【13】やってくれたな、どこかの誰かめ。
あれからさらに3、4週間が経過。私は相変わらずグサグサ騎士さまを刺し殺していた。フェリックスさまとはその間会ったり会わなかったり。相変わらずな関係だ。まあ大分気安くはなったかな。今では沈黙を気まずいと思うこともない。
さて、8月に入った。大変なことになった。私、いや私達は闘いの決意を固めていた。やってくれたな、どこかの誰かめ。夜、私は他の猟師仲間たちと帰っていた。飲み屋の帰りだ。慰め会をしていたのである。主役である被害者は普段の陽気な様子が嘘のように泣いている。可哀そうに。
「おいロビン。もう泣くのは止めろって」
「これが泣かずにいられるかよお。俺、俺の家畜が……!」
「泣いたって家畜は戻ってこないよ」
「馬鹿野郎、サシャ。もっと気遣ってやれ」
「本当のことだし……。その代わり、絶対仇はとってやるから。お金も少しなら助けられるよ」
「うううっ……!」
酔いも手伝っているのか、ロビンの号泣は止まらない。被害を間の当たりにしたときは呆然って感じだった。今頃実感が追い付いてきたんだろうな。なんとかロビンを家まで送り届け、私達は各々解散した。一人になったところで、サシャ、と声がかかる。フェリックスさまだ。
「こんばんは、フェリックスさま」
「うむ、こんばんは。先ほど道中で見かけて、気になって追いかけてしまった」
「んん?」
「会話で、仇をとると言っていたから」
おっと。帰り道の近くにいたのか。気づかなかった。確かに仇をとるなんて不穏な言葉だ。フェリックスさまが聞き逃せなくなる気持ちもわかる。うーん、と一瞬考え、結論を出す。フェリックスさまになら事情を話してもいいだろう。
「実は、さっきまでロビンの慰め会をしていたんです。あ、ロビンというのは猟師仲間の一人です。畜産もやっていて」
ロビンは狩りもするが、それとは別に森の一画で鶏や豚を少し育てている。なので、たまごや鶏肉、豚肉も彼の収入源だ。私も時々たまごを分けてもらうなど、まあまあの親交がある。年も近いので気安い。その彼の家畜が、いっぺんにいなくなってしまった。
「どういうことだ? 盗まれてしまったと?」
「いいえ。食い荒らされた状態で発見されたんです」
私も現場を見た。散らばる鶏の羽。身体を食いちぎられた豚の死骸。皆が集まり、手分けして状況分析した。死骸の噛み跡からおおよその体長を推測。さらに現場に残った足跡の形状。これらから導いた結論は猟師たちで一致した。最悪だ。
「フェリックスさま、クロの森に魔物が出たんです。今は、動物たちの繁殖期なのに……。私たちの狩り場を守らないといけません」
私の言葉にフェリックスさまが目を見開いて驚愕している。まあそうだよね。本来ありえないことだから。
「クロの森に魔物? まさか、そんなわけがない」
「でも状況証拠は完璧に揃っています。見つかった足跡は、クロの森のどの肉食獣とも合致しません。中型から大型の魔物と推測できます」
クロの森は平民が狩りを許されている広大な森林地帯だ。原生の状態で最低限の手しか入っていないため、鬱蒼としている。昼でも木陰で暗い場所なので、通称クロの森だ。一方、貴族さまたちが狩りをするのはシロの森である。こちらは保養地染みた場所で、その在り様も厳密な管理がなされているそうだ。私たちはそこに入ることはできないので詳細は知らないけど。
森林地帯と言え、クロの森は王都の領域だ。いわゆる魔物不可侵領域である。ずっと大昔、ここらの魔物は大計画に則って一匹残らず駆逐された。ようするに、王都内で魔物が繁殖することがないようにされたのだ。時々外からの荷物で魔物の幼体やたまごが紛れるトラブルはある。だが中型から大型の魔物がクロの森に出るなど本来ありえない。……事情を知らない人からすれば。
「王都外部側からの侵入か? だが境界には魔物避けの結界があるはず」
「念のため仲間の一人が結界について確認をとってくれました。結界は正常です」
「では一体なぜ?」
想像つかないか。まあ心当たりがないと当然だよね。私は答えを教える。
「捨てたんですよ」




