然聞いた。でもさっきしたのは提案だ。決定権は私にあった。ならば私の考えを優先して答えるべきである。


何やらフェリックスさまの口数が減ってしまった。気分を害してしまったかな? でも身分差って馬鹿にできないから。と思いつつ。私はルドルフさまに連絡を取る方法を考える。フェリックスさまの身体から、ほんの僅かだけど黒い霧が出ている。見間違いではない。狂病の前兆だ。またか。

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