第93話 真の試練は、私に選択を迫ってきました
*試練三、突破。歴代記録を更新。
「ふあぁ……」
私はぐっと伸びをして、体を起こした。
今回は、
かなり時間がかかった。
壁にもたれているのが退屈で、
途中から楽な姿勢で横になったりもしたし。
眠って、
また目を覚ましたりもした。
それどころか――
いち、に。
いち、に。
ラジオ体操までやった。
それだけ長く待ったのに。
また
“歴代記録を更新”と言ってくる。
やっぱり――
これは自動音声だ。
たぶんプログラムの開発者が、
適当なタイマーを設定して、
同じ文句を繰り返すように
してあるのだろう
その時だった――
ブゥゥン!
白い板の上から、
青い光が噴き上がった。
その光は、
すぐにうごめき始めて。
やがて――
液体みたいに形を変えた。
そして――
人の姿を作り始めた。
いったい、
何なのかしら。
*予備段階、終了。真の試練を開始します。
私は一瞬、思った。
また待つの?
でも――
今回は違った。
◆◆◆
「あ……疲れた」
エリンが、
その場にどさりと座り込んだ。
「きゃああ?」
「きゃあ?」
大丈夫?
双子が慌てて問いかける。
「はい。なんとか勝てました」
エリンが額の汗をぬぐった。
その前には――
倒れた騎士。
鎧の中は、
空っぽだった。
霊体で動く存在だったのだ。
(最後のあの技がなければ、危なかったです)
(母上が見せてくれた、あれです)
ずっと押されていた状況。
エリンは、
最後に賭けに出た。
父上の“パリング”に対して。
母上が使った、
あの刺突。
それを使って――
ついに、
亡霊騎士を倒したのだ。
「くぅぅ……」
「きゃあ……」
双子が、
今回の遊びは大変すぎる!
とでも言いたげに身ぶりをした。
「では、行きましょう」
エリンが立ち上がると、
双子もあとに続いた。
もう――
本当にすぐそこだ。
あと少し行けば、
母上がいる。
「こっそり行って、
母上が何をしているのか見るんです」
「いいですね?」
こくこく。
双子がうなずいた。
ここからが本番だ。
見つからなければ――
ママ探しの遊びは成功。
その瞬間――
ヒュルッ!
「!」
どこかから飛んできた、
金色の輪。
それが一瞬で――
エリンと双子に絡みつき、
そのまま拘束した。
◆◆◆
「はぁっ……これ、何よ?」
炎の魔人。
それに似た――
人の形をした液体。
「あなたは、何のためにここへ来たのですか?」
「試練を通って、一族の長になりたいです」
「真祖の試練を受けに来た者ですね」
「ですが、最後の試練は決して容易ではありません」
「受け入れますか?」
「はい!」
私が叫ぶと――
きらり。
金色の輪が現れた。
フラフープくらいの大きさ。
それが、
私の前に落ちてきた。
私は思わず、
それを拾い上げた。
(何、これ?)
中は空洞で、
ひどく軽い。
ビリッ!
その瞬間――
まるで電気が走ったみたいに、
手が痺れた。
私は反射的に、
それを落とした。
(何なのよ、これ……)
ふわり――
白い板の上に、
巨大な天秤が現れた。
とてつもなく大きい。
さっき私が落とした輪が、
片方の皿に載った。
すると――
そちらへ少しだけ、
天秤が傾いた。
「これが試練なんですか?」
「あれの名は――
等価交換の天秤」
「等価交換……?」
「あちらの重さと、
あなたの身体の一部を交換するのです」
「天秤が釣り合うか――」
「あるいは、
あなた側がより重くなれば、試練は通過です」
「……はい?」
その瞬間――
ここについて聞いていた話が、
脳裏をよぎった。
失敗した者たちは、
体が無事ではなかった。
まさか――
「決めるのが難しければ、
こちらで選びましょう」
「まずは――左腕から」
バキッ。
その瞬間――
左腕の感覚が消えた。
肩から下が、
完全に壊れたみたいだった。
ついてはいるのに――
まるで使えない。
(天秤は……?)
私は顔を上げた。
でも――
ほとんど変わっていなかった。
まだ――
子どもたちのほうが重い。
「もしかして……」
「試練を通れなければ――どうなるんですか?」
腕を一本失えば、
子どもたちは戻ってくるんでしょう?
そうよね?
「子どもたちを生かす方法は一つ」
「天秤が釣り合うか――」
「あなた側がより重くなった時だけです」
「……そんなの、嘘でしょう……」
「時間をかけるのは好みません」
「では次は――右脚です」
パチン。
「きゃあっ!」
体がぐらりと傾いて、
私は床に倒れ込んだ。
左腕。
そして――
右脚まで。
力が抜けた。
(天秤は……?)
私は震える目で、
天秤を見た。
でも――
少し。
本当に少しだけ。
あまりにも足りない。
「これで分かったでしょう?」
「諦めなさい」
「この試練は、通れません」
「普通は腕一本で諦めます」
「あなたは、長く持ちこたえるほうですね」
私は――
歯を食いしばった。
そして――
這い始めた。
まだ――
右腕と左脚は動く。
今、行かなきゃ。
「何をしているのです?」
彼の声が聞こえた。
「くぅ……っ」
片腕、片脚。
まともに使えないだけで、
こんなにもきついなんて。
私は――
魔王にもらった剣を
杖代わりにして。
どうにか体を引きずった。
そして――
がしっ。
天秤の上へ、
自分の体を押し込んだ。
「私の全部を載せます」
「だから――」
「子どもたちは返してください!」
腕でも、
脚でもない。
私自身、
その全部。
それを――
代価として載せた。
ゆらり。
その瞬間――
天秤が動いた。
均衡。
釣り合った。
ジイィン――
光が、
天秤を包み始めた。




