第十話 透視
「ほら、早くその伏せた牌を見せなさいよ!」
「どうせノーテンでしょ!」
私を単独最下位に突き落とすため、彼女たちは獲物をいたぶるような笑みを浮かべて私を急かした。
背後のクズ親たちも「早く罰符を払え!」と騒ぎ立てている。
私はため息を一つこぼし、卓に伏せていた十三枚の牌を、端からゆっくりと表に返していった。
パタン、パタン、パタン。
小気味良い音が鳴り、伏せられていた手牌が明かされていくたびに、娘たちの薄ら笑いが少しずつ硬直していく。 そして、すべての牌が表を向いた。
「……テンパイ。役なし」
私が静かに宣言した瞬間、騒がしかった地下室の空気がピタリと凍りついた。
「「「……え!?」」」
開かれた私の十三枚。
そこには、萬子、筒子、索子のバラバラの順子と刻子が不格好に並び、そして――最後に一枚だけポツンと置かれた『白』が、単騎待ちとして鎮座していた。
アガリ役は一切ない。
だが、麻雀のルールにおける『テンパイ(あと一枚でアガリの形)』の条件は、間違いなく満たしている。
「な、なんで!? あなた、適当に引いて切ってただけじゃないの!?」
「手牌を一切見てなかったのに、どうやってテンパイさせたっていうのよ!」
「イカサマよ! 絶対にイカサマだわ!」
目を剥いて喚き散らす娘たちに、私は冷ややかな視線を向けた。
「そんなこと、一言も言ってないわ。……盲牌よ」
「盲牌……?」
「最初の十三枚はちゃんと見ていたし、引いてきた牌は指の腹で触れた瞬間にわかるわ。なにせ、一番ツルツルして判別しづらい『白』はすでに山になく、あなた達が抱え込んでいるって分かっていたんだから。他の牌を手探りで繋ぎ合わせるくらい、どうってことないわ」
「そ、そんな……」
「嘘よ! いくら盲牌ができても、あんな状況でテンパイするなんて……!」
信じられないというように首を振る彼女たちに、私は呆れたように肩をすくめた。
「だから、あなた達が自分で教えてくれたんでしょう?」
「……え?」
「あなた達がバカみたいに『オープンリーチ』をしてくれたおかげよ。通常なら、河と自分の手牌からしか推測できないはずの山の中身が、私には完全に『透視』できていたの」
四暗刻のトリプルリーチ。彼女たちが勝ち誇って晒した三十九枚の手牌によって、山に残っていない牌、そして絶対に危険な牌が完全に可視化されていたのだ。
「あなた達が晒した三十九枚の牌は、すべて『絶対に振り込むことのない安全牌』であり、『山にはもう絶対に残っていない牌の情報』でもあった。私は、あなた達の手にない牌だけを適当に繋ぎ合わせて、形だけのテンパイを作った。ただそれだけのことよ。流局を凌ぐだけなら、役なんて必要ないんだから」
つまり、この卓にいる四人全員がテンパイ。 全員テンパイならば、流局時の罰符の移動はゼロになる。
「チッ……! ま、まあいいわ!」
私のロジックにぐうの音も出なくなった娘の一人が、忌々しそうに舌打ちをして強がった。
「全員テンパイなら罰符の支払いはなし! 親も子の点数も動かないんだから、今回も引き分けね!」 「そうよ、次こそ絶対にぶっ潰してやるから……」
安堵し、逃げるように次のゲーム(三回戦)へ向かおうとする彼女たち。 しかし、私は氷の底から響くような声で、その甘い逃避を制止した。
「本当に、あなたたちの頭の中はお花畑ね」




