【18】「……すまない、混乱しているようだ」
あのあと私たち討伐隊は無事にクロの森の外に出た。ロビンたちが出迎えてくれた。無事討伐したこと、二匹いたこと、魔物の種類などを情報共有。皆が等しく怒り狂った。当然である。
私は泥まみれだったので、猟師の奥さんたちに連れていかれた。速やかに服を脱がされ湯あみをし、ついでに傷などがないかチェック。糞尿や細菌が多数いる土壌に地肌をつけちゃったのでね。一応そういう感染症の予防はしているが、よく身体を洗っておいた。
髪のギシギシが気になりつつ着替える。何とかちょっとは動けるようになったけど、まだ覚束ない。ふらふらしながら外に出た。フェリックスさまがまだいた。何やら猟師たちと話し合っていたよう。話を切り上げた様子のフェリックスさまが私に近づいてくる。
「サシャ、大丈夫か?」
「はい。しばらくはふらふらするかもしれませんが、よく休めば平気です」
「……君たちの望み通り、今回のことは口外しない。ただ、このまま放っておいていい段階は越えていると思う」
だよね。一度あったことは二度あるし三度ある。こんなの何回もやられていたら命がいくつあっても足りない。今回フェリックスさまが同行してくれなければ、確実に死傷者が出ていただろう。私も死んでいた可能性がある。本当に来てくれて助かった。
「君たちの立場を守りつつ、クロの森に魔物が捨てられることがないよう、何らかの対策を考えようと思う」
「本当ですか」
「ああ、勿論対策内容は君たちと相談しつつまとめていく。応急対策だが、今後また森に魔物が出た場合は俺の管轄に相談してくれ。信頼できる者だけに事情を話す。そして、今日と同様の方法で同行する」
「おお」
有難い、そこまでしてくれるなんて。改めての感謝を述べた。私は心からの尊敬の念の込め、フェリックスさまを熱く見つめた。私の眼差しを受け止めたフェリックスさまはなぜか視線を彷徨わせた。あれ、目を逸らすなんて珍しい。咳払いしたフェリックスさまが言う。
「今日は、すまなかったな。俺の力不足を実感した」
「え?」
「同行しておきながら、君を危険に晒してしまった。二匹目の討伐の件だ」
何をおっしゃるのやら。あれは普通に二匹いると考えるのが難しい状況だった。相手も気配隠すのが上手かったしね。というか、私はフェリックスさまに命救われているんだけど。なぜ謝られているのか。
「フェリックスさまが遠距離攻撃の可能性を指摘してくれたからこそ、私は初撃が避けられました」
「……君がマナの攻撃をしなければ、絶対に俺のトドメは間に合っていなかった」
「私はマナ攻撃する前提での参加でしたから。そんな、何から何まで守ってもらうつもりじゃなかったですよ。あれ食らって生きているのは流石に肝が冷えましたけど」
所詮一般人だからね。私の実力なんてそんなもの。むしろ普段使い慣れない携帯ナイフの投擲で魔物の頭部を破壊したフェリックスさまはやっぱ尋常じゃない。私はそのことを素直に述べた。
「あの攻撃を見て、やはりフェリックスさまは素晴らしい騎士さまだと実感しました。私とは比べ物にならない強さです」
「そうだろうか?」
なぜ疑問を持つ。明らかにそうでしょ。フェリックスさまは私をそっと窺って、また視線を逸らした。ぐっと眉を寄せている。
「森の中で追跡していたとき……。それに、あの魔物に矢を射ったときの君は……」
「私は?」
「……すまない、混乱しているようだ。上手く表現できない」
そうですか。まあ言葉が上手く出てこないことってあるよね。難しい顔をして黙り込んでしまったフェリックスさまにそういうこともありますよねと相槌を打った。あー。身体が元気だったら飲み会に参加したのになあ。残念。




