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第84話 私を傀儡にする計画、すべて知ってしまいました

まさか。


魔王が外され、

私がラスボスになった理由が――


「魔王様を排除し、

魔王妃様をその座に据えるのが目的です」


私を傀儡にする。


(昔の私だったら……)


きっとヴァンパイア一族の言いなりになる、

操り人形も同然だっただろう。


それは事実上――


ヴァンパイア一族が、

魔王の座を簒奪するのと変わらなかった。


おそらく、それが

本来のゲームシナリオの流れだったのだ。


物語の大きな筋は、

今もなおそのまま進んでいる。


「お前たちの得は?」


ヴァンパイア側の利は分かった。


だとしたら――


ライカン・スロープ側の利は何なのか。


それが気になった。


「これです」


マハトラが、

小さな瓶を一つ取り出してテーブルの上に置いた。


それを見た瞬間、

私は直感で悟った。


「魔王の魔力?」


いつ持ち出したの?


ちゃんと帳簿まで作ったのに。


でも――


本気で横流しするつもりなら、

どうにかして抜け道を作るものらしい。


「結局のところ、どれだけ仕組みを作っても、

それを扱う者たちがその重要性を理解していなければ意味がありません」


「皆、これがどれほど大事なものか分かっていないのです」


「本当に、魔王妃様の先見の明には感服いたします」


「それで?」


私は短く促した。


続けろ、という意味だ。


「まず魔力の性質を分析し終えれば、

次の段階は魔王様の封印です」


「死んでもいない、生きてもいない仮死状態にして、

根源魔法を引き抜くのですよ」


「最強の魔族を作る計画の一環です」


「こいつら……」


瞬間、怒りが込み上げた。


魔王を――


生体実験の材料にするつもりだった。


「もしかして、それを主導してるのはお前なの?」


「最強の魔族を作る計画に限って言えば……その通りです」


マハトラは淡々としていた。


「魔族が持つ優れた能力」


「それを集め、最強の魔族を作り上げること」


「その中でも、最強の一族と呼ばれる

魔王一族の魔力は、まさに至宝です」


「魔王の座など、私にはどうでもいいのです」


「そんなもの、ヴァンパイア一族が持っていこうと構いません」


あの一族が抱える、

“強い力”への執着。


執念深い、なんて言葉でも足りなかった。


「絶対に、そんなことにはさせない」


私の声が、冷たく沈んだ。


子どもたちには父親が必要だった。


そして――


それは私にとっても同じだ。


私は彼と、

この先もずっと一緒にいると決めたのだから。


「極秘事項なのでしょう?」


「それを、どうして私に話すの?」


私はもう一度、冷静さを取り戻した。


今ここでそれを明かすというのは――


一族を裏切って、

こちら側につくも同然ということだ。


その理由が知りたかった。


「一族の大いなる夢を叶えるためです」


「大いなる夢?」


「最強の魔族。それを言ってるのよね?」


「もし今の私の行いを裏切りだとお思いなら、

それは誤解です」


「私は昔も今も、終始一貫しております」


「一貫してるっていうのは認めるわ」


「本当に認める」


「すごく認める」


私は親指を立ててみせた。


嫌味ではなく、本気だった。


この一点に関してだけは、

マハトラは宗教じみているほど盲目的だった。


「それに、先覚者たるエステル様の邪魔をする者は

排除しなければなりませんので」


「先覚者?」


いい意味で呼ばれているのは分かるけれど。


「そもそも魔王城を掌握しようとした理由の一つが、

ライカン・スロープ流の教育で

魔王様のお子たちを強く育てるためでした」


「ですが、私が見る限り

その必要はまったくありません」


「むしろエステル様は、

心底嫌がられるでしょうね」


「当然でしょ」


「子どもたちを壊してどうするのよ」


マハトラの基準からすれば、

私はこれまでにない方法で

子どもたちを最強の魔族へ育てている存在だった。


そんな中で――


ヴァンパイアとライカン・スロープの連合が

魔王城へ介入してくれば、


むしろマハトラの理想の絵図は壊れる。


「ねえ」


「お前、その連中を説得できないの?」


――交渉で、

計画そのものを潰せないか。


そういう意味だった。


「話しても理解してもらえそうにありませんので、

軽々しく口にはできませんね」


マハトラも、

とっくに何度も考えたのだろう。


こいつがここまで言うなら――


本当に言葉ではどうにもならないのだ。


私はその態度を見て、

一つの答えに思い至った。


(それが元々の設定だから、よね)


