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第81話 母が作った遊びを、一度で理解した息子の話

私は前もって用意しておいたボードゲームを取り出した。


「これは何ですか?」


エリンが近づいてくる。


私の知識を活かして、

オセロに似たルールで作った遊びだった。


ひとまず――


家族で試す。


よさそうなら、

魔族式ボードゲームとして発展させて広めるつもりだ。


黒い石と白い石が、

盤の上にきちんと並んでいた。


「簡単な遊びよ」


私は余裕たっぷりに、

石を一つつまみ上げた。


「間に挟んで、ひっくり返していくだけ」


「分かりました」


私がルールを説明すると、エリンはこくりと頷いた。


◆◆◆


一局目はあっという間に終わった。


最後の石を私が置くと――


ぱち。


小さな音と共に、

盤面のほとんどが白に染まった。


「どう?」


私は少し得意げに尋ねた。


こう見えても――


オセロで私に勝てる人は、ほとんどいなかった。


大会に出てみたらと言われたこともあるくらいなのだから。


「面白いです!」


エリンが素直に笑った。


そして――


「先攻だからといって、必ず有利なわけじゃないんですね」


「終盤の形で決まるところが、より面白いです」


私は少し驚いた。


(……これ、一回やっただけでもうそこを掴むの?)


やっぱり――


エリンは天才だ。


「もう一回やる?」


二局目。


エリンが先に置いた。


ぱち。


私は軽く応じる。


ぱち。


(なかなか上手いわね)


最初はその程度だった。


子どもらしからぬ理解の早さだと、

そう思っただけだった。


何手か進んだ。


私は少しだけ、

盤面に集中する。


そして――


ある瞬間。


手が止まった。


「……え?」


おかしい。


確かに――


私が有利な流れのはずだった。


なのに――


ぱち。


エリンが石を一つ置いた瞬間――


盤面がひっくり返った。


一気に。


石が続けて裏返っていく。


一つ。


二つ。


三つ。


私は目を瞬かせた。


(え?)


そして――


もう一度。


(え?)


最後には――


本当に声が口から飛び出した。


「え???」


そうして――


対局は終わった。


完敗。


私は少しの間、黙り込んだ。


それから――


受け入れた。


負けた。


「……もう一局」


今度は――


油断しない。


本気でいく。


私は黒石を持った。


だが――


今度は、


終わるのがもっと早かった。


「母上がわざと手加減してくださったおかげで勝てました」


エリンが微笑む。


(絶対……違うんだけど?)


エリンは静かに盤面を指した。


「最初にここ、覚えていますか?」


エリンが示したのは――


序盤の一手。


「ここで母上、こう置きましたよね」


エリンは同じ場所に石を置いてみせた。


「これは僕が一番やりやすい形に繋がる手なんです」


「……そうなの?」


私は何でもないふりで頷いた。


「本当は、ここで止めるべきでした」


エリンが隣のマスを指す。


「こっちに来られると、

僕の選択肢が減るんです」


「……そうなのね」


表向きは平然と。


けれど――


中身はどんどん冷えていく。


(そんなのあった?)


(しかも……それを全部覚えてるの?)


エリンは止まらなかった。


「それから、ここです」


中盤。


「この時、僕は少し危なかったんです」


「……危なかった?」


「はい」


彼が別のマスを指す。


「ここに置かれていたら――

僕は角を取れません」


「……角?」


「はい。そうなると終盤はほとんど勝てません」


私は口元を引きつらせた。


「でも、母上は――」


とん。


最初の位置を軽く叩く。


「ここに置きました」


「……うん」


「おかげで僕はすぐに繋げられて――」


エリンは何手かを素早く再現した。


石が次々と裏返る。


盤面が完全に変わる。


「こうやって抜け出せたんです」


「……あ」


短い声が漏れた。


「最後もそうです」


ほとんど終盤の場所だった。


「ここで母上はこう置きましたけど――」


「……」


「ここは、僕が一番欲しかった場所です」


「……そう」


「もしこっちだったら――」


別の手を示す。


「僕はかなり困っていました」


「……そうだったのね」


「ですから」


エリンが私を見る。


柔らかな顔のまま。


「母上がわざと手加減してくださったおかげで勝てたんです」


(……いや、違うんだけど?)


「本当は母上が簡単に僕を倒せる場面が

何回かあったのに――」


「そこを避けて置いていましたから」


(違うわよ、それを知らなくて置けなかっただけなんだけど……?)


その時、横で――


魔王が低く呟いた。


「……なるほど」


しかも相槌まで打った。


「違います!」


私は慌てて首を振った。


説明しようとして――


止まる。


説明できない。


なぜなら――


私はエリンみたいに、

あれを全部覚えて言葉にできない。


そして――


私の経験が言っている。


これは――


レベル差だ。


プロとアマの。


「あなたもやってみてください」


私はすぐ、

盤を魔王に渡した。


「ほう。面白いな」


魔王が盤面を見下ろす。


すぐに――


集中した。


しばらくして――


(おお……)


私は心の中で感心した。


(魔王も頭がいい!)


やっぱり――


指導者は違う。


エリン対魔王。


勝負は拮抗した。


二勝。


二敗。


そして――


一分け。


最後の一局は、

エリンが少し手加減したような気もしたけれど……


たぶん気のせいだろう。


◆◆◆


かなり時間が経っていた。


そろそろ終わりにする時間だ。


こくり、こくり。


双子は――


もう舟を漕いでいた。


こういう遊びには、まだ興味なし。


やっぱり、まだ早かったのかしら。


「今日はここまでにしましょう」


「最後に、お前とも一局やりたかったのだが」


魔王が私を見る。


「私はいいです」


「見ている方が面白いので」


「これ、広めてもよさそうだな」


魔王が言った。


ギルガオンを呼んで、普及についても話してみるという。


おそらく――


次の相手はギルガオンだ。


「母上の作ったゲーム、面白いです」


エリンが笑う。


家族と一緒に過ごす時間だから、

余計に楽しいのかもしれなかった。


魔王とエリンが後片づけを始める。


双子は眠たそうに目をこすりながら、

その様子をぼんやり眺めていた。


その時――


ふと。


考えがよぎった。


(……この子たちが後で中ボスで――)


(私がラスボス?)


私は息を呑んだ。


それなら――


魔王は?

あの人は、どこで消えるの?


胸の奥が、ひやりと冷えた。


魔王が振り返る。


「どうした?」


私は何も言わず、彼に近づいた。


そして――


抱きつく。


その肩に顔を埋める。


それから――


小さく言った。


「絶対に、あなたを失いません」


私はさらに強く抱き締めた。


「サンタがいなかったら……」


「そんなの、クリスマスじゃありませんから」


私のサンタ。


私の夫。


私に子どもたちをくれた人。


この人を失わせるわけにはいかない。


解決策を見つけなければならない。

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