第77話 完璧すぎる補佐
「ルウェンと申します。魔王様、魔王妃様にご挨拶申し上げます」
……妙に、綺麗すぎる女だった。
……言い方は悪いけど。
――美しい悪女だ。
そんな印象だった。
私はルウェンを見つめた。
マハトラが以前言っていた。
自分の補佐として新しい人間が来ると。
だから当然、男だと思っていた。
ところが――女だった。
紫がかった髪に、茶色の瞳。
鋭く、感情の読めない目をしていた。
年齢は二十代半ばくらい。
背が高く、細身。
そして何より。
冷たい雰囲気があった。
「魔王城の執事の座を任される日まで、精一杯務めます」
……ん?
どういう意味?
私は首をかしげた。
執事ってマハトラじゃなかった?
まさか。
マハトラ、クビになるの?
魔王が口を開いた。
「マハトラはこれまでよく働いてきた。すぐに解任するつもりはない」
「だが、そなたの一族の意向は確かに受け取った。今後検討しよう」
ああ。
知らないところで、そんな話が進んでいたらしい。
「そなたを副執事に任命する」
「マハトラと共に、魔王城の管理に尽くせ」
「かしこまりました」
ルウェンは頭を下げた。
だが――
彼女は――最後まで、私を見なかった。
言葉の上では私にも挨拶した。
けれど、
視線も意識も向けていたのは魔王だけだった。
やがて。
マハトラがルウェンを連れて部屋を出ていく。
(……妙な人)
マハトラとはまた違う。
どこか、変わった女だった。
でも。
(まあ、いいか)
今の私の頭は
別のことでいっぱいだった。
クリスマスの準備。
それから
侍女教育計画。
クリスマスはマハトラ。
教育はルウェン。
私は報告だけ受ければいいのね。
……これが、上に立つってことなの?
計画は私が立てる。
実務は部下がやる。
「じゃあ、私たちはクリスマスの準備をしましょう」
私は魔王の手を取った。
家族みんなで楽しめるようにしなきゃ。
クリスマスは、もう遠くない。
その時。
魔王がふと思い出したように言った。
「そういえば」
「先ほど来たルウェンという女だが」
「そなたから見てどう思う?」
同じ女として
何か感じるものがあるか、ということだろう。
「仕事はできそうですね」
「でも、さっきの執事交代の話って何ですか?」
「彼女の一族がマハトラの交代を求めてきた」
「そうなんですか」
マハトラ、危なかったのね。
……もしかして。
私のせいじゃないわよね?
私は何もしてない。
……いや。
何もしてない、わけでもないのか。
「そなたはどう思う?」
「まだ、よく分かりません」
マハトラは少し面倒な人だけど。
だからといって
交代を考えたことはなかった。
問題はその先だ。
マハトラが退けば。
次の執事も
結局ライカン・スロープ一族になる。
そして今の候補は。
――ルウェン。
魔王が書類を差し出した。
「これはあの女の履歴書だ」
私はそれをざっと目で追った。
(ふーん)
悪くない。
……いや。
かなりいい。
日本で言えば。
東大首席レベルの天才。
「書類の上では問題がなかったので受け入れた」
「そなたから見てどうだ?」
「私から見ても、特に問題はなさそうです」
書類上は完璧だった。
だけど。
最初に顔を合わせた瞬間から――
ルウェンという女が、
どうにも引っかかっていた。




