【11】「一緒に食事してもいいだろうか?」
さてそれから3週間ほど経った。7月に入り、暑さが本格的になってきた。フェリックスさまと最後に会ったのは2週間前くらいかな。軽く挨拶した程度で終わった。なんかちょっと離れた地方に遠征に行くとか言っていた。
大丈夫かな? 遠征先で発症したりしない? でもサラエルさまは、狂病者は御使いの下に来るって言っていた。あくまで私が来られる範囲で発症するものとみている。一方の私は日々の生活に忙しい。慎ましくも充実した毎日だ。
もうそろそろ大きめの獲物の狩猟は控え気味にしないといけない。私の所属する森は、厳密には禁猟期間はない。しかし、生態系を壊さないよう狩る数などは仲間と情報共有しないといけないのだ。リスとか毒のないヘビなら数が多いから、狩猟の制限数が厳しくない。今日はリスのからあげでも食べようと数日前から罠を仕掛けておいた。結果は上々。時期ではないけど、調理次第で美味しくなるはず。
さて料理しようと森を出ると人影が。フェリックスさまだった。遠征から帰ってきたのか。挨拶しつつ顔を窺う。狂病のことを話した時の落ち込みは、今はない。少なくとも表面上はいつものフェリックスさまだ。ただ、遠方の移動は騎士さまといえ体力を使うのだろう。少し痩せたようだ。大変そうだなあ。今日はどうしてここに? と聞く。
「元気にしているかと気になってな」
「私はいつも通り元気ですよ。これから昼食を食べるところです」
「……そちらが食材か?」
「はい。リスのからあげにしようと思いまして」
ほう、と興味深そうに頷かれる。食べたことあります? と聞いてみる。ないらしい。まあリスは珍味の部類かも。やっぱ貴族さまのお屋敷では豚肉とか牛肉とか鹿肉が主かな。それかお魚。お魚いいよね。猟師の範囲では捕れないので、たまに外食で食べるくらい。
「一緒に食事してもいいだろうか?」
「ん? それはリスのからあげを食べるということ?」
「君の食事を分けてもらうことになるな。埋め合わせというわけではないが、俺の昼食を分けよう」
「時期じゃないので、美味しいかはわからないけどいいです?」
「ああ」
フェリックスさまの昼食は、美味しそうなサンドウィッチだった。これはパン屋で買ったものだろう。私としては悪くない交換条件だ。リスのからあげもサンドウィッチも食べられる。笑顔で了承した。今日は天気もいい。作業場の外には簡素だが木製のテーブルとイスもある。そこで食べよう。なおルドルフさまを殺した場所もここである。
ささっと料理してリスのからあげを提供する。その間フェリックスさまは食事の準備をしてくれた。貴族生まれの人って何もかも使用人にやらせるのが普通だと思っていた。誤解していてすみません。フェリックスさまはリスのからあげをまじまじ見ていた。
「骨が細かいので気を付けて食べてくださいね」
そう言いつつ、からあげを食べる。お、よかった。いける。うまー。フェリックスさまも一つ食べる。
「どんなものかと思ったが、リス肉は鶏肉に近い味なのだな」
「私は逆に思っていました。鶏肉はリス肉に似ているって。鶏よりリスの方を食べますから」
猟師やっていてそれで稼げると、食肉屋さんでお肉買うことがなくなる。あと野菜や果物も一部は森で採れるのでね。稼いだお金は柔らかいパンとかお菓子とか、お魚になる。サンドウィッチも食べつつ、遠方の任務はどうだったか聞いてみた。幸い今回は魔物との戦闘も少なく、予定より早い任務完了だったようだ。病気の方は? と聞いてみた。まあ私が呼ばれていないから、大丈夫だったってわかっているけど。
「もうそろそろ前回発症してから1か月だが、以降特に症状はない」
「きっともう治ったんですね」
「それはどうだろうか。油断できない。以前の再発も2か月ほど経った頃だった」
だよね。私はじっと集中してフェリックスさまを見つめてみた。じー。何も見えない。今のところ黒い霧はない。……あまりに見すぎたらしい。フェリックスさまがどうした? と聞いてくる。リスのからあげ美味しいですか? と聞いて誤魔化した。律儀な様子で、美味しいと返事してくれた。




