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【10】獲物が自ら差し出されてくる。

ありゃ。怖がらせてしまったかな? まあそりゃ今から貴方の心臓刺しますと言われたら嫌か。そりゃ断るね、と思っていたら。


「……お願いしてもいいかな?」


「え。やるんですか」


「あいつがまた発症する可能性もある。もし僕までとなると、うちの騎士団は大変なことになる。芽は取り除いた方がいい」


な、なんて責任感ある言葉なんだ。人格ができているなあ。感心しながらナイフを取り出す。今は夜でもなく、私は顔も隠していない。殺しの対象がはっきり見える。しかも相手は意識がある上、無抵抗だ。こんなことはなかなかない。いつもと違う状況にわくわく。一応あたりをきょろきょろ確認。人影なし、気配なし。


「正面からいきますか? 後ろからがいいですか?」


「……。君のやりやすい方で」


「じゃあ正面から。胸元を開いてください。服、傷つけちゃうんで」


ルドルフさまは言われた通りにした。うわー、流石騎士さま。いい身体だ。獲物が自ら差し出されてくる。私は位置を確認した。変に刺すと骨に引っかかって、心臓にいかない。


なんかサラエルさまの加護なのか、勢いで刺しても大体骨避けて一気にいけるんだけどね。暴れるタイプの人は大変。刺してる途中に動かれて、骨にかちかち当たったことがあったっけ。ぎゃあぎゃあ叫んでいたなあ。最後は周りの人に押さえてもらって、刺し直した。あの人には悪いことしたな。私が未熟だったばかりに。


おっと、思考が飛んでいた。さて、今は相手が不動だから落ち着いて狙える。折角だからゆっくり刺すところも見ておこう。うーん。ここから入れるか、と目星をつける。ルドルフさまを見た。少し血の気が引いている。大丈夫ですよ、と私は微笑みかける。


「深呼吸してください」


胸がそっと膨らんだタイミングでグサリ。相手は動いていない獲物だ。当然狙いは外れない。おお、ナイフが身体の中にめり込んでいる。こういう風になるのか。すごい。血が出ないのが不思議だね。……うーん、私の語彙力なさすぎ。脈動が伝わる。少し浅くて速い。緊張している、とわかる。ルドルフさまの顔を見つめる。目が見開かれて、口が微かに開いている。あらら、鳥肌が出ちゃって。ナイフで心臓を抉る。目の前の瞳孔が散大した。


「!」


真っ赤な煙が噴き出す。量は多くないけど、本当に潜伏していたのか。刺した甲斐があった。ナイフを一気に引き抜く。ガクッと目の前の身体が一回大きく跳ね上がる。一拍後、ルドルフさまは荒く呼吸した。うわ、きつそう。お茶のおかわりを差し上げた。


「大丈夫ですか? 痛くなかったです? 気分は?」


「大丈夫……」


「煙が出ていきました。本当に潜伏していたみたいです。これで一先ず安全のはず」


「こんなの……。僕は、一度でごめんだ」


痛かったのかな? 真っすぐ綺麗に刺したんだけど。その点謝ったら、別に痛みはそんなになかったらしい。あ、そうなのか。ただナイフが入る感覚はしっかりあるそうだ。殺した瞬間は頭が真っ白になったらしい。こわ。疑似臨死ってことか。これを既に三度も経験しているフェリックスさまは哀れだ。というより、とルドルフさま。


「刺されることもそうだけど、僕はサシャさんが怖かったよ」


「ええ? 優しくしたつもりですが」


言葉を濁された。まあでもこれでルドルフさまは今後大丈夫だろう。顔なじみを助けられてよかった。予防という方法は有効だと証明された。あ、そうだ。


「別に発症していなくても効くなら、対象の騎士さま全員が私に殺されれば今後こういうことが起きなくなりますよ。私も不定期に呼び出されずにすみます」


「誰も来ないよ」


言ってみただけだって。そりゃそうか。ルドルフさまはフェリックスさまの件もあって覚悟決まっていたからできたんだ。今から心臓刺しますと正体不明の奴に言われて騎士さまが行列成すはずない。


「あ、フェリックスさまが暴走する前に定期的に刺すのはどうです? そうすれば人前の発症はなくなります」


「今までの三回が成功しているのは、あいつが暴走状態だったからだよ。素の状態なら正体を隠して刺すのは絶対無理だ」


うーん、そりゃそうだ。暴走状態で周りに目が配れない。さらに部下の騎士さまに引き付けてもらってやっと刺せるからなあ。正体明かして定期殺害してもいいけどね。知った仲だし。フェリックスさまはたぶん私のこと無暗に言い広めないだろうという確信もある。


まあこの間刺したばかりだし、今後はないかもしれない。様子見でいいか。少しぐったりした様子のルドルフさまを見送って、今日は終わった。別れ際、ルドルフさまが言っていた。


「またあいつと話してやってね」


「それはもちろん。最近は、私としても楽しい時間が多いです。御使いなので狂病を怖がることもないですよ」


ルドルフさまの話を聞く限り、色々風当たりがありそうだしね。せめて私は態度を変えないようにしよう。


「あいつは本当に君を気に入っているんだ。今日、弱音を言ったのを見てびっくりしたよ」


……弱音? 言ってた? 首を傾げる。


「再発するかもしれないって言っていただろ」


「あれは弱音ですか? 私に、気をつけろという意味で言ったのでは?」


「僕は弱音だと思ったけどね」


そうなのかなあ。

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