第91話 母を追った子どもたちは、刺客を見つけました
パチッ。
光が弾け、
子どもたちが姿を現した。
魔法陣による転移。
誰にも気づかれず、
洞窟の近くまで来ていた。
「しっ。静かにしてください」
エリンの声に、
双子が慌てて口を押さえる。
危うく騒ぐところだった。
そうだ。
今は――
ママ探しの遊びの最中。
見つかったら終わり。
普段は騒がしい双子も、
今は真剣だった。
「もう少しで着きます」
母上と父上の痕跡がある。
この道を進み、
母上だけが先へ行き、
父上は引き返したようだ。
助かった。
あまり早く追いつけば、
鉢合わせになっていた。
それでは――
遊びは終わりです。
(ん? あれは……)
エリンと双子は、
岩陰からそっと覗いた。
洞窟の周囲。
黒い覆面の男たちが潜んでいる。
さらに近づき――
会話を聞いた。
「失敗したら入口付近で目覚めるらしいな」
「失敗すれば、身体のどこかに異常が残るらしいな」
「殺せ、という依頼だ」
「領地を奪われた件、まだ根に持ってるのか」
「だが……魔王妃だぞ?」
「試練失敗に見せかければ問題ない」
――その瞬間。
エリンと双子の目が光った。
母上を狙う敵。
「生かしてはおけません」
「こお」
「こお」
即決処刑。
――だが。
「……いえ、殺してはいけません」
双子が、え?という顔で足踏みする。
「指示した者を捕まえる必要があります」
「生かしておくことが証拠になります」
下を潰しても意味がない。
上を捕まえるためには、
生存が必要。
双子は、こくこく頷いた。
「では、どうするか」
静かに。
確実に。
一撃で。
エリンの視線が、
積もった雪へ向く。
「雪合戦、もう一度やりましょう」
双子が嬉しそうに跳ねた。
雪を握る。
圧縮。
風で加速。
――まるでダイヤモンドみたいに硬い。
そこへ速度を乗せれば、
一撃で気絶させられる。
エリンも準備を整える。
魔力を込めた雪弾。
殺さない。
だが――
痛みは保証する。
さらり。
その周囲に、
無数の雪球が浮かび上がる。
圧倒的。
双子の目が丸くなる。
もしこれを使っていたら、
あの時の勝負は一瞬で終わっていた。
エリンが指先を向ける。
「行きます――スノウ・マジックボール」
一斉射撃。
ヒュンッ!
双子も負けじと投げる。
正直――
双子の攻撃で気絶した方が、
まだ幸せだっただろう。
エリンの一撃は、
それ以上に重い。
戦闘は一瞬で終わった。
「行きましょう」
エリンはすぐ動く。
全員の生存を確認。
魔力の縄で拘束。
さらに――
エリンは魔力で小さな札を作り、
会話を記録した魔石を括りつけた。
それを男たちの首に掛ける。
これで、
こいつらが見つかった時、
会話の内容ごと証拠になる。
そのまま洞窟へ入る。
深い闇。
「思った以上に暗いですね」
「きゃあ」
「くぅ」
双子が体を揺らす。
違和感。
「……? 目が……」
赤く染まっていく。
エリンも同じだった。
「なるほど」
「ここはヴァンパイアでなければ通れない構造ですね」
単なる暗闇ではない。
特別な効果。
血統が鍵。
「母上の血を引いているおかげですね」
視界が開ける。
松明は不要。
「母上が好みそうな場所ですね」
双子が頷く。
そう。
ここ、好き。
そんな反応だった。
「行きましょう」
痕跡を追う。
静かに。
慎重に。
見つからないように。
くすくす。
双子は楽しそうだった。
ママ探しの遊び。
本当に楽しい。
だが――
すぐに問題が起きた。
「きゃあ」
「きゃっ」
分岐。
二つの道。
どちらだ?
