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第94話 試練の果てで、想定外の存在が待っていました

アイリス山の山頂を見上げられるキャンプ地。


魔王の部下たちは、

落ち着かない様子だった。


(よくないな)


ギルガオンは心の中で呟いた。


ヴァンパイアどもが因縁をつけてくれば、

こちらも叩ける。


そう思っていたのに、

あいつらは妙に静かだった。


そのせいで、

無駄な緊張だけがずっと続いている。


「失敗した場合は、

洞窟の入口付近で目を覚ますと言っていたな?」


ふいに魔王が、

何か引っかかるものでもあるような口調で言った。


「そのとおりです」


ヴァンパイア一族の男が答える。


「ギルガオン」


「はっ! 魔王様!」


ギルガオンは素早く返事をした。


ついに魔王様が、

あいつらに何か言うつもりなのだと確信する。


「今すぐ走れ。

洞窟の入口を押さえろ」


「最も信頼できるお前を行かせる」


「承知しました!」


するとヴァンパイアたちは、

一斉に騒ぎ始めた。


「そこは聖域です!」

「外部の者の立ち入りは禁止されています!」


バチバチッ!


その時だった。


まるで火山が噴き上がったみたいに、

アイリス山の山頂から色とりどりの光が溢れ出した。


◆◆◆


(……どういうこと?)


私は意識を取り戻した。


さっきまであった大きな天秤は、

もう消えている。


残っていたのは、

金色の大きな皿だけだった。


「エリン!

みんな!」


向こう側の皿の上で、

子どもたちが目を閉じたまま倒れていた。


私は慌てて、

そちらへ駆け寄った。


「みんな無事でよかった……」


ただ眠っているだけだった。


怪我はない。


どうしよう。


起こしたほうがいいのかしら?


コツ、コツ。


誰かが近づいてくる足音がした。


それと同時に、

周囲の空気が沈んだ気がした。


(誰?)


長い銀髪が、

腰のあたりまで流れている女。


背丈は私と同じくらい。


年の頃は、

四十代半ばから後半くらいに見えた。


壁画に描かれていた女だった。


(あの人が……真祖?)


私の前に、

ウィンドウが浮かぶ。


最初のヴァンパイア。

【真祖】


そこには、

未公開キャラクターという表示もあった。


彼女は設定だけ存在していて、

ゲームでは一度も実装されていなかったのだ。


「そう。

お前のおかげで封印から解き放たれた」


「感謝するよ。

我が娘」


真祖は、

赤い瞳で私を見つめながらそう言った。


(我が娘……?)


どういう意味?


「神々がかけた封印が、

ついに解けたのだ」


「エル・ギオルは、

本来――私を閉じ込めていた封印を解くための試練だった」


「どうして封印なんて……?」


「神々に挑み、

敗れたからだ」


「その代償として、

魂を封じられた」


「だが――封印さえ解ければ」


真祖の体が、

一瞬で私の目の前まで迫る。


「こうして、再び蘇れる」


動きが見えなかった。


本当に――


強い。


「連中は、

誰一人この試練を越えられないと高を括っていたのだろう」


「だが結局、

こうして私は復活した」


真祖は、

ひどく機嫌がよさそうだった。


「でも、

前にエル・ギオルを通過した者がいると聞きましたけど?」


私が尋ねると、

真祖は少し考えるような顔をしたあとで答えた。


「遥か昔に一人だけいた」


「試練も受けず、

通過したふりだけした者がな」


「そのせいで、

その後は挑戦者自体がいなくなった」


「事実上、

エル・ギオルは行われなくなっていたのだ」


「なるほど……」


「だから私は考えた」


「考えた?」


「ふさわしい挑戦者がいないのなら、

我が娘を直接エル・ギオルへ送るべきだと」


「あの子なら、

きっと越えられると思っていたからな」


「どういう意味ですか?」


「お前は、

私の力で作った娘だ」


「我が枝のようなもの」


「枝を切って新たな木を植えるように、

私の一部を切り離して作った存在――それがお前だ」


(クローン?)


