表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/151

第92話 影の試練の先で、息子は亡霊騎士と向き合いました

*試練一、突破。歴代記録を更新。


「びっくりしたわ」


私は顔を上げた。


何もしていないのに、

もう第一段階を突破?


しかも、歴代記録?


おそらく――


あらかじめ用意された

演出なのでしょうね。


私はしばらく、

洞窟の壁にもたれたまま時間をやり過ごした。


何も起こらないまま、

だんだん退屈になってきた頃――


次の案内が流れた。


*試練第二段階、発動。開始します。今回は影の試練。


(影……?)


(いやだわ……お化けとか出てこないでしょうね?)


私は昔から、

そういうのが苦手だった。


警戒しながら、

周囲を見回す。


(……静かね?)


今回も、

そのまま進むのかしら。


それでも――


気を抜くことはできない。


壁に背を預けながら、

何かが現れないかと警戒を続ける。


そして、ふと――


また子どもたちのことを思い出した。


(あの子たち、馬車の中でちゃんと休んでいるわよね。警備もいるし、大丈夫よね)


こんな時でも――


やっぱり心配になるのは、

あの子たちのことだった。


◆◆◆


エリンと双子は、

そのまま奥へ進んだ。


「母上は、もうすぐです」


「あと少しで着きます」


気配が、近づいている。


「ですが……ここ、少し妙ですね」


「音が遮断されているようです」


「きゃあ?」

「きゃ?」


双子が手を振る。


じゃあ、喋っていいの?


そういう意味だった。


「騒ぎすぎなければ大丈夫です」


「ただ、もう少し進むと――」


その時。


声が響いた。


*試練第二段階、発動。開始します。今回は影の試練。


「影の試練……」


エリンの表情が引き締まる。


「ゴーレムの次です」


「さっきより難しい相手が来ると見ていいでしょう」


三人は、

周囲を警戒する。


スゥ……。


「……何ですか、あれ」


黒い球体。


それが――


一つ、また一つと、


目の前に現れ始めた。


(暗黒物質……!)


エリンの目が鋭く光った。


書庫で読んだことがある。


古代に存在したとされる物質。


「きゃあ……」

「くぅ……」


双子が、

エリンの背中にぴったりと張りついて、震え始めた。


なにか変なのが出てきた。

こわい――


そんな反応だった。


「……危なかったですね」


エリンが低く言う。


「正体を知らなければ、

あっさりやられていたでしょう」


暗黒物質が厄介な理由。


それは――


正体を知られていないことが多いからだ。


「普段の攻撃魔法は通用しません」


「きゃあっ」

「くぅっ」


双子が慌てる。


じゃあどうするの?

そう言いたげだった。


ふっと。


エリンの口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「ですが――正体が分かっているなら」


「さっきのゴーレムより、

むしろ簡単に対処できます」


「弱点を知っていますから」


弱点、という言葉に


双子の耳がぴくりと動いた。


なにそれ?


そんな顔で、

エリンの周りをくるくる飛び回る。


「構成している元素を、

揺らせばいいんです」


その瞬間――


暗黒物質が、

エリンへ向かって一斉に襲いかかる。


弱点を見抜かれたと悟ったのだ。


「――消えろ!」


エリンの手から、光が放たれる。


暗黒物質の構成元素だけを揺さぶるための魔法。


(もし怖がって、

通常の攻撃魔法を乱発していたら――)


(むしろ、暗黒物質を強化していたでしょう)


(母上の言う通り、

幅広く学んでおいて正解でした)


一つだけに偏っていたら、

気づけなかったかもしれない。


エリンは魔導書だけでなく、

古代記録まで読み込んでいた。


だから――


この場を切り抜けられる。


バチッ!