双子がエリンを見る。
「……」
エリンは考える。
両方から、
母上の気配。
しかも――
どちらも奥の方。
「なるほど」
手を打つ。
双子が詰め寄る。
エリンは地面に図を描いた。
「ここで分岐しても、
先で合流している可能性があります」
だから、両方から感じる。
その仮説。
「ですが――」
なぜ分ける必要がある?
双子が服を引く。
早く。
行こう。
「……少し待ってください」
「先ほどの仮説は撤回します」
「これは試練の一部の可能性があります」
何度せかしても、
エリンは動かない。
すると――
双子が目を合わせた。
次の瞬間。
ダッ!
「待ってください!」
「もう……!」
追いかける。
ベビーカーを持ってこなかったのは失敗だった。
双子が向かったのは――
左の洞窟だった。
◆◆◆
私は、
丸い白い板を見つめた。
宙に浮かんでいる様子が、
なんとも不思議だった。
以前の炎の魔人みたいに、
炎でも上がるのかしら?
(うーん……あれ?)
でも――
いくら待っても、反応がない。
私は少し近づいて、
軽く叩いてみた。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
何か反応があってこそ、
次の段階に進めるはずなのに、
静まり返っている。
(ここじゃないのかしら?)
分かれ道で、
左に行くべきだった?
その時――
ようやく反応があった。
*試練第一段階、発動。開始します。最初は大地の試練。
独特な声だった。
私は身構えながら、
周囲を見渡した。
念のため、
魔王にもらった剣にも手をかける。
けれど――
(あら……?)
始まると言ったのに、
何も起こらない。
「試練進行中……なの?」
「何もしていないのだけど?」
私は手を軽く打った。
「……ああ、そういうことね」
ようやく理解した。
そもそも、ここは
正式なゲームのプレイ領域じゃない。
「じっとしていれば
そのまま進む仕組みなのかしら?」
私は、そのまま
次の段階に進むのを待つことにした。
(あの子たち、馬車の中でちゃんと休んでいるわよね。警備もいるし、大丈夫よね)
馬車の中で、
ぐっすりしているはず。
厳重な警備もあるし、
問題はないわよね。
◆◆◆
*試練第一段階、発動。開始します。最初は大地の試練。
妙な声が響いた。
エリンと双子が、
前を見た。
ゴゴゴ……!
「……あれは?」
エリンの目が見開かれる。
さっき飛び出して、エリンに両脇を抱えられていた双子も、
顔を上げてそちらを見た。
「……ゴーレムですね」
エリンの瞳が鋭くなる。
魔法で作られた戦闘兵器。
厄介な相手だ。
「二人とも、後ろにいてください」
「僕がやります」
エリンはそう言って、
双子を下ろした。
だが――
双子は首を振る。
自分たちも戦う、という意思表示だった。
「……分かりました」
エリンはすぐに思考を切り替える。
ゴーレムの弱点。
体内にあるコア。
そこを破壊すればいい。
「僕が位置を示します」
「そこをエアスピアで狙ってください」
双子が頷いた。
エリンの視線が鋭く走る。
魔力の流れ。
その中心。
「――あそこです!」
接近される前に決める。
近距離は危険。
パチッ!
エリンの放った赤い点が、
標的となった。
双子は手を取り合い、
くるくると回り始める。
風の槍。
エアスピア。
シュッ!
放たれた一撃が、
ゴーレムのコアを貫いた。
しかし――
数が多すぎる。
地面から次々と湧き上がる。
「きゃあ!」
「きゃあ!」
双子が悲鳴を上げる。
それでも――
エリンが続けろと言うと、
渋々ながら、
攻撃を続けた。
そして――
十数分後。
「……終わった?」
ついに、
すべてのゴーレムが崩れ落ちた。
「きゃあ……」
「くぅ……」
いつもなら踊る双子が、
疲れ切って
その場に倒れ込む。
その時――
声が響いた。
*試練一、突破。歴代記録を更新。
「終わったみたいですね」
「では、行きましょう」
エリンが促す。
だが双子は――
まだ休みたい、と体で訴える。
「……母上に会いたくないんですか?」
――ぴくっ。
そうだ。
早く会いたい。
双子は一気に元気を取り戻した。




