第十一話 点棒
「……は?」
私が放った氷のように冷たい声に、引き分けだと安堵していた三人の娘たちは気の抜けたような声を漏らした。 背後で騒いでいたクズ親たちも、何事かと訝しげに私を見下ろしてくる。
私は伏せていた十三枚の牌から手を離し、静かに卓の中央を指差した。
「点棒を見てみなさい」
促されるまま、全員の視線が全自動卓の中央へと集まる。
そこには、先ほど彼女たちが勝ち誇った顔で放り投げた、三本の白い点棒が転がっていた。
「全員テンパイで罰符の移動はゼロ。でも、あなた達三人は最初に『オープンリーチ』を宣言したわよね? 麻雀のルール上、リーチをかけるためには供託として1000点の点棒を出さなければならない。そして――誰もアガれなかった以上、その点棒は卓に残ったままになる」
「あ……」
対面のレイナの顔から、スッと血の気が引くのが分かった。
「……つまり」
私はゆっくりと立ち上がり、彼女たちを見下ろすように冷酷な事実を突きつけた。
「私だけがプラスマイナスゼロ。あなた達三人は、親も子も関係なく、綺麗に1000点ずつのマイナスということよ」
「なっ……!?」
「そ、そんな馬鹿な!」
背後のクズ親たちが悲鳴のような声を上げる。
麻雀において、親と子の点数授受が混ざる状況下で「三人が全く同じ点数になる」ことは奇跡に近い。
だからこそ彼らは、私の提示した条件を「絶対に起こり得ない」と嘲笑って飲んだのだ。
だが、点数移動が一切発生しない『全員テンパイの流局』において、唯一親と子の差が出ない『リーチ棒のマイナス1000点』だけを発生させることで、そのあり得ないはずの同点は完璧に作り出された。
「あなた達、さっき私と約束したわよね? 『次もまた三人同点になったとして、同点だからノーカンだなんて見苦しい言い訳は二度としない』って。そして、『三人同点負けでも、きっちり敗北を認めて借金を背負う』って」
「あ、あんな口約束は無効だ! この試合も無効、ノーカンだぁっ!」
クズ親の一人が真っ赤になって怒鳴りだす。
だが次の瞬間、彼らは屈強な黒服の男たちに背後から羽交い締めにされ、冷たい床へと押さえつけられた。
「なっ、おいっ、離せ!」
「見苦しいぞ、クズ共」
部屋の奥から、ゆっくりと拍手を響かせながら、このデスゲームの主催者が再び姿を現した。
「素晴らしい! あの絶望的な状況からの見事な逆転劇だ。約束しよう。お前たち親子の借金はすべて、このクズ親三人とその娘たちに背負わせるとな」
絶対的な権力者の宣告に、男たちはついに言葉を失い、その場にへたり込んだ。
自分たちが私を確実に殺すために張った『トリプルオープンリーチ』という絶対的な罠。
それがそのまま、自分たちを『同点最下位』という逃げ場のない処刑台へと縛り付ける鎖になったのだ。
「約束通り、三人仲良く『同点最下位』の決定よ。おめでとう。これで私の父親の借金も、すべてあなた達のものになったわ」
「う、嘘よ……こんなの嘘よぉっ!」
「嫌ぁぁっ! 私は悪くない! お父さんがやれって言ったから!」
泣き叫び、頭を抱える三人の娘たち。
だが、私の反撃はこれだけでは終わらない。
彼女たちのその醜い結託を、根本から叩き潰すための『最後の一押し』が残っている。
「でも、あなた達のその『お行儀の良さ』には頭が下がるわ」
私は絶望の淵で泣き喚く彼女たちを見下ろし、悪魔のように微笑んだ。
「だって、あなた達はいつでも勝つことができたのに」