私の介入による因果の変化は、

私に近いほど、

そして私が起こした出来事と関係が深いほど大きくなる。


逆に――


私から遠い者たちは、

もともとの物語通りに流れやすい。


だからこそ、

マハトラがいくら頭を悩ませて

彼らを説得しようとしても――


埒が明かない。


それがこの世界に組み込まれた、

本来の運命だから。


「どうなさるおつもりですか?」


「叩き潰すわ」


「ヴァンパイア一族と完全に敵対することになりますが」


「それはお前も同じじゃない?」


情報を流したと分かれば、

マハトラもまた一族から憎まれるしかない。


長老の座を追われるかもしれないし、

村から追放されるかもしれない。


今のこいつは――


私と同じ舟に乗った身だ。


「知っていることを全部話して」


「今どこまで進んでいるのかも、

これからどう動く予定なのかも」


その後、私は

マハトラから細かな計画を聞き出すことができた。


「うーん」


聞けば聞くほど――


ライカン・スロープだけではなく、

面倒な難関がもう一つあった。


「魔王の一族……」


「魔王の親族たち……」


いわゆる――


夫の実家側。


今回の件が表に出れば、

その事実を口実にして

向こうは必ず私を攻撃してくるという。


格好の難癖になるのだから、

見逃すはずがない。


それがマハトラの読みだった。


おそらく――


その読みは当たっている。


私の一族が魔王へ刃を向けた以上、

私もその責任から完全に自由ではいられない。


(義実家側、ね……)


(どんな連中なのかしら)


魔王自身も、

あまり彼らの話はしなかったし、

私も深く気にしてこなかった。


そもそも、会ったことすらなかったのだから。


(うーん。いずれは会わなきゃいけないのに……)


(はあ。本当に楽なことなんて一つもないわね)


その時になって初めて分かった。


私が今まで、

どれほど魔王に守られて楽に生きてきたのかを。


とにかく――


義実家側にエリンを“認めさせる”必要がある。


そうしなければ、

この先エリンが正統な魔王として玉座に就くことはできない。


「ヴァンパイア一族は、

魔王に刃を向けたことを後悔することになるわ」


「いいえ」


「私が、後悔させてあげる」


以前、使節団が来た時に

少し痛い目は見せた。


でも、どうやらそれでは足りなかったらしい。


なら今度は――


本当に、徹底的に見せつけるしかない。


これでもかというほど。


周りから見れば、

冷たすぎる、残酷すぎると思われるくらいに。


そうしてこそ――


魔王の一族も、

ヴァンパイア一族の反逆を口実にして

私を責めることができなくなる。


「魔王妃様のご決意を聞いて、安心いたしました」


「では私も、それなりの実績を示さなければなりませんので、

こちらはライカン・スロープの研究所へ流すことにいたしましょう」


マハトラが、

魔王の魔力が入った瓶を持ち上げた。


「これを送ることで、

私の無能さを責め立てる者たちの口を塞げます」


「今回も送れなければ、

色々と文句が出てくるでしょうから」


つまり――


マハトラを引きずり下ろしたい連中に、

隙を与えるわけにはいかないということだ。


「そうしなさい」


「ただし、研究結果と進捗は

定期的に私へ報告すること」


魔力は渡す。


その代わり――


研究の過程は私が監視できるようにする。


「科学的研究に対して、

偏見をお持ちでないのですね」


「やはり先覚者です」


「他の魔族たちは、こういうものをひどく色眼鏡で見ますから」


「魔王と私の子どもたちの役に立つなら、

嫌がる理由なんてないわ」


「十分、役に立つでしょう」


マハトラをこちら側へ引き込んだことで、

連中の研究成果までも手に入れられるようになった。


ひとまず――


その線で、私たちは手を打った。


そして――


次は魔王と話し合わなければならない。


彼と一緒に頭を突き合わせて、

この難局を乗り越えていかなければならないのだ。


魔王のキャラクター設定から、

“削除予定”という項目が消える、その日まで。


「ありがとうございます。魔王妃様」


「最後に、もう一つだけお願いがございます」


マハトラが急に、

妙な頼みを口にした。


「分かったわ」


大した頼みではなかった。


それに――


聞き入れなければ、

この部屋から帰ってくれそうになかったからだ。


さっ。


マハトラがエアカーテンを解いた。


遮断が消える。


「ここで私と交わした話は、

絶対に外へ漏らさないように。いいわね?」


「承知いたしました、魔王妃様」


「命に代えても守り抜きます」


私は彼に、

沈黙を守るよう命じた。


マハトラは右手を下げ、

深く腰を折って礼をする。


さっき、こいつが頼んできたのは――


秘密保持の誓約をさせてほしい、という願いだった。


こちらとしても、

断る理由はなかった。


「じゃあ、私は魔王のところへ行くわ」


「はい。お願いいたします」


私は魔王の執務室へ向かった。


敵は、もう動いている。


ここから先は――


時間との勝負だ。


このあと始まる、

魔王と私の対話は――


きっと未来を変える、大きな出来事になる。

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