【15】間違いなく今までで一番やばい奴だろ。
で、翌日の夜明け。私はしっかり武装していた。いやそんなすごい装備なんてないけど。いつもの猟師の恰好。武器は主流が弓矢、サブとして携帯ナイフと投擲用の石である。いざ出陣、と家から出たら近くにフェリックスさまがいた。あれ、なぜここに。
手をあげてこちらにやってきたので、明らかに私待ちだろう。家の場所知っていたんだ。まあ調べればすぐわかるか。昨日の話理解していた? と思いつつ見やって気付く。制服ではない。私服だ。武器も帯刀しておらず、丸腰。おはよう、と朝の挨拶をしてからフェリックスさまが言う。
「今から狩りだろう? 同行させてくれ」
「えっと?」
「俺は、今日は休日だ。余暇の機会に狩猟の見学をしたくて訪ねたのだ」
「……」
「休みの日だから、武器は持っていない。ただ、森は何がでるかわからないだろう。だからできれば護身用にナイフでも貸してもらえれば助かる」
「なるほど。そういうことですか」
言いたいことはわかった。正直驚いている。つまりこれは、仕事ではないと。私は携帯ナイフの一本を渡す。それでいいです? と聞いた。問題ない、との返答。私は思わず彼の顔をじっと見つめてしまった。そして心に浮かんだ言葉を素直に吐き出す。
「フェリックスさま。ありがとうございます。とても心強いです」
「……これを考えたのは、実は俺ではないのだ。エミルが提案した」
エミルさまが。ちょっと意外。こういうのはルドルフさまのイメージだったんだけど。もしかしたらエミルさまがこういった融通を行う場面がかつてあったのかもしれない。勿論この件は口外しないようしっかり伝えている、とフェリックスさま。うう、感謝だ。怖がりはしないけど、相手は魔物だ。猟師仲間たちの事も考えれば、フェリックスさまの同行は本当に助かる。人的被害を出さずに事態を収められるかもしれない。
場面変わってクロの森。私は猟師仲間たちにフェリックスさまのことを伝えた。騎士さまというだけでフェリックスさまを疑う人たちもいた。だが最終的に私が責任を持つということで、フェリックスさまも森に入ることになった。騎士さまを嫌う猟師もいる。今までの対応があるからね。それでも、魔物討伐のためならとあからさまな不満を口にする人はいなかった。
魔物の捜索は足跡を追って行う。フェリックスさまと私が最前線だ。幸い、足跡ははっきり残っている。雨も降っておらず、臭いも消えていない。ロビンの家畜小屋からのびる足跡を追う。猟師仲間に借りた犬に臭いを辿ってもらい、森の深くにぞろぞろと入っていく。鬱蒼とした森の中を、なるべく音立てずに進む。入って10分ほど経った頃。
「間違いないようですね」
小声で呟く。鹿の親子の死骸だ。すごい食い千切り様。仔鹿の方は部分的にしか残っていない。ロビンの家畜を食べてから、そんなに時間は経っていないはず。随分な大食いだ。死骸の状態を確認。殺されてからそんなに時間は経っていないと見える。ある程度満腹となれば、大型の生き物は眠りにつくことが多い。魔物にもそれが当てはまるかは不明だが……。
「フェリックスさま。この魔物の種類は特定できますか?」
今のところわかっているのは、四つ足形状ということ。犬というよりは猫に近い足跡(大きさはそんなかわいいものじゃないけど)。爪が異様に膨らんでいるのか、地面に深めの跡が残るのが特徴だ。体長は推定で2~3mか。足跡を見たフェリックスさまが苦々しく首を横に振る。
「すまない、わからない。よく討伐する種類のものではないのは確かだ」
わからないか。まあペットとして飼う魔物だ。よくいる野生種ではないだろう。だが、とフェリックスさまが続ける。
「微かにだがマナの痕跡がある。鹿を殺すときに使ったのだろう。……これだ。この一帯の木の根元に傷がある。横凪ぎのような攻撃だ」
「なんですって。本当だ。随分範囲が広い……」
「遠距離攻撃の可能性がある」
こ、このやろう。誰かもわからない犯人に悪態をつく。なんて魔物を捨ててくれたんだ。間違いなく今までで一番やばい奴だろ。私とフェリックスさまは猟師仲間に情報共有した。皆が次々罵り言葉を吐き出す。ここでの狩猟が長い人たちも、遠距離マナを使うレベルの魔物を相手取ったことはないようだ。
これは数にもの言わせてのタコ殴り作戦は通じそうにない。被害が増える。経験が浅い者、マナがない者、自信がない者は退却することになる。ロビンも退却だ。フェリックスさまが私を見てくるが、私は退却しない。最後の手段でマナ攻撃ができるのだ。残ったのは私とフェリックスさまを入れて7人。基本方針は変えず、精鋭人数で前進だ。