真祖が私の手を取った。


その瞬間――


映像のようなものが頭に流れ込んできた。


封印された真祖の魂から、

小さな粒がひとつ弾け飛ぶ。


それは、

ヴァンパイアの赤子となった。


その後、

聖なる山へ来ていた木こりたちに発見される。


純血のヴァンパイアだ。


そうして、

とても貴重な存在として扱われ。


やがて、

養子として迎えられた。


エステルに、

実の親の記憶がなかった理由。


それが、

ようやく分かった。


でも――


真祖のやり方には問題があった。


封印されたままの状態で作られたせいで、

エステルは不完全だったのだ。


だからこそ、

幼い頃から妙な行動を繰り返していた。


「お母様は、

あまりにも無責任です!」


事情を知った私は、

思わず真祖に向かって叫んだ。


(エステルがどうしてあそこまで里に尽くそうとしていたのか……その理由が分かった)


最初から、

刻み込まれていたのだ。


――ヴァンパイア一族のために尽くせ。


そんな制約を埋め込まれた、

人形みたいな存在。


「私は道具じゃありません」


その言葉に、

真祖の表情が固まった。


まさか私が、

こんな反応をすると思っていなかったのか。


私は今の状況を、

頭の中で急いで整理する。


(真祖が戻ってきたってことは……)


(ストーリーラインから排除されていた存在が、

今になって再び“ロード”されたってことよね?)


ゲームのシナリオ作家は、

序盤でかなり多くの設定を組んでいたのだろう。


そしてもし――


ゲーム難易度を調整するための

ジョーカーとして作られた存在が真祖なのだとしたら。


この人は、

とんでもなく厄介だ。


その時、

真祖が片手を持ち上げた。


するとその掌の上で、

青い炎がゆらめき始めた。


信じられないほど、

強い力が感じられる。


「過去に果たせなかったことを、

果たす時が来た」


「お前も私と共に来い」


「お前はもう、

エル・ギオルを越えた一族の長なのだから」


「果たせなかったこと……?」


「――あれだ」


真祖は、

向こうの壁画を指差した。


そこには、

無数の魔族と戦う様子が描かれていた。


激しい戦いだった。


「ケルベス一族の連中を、

一人残らず薙ぎ払う」


「そうですか。

ケルベスって……え?」


それは――


夫である魔王が属する一族の名だった。


真祖の爪が、

すっと長く伸びる。


ひとたび掠めれば、

何でも切り裂いてしまいそうな鋭さだった。


「どうしてですか?」


「魔王を名乗るあの一族を、

一人残らず殺し尽くし」


「ヴァンパイア一族の偉大さを示すのだ」


ヴァンパイア以外で、

強さを誇る魔族は認められない。


そんな態度だった。


「そんなこと、させません!」


私が叫ぶと、

真祖の目元がわずかに歪んだ。


「なぜだ?」


その問いに、

私が答えようとした時だった。


「ん……? 母上?」

「くぅ……」

「くぅ……」


子どもたちが目を覚ました。


薄く目を開けているけれど、

まだ意識ははっきりしていないみたい。


寝起きで、

状況が飲み込めていない。


そんな様子だった。


「それらは何だ?」


真祖が尋ねる。


「私の子どもたちです」


「……何だと?」


真祖は明らかに動揺していた。


子どもたち?


そう言いたげな顔だった。


「試練に、

なぜ子どもがいる?」


「はあ……」


私は呆れた顔で、

首を横に振った。


「お母様、

試練のこと何もご存じないんですね?」


「強さを証明する試練ではなかったのか?」


「私を封印した神々の話では、

予備段階として第一段階から第三段階まであり、

そのあと最後の試練があると聞いていたが」


「予備段階なんてありません!」


私は強く言い切った。


「そんなの、

ただ流れていっただけです!」


「『試練一、突破』だの

『試練二、突破』だの」


「そういう案内が流れただけでした!」


だって、

そのせいで私は何もせず、

ずっとここで待たされていたのだから。


「本当か?」


「本当です」


「じゃあ私がやらなかったら、

誰がやったっていうんですか?」


「何も知らないまま、

ここに拉致されたこの子たちがやったってことですか?」


「そんなわけないでしょう!」


「この子たちは、

私が帰ってくるのを待ちながら」


「馬車の中で、

おとなしく眠っていただけの子たちなんですよ!」


その瞬間。


エリンと双子が、

ぴくっとした気がしたけれど――


きっと、

気のせいよね?

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