放たれた光が、

暗黒物質に触れる。


すると――


その表面に、

ひびが走った。


「これで終わりです!」


エリンの手から、

太陽のような光が溢れ出す。


その瞬間――


地中から湧き出ていた暗黒物質が、

一斉に消滅した。


「きゃあ!」

「きゃはは!」


双子がすぐに、

勝利のダンスを始める。


「……倒したのは僕なんですが?」


エリンが呆れたように言う。


しかし双子は、


前に言ったことを覚えている、と言わんばかりに

身振りで抗議した。


ぼくたち、チームでしょ?


つまり――


エリンの勝利は、

自分たちの勝利でもある、ということだ。


「……分かりましたよ」


エリンが頷く。


すると双子は、

左右からぴったりとくっついた。


いっしょに! いっしょに!


ダンスのお誘いだった。


「嫌です」


エリンは即答した。


あんな恥ずかしい踊りは、

絶対にやりたくない。


ゴーレムや暗黒物質と戦う方が、

よほど楽だった。


◆◆◆


*試練二、突破。歴代記録を更新。


「終わったのね?」


私は顔を上げた。


幽霊でも出るかと身構えていたけれど、

何事もなく終わったみたい。


あまりにも暇で、

私はその場で軽く身体を動かしていた。


このまま全部、

待っているだけで終わるのかしら――


そう思った、その時。


*試練第三段階、発動。開始します。亡霊騎士の試練。


「亡霊騎士……?」


私はレイピアを握り直した。


けれど――


「……何も起きないじゃない」


今回も、

そのまま通過するのかしら。


私は剣を横に置き、

洞窟の壁に背を預けた。


早く終わらせて、

あの子たちのところに戻りたい。


少し、気が緩む。


そして――


すう……すう……


眠気が押し寄せてきた。


私はそのまま、

眠りに落ちた。


◆◆◆


「もうすぐです。母上はすぐそこにいます」


エリンの言葉に、

双子の顔がぱっと明るくなる。


だが――


その時。


*試練第三段階、発動。開始します。亡霊騎士の試練。


(……っ)


エリンの表情が引き締まる。


亡霊騎士。


「下がってください!」


エリンは双子を連れて、

素早く後方へ跳ぶ。


銀の鎧をまとった騎士が現れた。


その全身から、

濃密な闘気が溢れている。


(生者ではない)


(遥か昔に死んだ存在……)


エリンには想像もつかないような、

古代の魔法だった。


今回の試練は――


相当厳しい。


「きゃあ……」

「くぅ……」


双子も、

その気配に圧されている。


(逃げるわけにはいきません)


エリンは拳を握った。


その瞬間――


ヒュン。


亡霊騎士が、

一本の剣をエリンの前へ投げた。


「これは……?」


まだウムカウテ段階のエリンには、

やや重い剣。


だが――


選択の余地はない。


「二人とも、前に出ないでください」


「きゃあ?」

「きゃ?」


いっしょに戦う!


双子はそう訴える。


だがエリンは、

静かに首を振った。


「この相手は――

僕と一対一を望んでいます」


「受けて立ちます」


本能で見抜かれている。


エリンの実力を。


エリンは歩み寄り、

剣を手に取った。


「純粋な剣術で、ということですね」


亡霊騎士が、

ゆっくりと頷いた。


(父上の剣)


そして――


(母上の剣)


訓練で見た、父の剣は

圧倒的で、覇道そのものだった。


対して――


母の剣は、

あまりにも異質だった。


防御を捨て、

攻撃だけに特化したような動き。


だが――


もし十分な魔力が乗れば、


父でさえ、

簡単には受けきれないかもしれない。


エリンの目が、

さらに鋭くなる。


父の剣。


母の剣。


その二つを――


今、重ねる。


「きゃ?」

「くぅ?」


双子が目を丸くする。


いつの間に、こんな技を?


まさか――


あの時の稽古を見て、

覚えたのか?


「――行きます!」


剣を構えたエリンが、


銀の騎士へと

一直線に踏み込んだ。


その姿は――


まるで強敵へ挑む、

一人の勇者のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